500年の時を経て目覚めた聖騎士。
004
「さて......棺を運び出せ......」
この世界とはまったく異質な建物の中で......この世界では建物はレンガか木材で造られているのが常だったが......しかしここはすべて鋼鉄で造られていた......
もちろんこの異世界でも鉄は武器や鎧を作るために使われており、特別珍しいものではなかった。
ただ......鉄はどちらかといえば武器や農具に使われることがほとんどだった......
「マルガム様......これは......本当に"あの方"の棺で間違いないのでしょうか?」
若い魔法使いが尋ねた......準備を進めていた老魔法使いが口を開いた......
「ジェポンネの情報屋の話が本当なら......間違いあるまい......」
若い魔法使いが四人がかりで、白かったが今はすっかり茶色くなった棺を荷車から降ろした......
「ふう!......まあ棺の見た目はどうあれ......あの狡猾な司書からの情報なら......間違いはないだろう......」
「それより今は......目の前のことに集中しろ......」
「はっ......」
四人の若い魔法使いが棺を開けようとしたとき......マルガムという名の魔法使いが制止した。
「待て......こういうものは......先に対策を講じておくものだ......」
彼は両手を広げ合わせた。小さなエネルギーの球が生まれ、彼はそれを細かく砕いて粉にした......
「わしの推測に過ぎんがな......何も考えずに棺を開ければ......毒が仕掛けてある可能性もある」
彼は紫色の粉を手に取り、弟子四人の顔に塗り、それから自分の顔にも塗った......
「毒ですか!?」
「ああ......昔の上流階級は、棺に埋葬する際に宝を一緒に入れる習わしがあった。そのせいで墓荒らしが現れ、宝を売りさばくようになった......それで後々、墓荒らしを防ぐために毒の仕掛けが設けられるようになったのだ......」
四人の若い魔法使いは顔を見合わせた......しかし師の魔法が毒から守ってくれると信じて疑わなかった......
「さあ......皆の衆、早く棺を開けろ」
四人はぐっと息をのんで顔を見合わせ、ゆっくりと棺の蓋を持ち上げた......
ギィ......
聞いたことのない音だった......恐ろしい気持ちもあったが、心のどこかでは......まあやってしまえ、魔法の防護があるんだし......と思っていた......
蓋が半分ほど開いた瞬間......この時代のものとも、この世界のものとも思えない小さな装置が二つ飛び出してきた......
それは小さな鉄の棒で、ゆっくりと棺の中から伸び出し......紫色の煙を噴き出した......
シュッ!!
「うわっ!!!」
魔法使いたちはすぐにそれが毒だとわかった......逃げようとしたが......マルガムが魔法で防護してくれていたことを思い出した......
「大丈夫だ......さあ......その装置を持ってこい......」
最初からマルガムと話していた若い魔法使いが、大きな釘に似た奇妙な形の装置を差し出した......
これもまた同じ情報屋から仕入れたものだった。
「この装置にわしの魔法を刻み込めば......わが国は必ずや最強の国になれると確信しておる......」
彼は釘を手に取り、毒煙が完全に消えた後、棺の中の遺体を確かめた......遺体は相変わらず腐ったミイラのままだった......
腐敗した死体の臭いが部屋中に漂った......その場にいた全員がすぐに臭いを遮断する魔法を唱えた......
「おかしいな......宝が何もないとは......おかしい、実におかしい......」
普通の人間の棺なら特に驚くことはないかもしれない。しかしこれは上流階級......元聖騎士の棺なのだから。
「ふむ......墓荒らしの仕業だろうな。それはあとで調べるとしよう......」
七王国同盟の法律には、埋葬された宝あるいは百年以内に書面上の持ち主が現れない宝は国の所有物となり、それを売って捕まれば即座に死刑に処される、という条文があった。
そのため......もし誰かがそういった宝を見つけた場合、その王国が宝を査定し、半分を報奨金として与えることになっていた。
大半の盗賊はそれなら七王国同盟の外か、普通の街のある別の王国に持ち込んで売ればいいと考えるようになった。
それがここ数百年にわたる盗賊業の隆盛につながっていた。
マルガムは手に入れた釘を......魂なき遺体の頭蓋骨に突き刺した......
「さあ......始めるぞ......」
四人が頷き......魂なき遺体へと手を差し伸べ始めた......
もともと彼らは精神操作魔法を使う魔法使いだった。しかし彼らが今使おうとしているのは......最も危険で扱いが難しい古代禁断の魔法、生命体を蘇らせる呪術だった......
先に述べたように、この世界の人間が使える魔法はひとつの属性のみ。しかし他の種類の魔法を熟練すれば、複数の魔法を使えるようになる。
そして魔法を習得するためには......手助けが必要だった......
「密売人から手に入れた古代魔法書ゼングラフのおかげで......われわれは伝説級の魔法の使い方を学ぶことができたのだ......」
マルガムは最大限の誇りとともに言った......
「とはいえ......たった十日で習得したにもかかわらず......わしの弟子たちはその真髄を完全に身につけてみせた......実に見事だ......」
彼は四人の弟子を称えた......四人も謹んでその言葉を受け取った......
「時が来た......」
マルガムの合図と同時に白い光が現れた......四人の若い魔法使いは今この瞬間、目の前の魂なき遺体に全神経を集中させていた。
短いといえば短いが、この十日間はこれを成功させるために費やした甲斐のある時間だった......
聖騎士初代、白銀騎士の首将......ウィリアム・クレイ・アンダーソンを蘇らせる計画が、今まさに動き出していた。
部屋が激しく揺れ始めた......
「落ち着け......絶対に失敗は許されんぞ......」
「あの......でも......」
「よく聞け......これが成功すれば、わが国の軍はいかなる王国をも凌ぐほど栄えるだろう......」
「は......はい!!」
「......よし......魔力をさらに注ぎ込め......」
マルガムを除く四人の魔法使いが、部屋の中央に横たわる腐敗した遺体へと手を向けた......
青い光が、腐敗した遺体の上で閃いた......
「あああああああ!!!!!」
遺体の苦悶の叫びが響き渡った......四人の魔法使いは手を止めようとした......しかしマルガムが制した。
「絶対に手を止めるな!......"彼"がどれほど苦しもうとも!!」
「了解!!」
魂なき遺体の絶叫はますます大きくなっていった......四人は心の中で、もし自分があんな叫び声を上げたら声帯がとっくに潰れているだろうと思わずにはいられなかった......
青い光がさらに激しく輝き始め......目に当たる光はあまりにも強く、あたり一面が白一色に染まりそうなほどだった......
閃光!
老魔法使いはその光景をこの上ない喜びとともに見つめていた......
光がゆっくりと薄れていくと......先ほどまで魂なき遺体だったものが、奇跡のように"人間"へと変わっていた......
「信じられない......」
マルガムはその"人間"を目にするや、すぐさま膝をつき、深々と頭を垂れた......
それを見た四人の若い魔法使いたちは驚愕した......師であり、王国第二位の宮廷魔法使いたるマルガムが、王でもない者に膝をつくとは、夢にも思わなかったからだ......
「ただの噂だと思っていた......しかし貴方は......本当に実在された......」
ほんの二秒前まで腐り果てた臭う亡骸に過ぎなかった若い男が......今や、王国第二位の宮廷魔法使いでさえもひれ伏す存在となっていた......
「メディア大陸の伝説の聖騎士初代......ウィリアム様!」
「.....................」
先ほどまで生気のない干からびた遺体だった若い男が......今やその命を取り戻していた......
体の動き、身のこなし、再び刻み始めた心臓の鼓動......まるで生まれたばかりの人間のようだった......
「......ここは......どこだ......」
同じ言語を話していても......声の質と発音はわずかに異なっていた。
「お帰りなさいませ、ウィリアム様......」
「お帰りなさいませ......」
五人の魔法使いが初代聖騎士の前に跪いた......
「われわれはご奉仕する所存にございます......」
ウィリアムは棺から立ち上がった。魔法使いたちが用意した衣服をまとい、左右を見渡した......
「ここはご復活のためにわれわれが用意した秘密の部屋にございます......」
ウィリアムは魔法使いたちの言葉にはまったく耳を貸さず......棺の中を何かを探すように確かめた。
「あの......申し訳ありませんが......棺の中には何も入っていませんでした......」
「何......」
彼の声は深く低かった......怒りがその声ににじみ出ていた......五人の魔法使いは思わず身を竦めた......
「宝石だ......妻のものだ......」
「宝石......?」
マルガムは戸惑った......ウィリアムが何の話をしているのかわからなかった......
「ロイヤルリボン......妻のイヤリングだ......妻への、ただ一つの贈り物だ!!!」
「あの......それはさておきましょう......今や貴方はお戻りになられた......わが国の軍をお率いいただければ......」
四人のうちの一人がそう言った......ウィリアムはその者に歩み寄り......手でその喉を力強く掴んだ......
まずいと察したマルガムが精神操作魔法を使おうとした......しかし......
ウィリアムはその若い魔法使いを彼らの方へと投げ飛ばした。
「うわっ!!!!」
そしてウィリアムはすぐさまその部屋から走り出た......
「まずい......追え!!!」
「了解!!!」
ウィリアムは前方へと走った。出口がどこかもわからなかったが......幸いこの建物はそれほど複雑な造りではなかったため、難なく出口の扉を見つけることができた......
躊躇わず、鉄扉を蹴破った......と、そこはある路地だった......
「こちらだ!......」
ウィリアムは大通りへと走り出た......そして街の中央で足を止めた......
「......街が......変わっている......」
どうすればいいかわからなかった......自分が眠っていた間に長い年月が流れ......五百年前とは比べものにならないほど街が変わり果てていることを実感したのだ......
「ご主人様!......貴方は五百年の眠りの後に蘇られました......わが国はぜひとも貴方の力と能力を必要としております......」
マルガムとやり取りをしていた若い魔法使いが懸命に説得を試みた......
しかしそれはまったく逆効果だった......
「............」
それを聞いたウィリアムはすぐさま走り出した。
「ちょっと待ってください!!」
彼は即座に建物の屋根へと跳び上がった......魔法使いたちも休まず追いかけてきた。
「はあ......はあ......探さなければ......必ず......見つけ出す......」
どこへ向かうべきかわからなかった。しかしここではないことだけは確かだった......そして運命が彼に悪戯をした。
「あそこにいるぞ......早くしろ!」
「やれやれ!」
村人たちの騒がしい声が街中に響き渡った......ウィリアムはとっさに魔法使いたちが村人に知らせて追わせているのかと思ったが......どうやらそうではないらしかった。
それと同時に爆発音が轟いた......ドン!!!
「何事だ......だがこれは好機だ......」
ウィリアムはすぐさま別の道へと逃れた......建物から建物へと飛び移り......やがて仕立て屋の前に辿り着いた......そしてそこで......自分のスカートを引き裂いている金髪の少女を目にした......
ウィリアムの目が大きく開いた......遠くはなかったが......その瞬間、彼には誰よりもよく見知った顔だとわかった......
自分が心の底から愛した人......
「ケイシー......なのか?」
彼の唯一の妻......目の前でいたぶられ、無残に殺されるのを見届けるしかなかった、あの人......
「......お前は......まだ......生きているのか......」