飛んで逃げたら、賊の巣窟にたどり着いた
002
「あそこにいるぞ......早くしろ!」
「やれやれ!」
私はファンタジー世界の中世の街の路地を走っていた......処刑を見物しに来ていた村人たちが、絶え間なく私の後を追いかけてくる......
「もう......まるでゾンビ映画じゃないの......ふんっ!」
私は集中した......そしてもう一度魔法を使った......魔法を使う感覚というのは、トイレで用を足すのに似ている......体の中で何かが常に動いているような、まるで百万匹の虫が全身を這い回るような感覚がして......魔法を体に集めてから解き放つのは、まさにその準備を整えるのと同じだった。
火の玉魔法が再び手の中に現れた......今度は飛び出した店の屋根に向けて放った......
ドン!!
爆発音が辺り一帯に響き渡った......爆発した木の屋根が崩れ落ち、村人たちの通り道を塞いだ......
「助けてくれ!あの女が処刑から逃げている......」
村人の一人が叫んだ......街の人々が私を振り返り始めた。
「ふざけんな......(Fuck off)」
がっしりした体格の村人が私を捕まえようと前に回り込んできた......しかし私は火の玉魔法を周りのレンガ壁に向けて放ち......その中に飛び込んだ。
「頭を使うってこういうことよ!」
私は建物の中へ走り込んだ......目の前の光景に呆然と立ち尽くす大柄な男の顔を横目に......
「あははは......うわっ!」
前を見ずに走っていたせいで......仕立て屋のカウンターに激突し、そのまま後ろへ宙返りして店の奥まで転がり込んだ。
「......よう」
店の主人らしきおじさんが、呆然とした目で私を見つめていた......
「えっと......私、クロエっていうんだけど」
「...............」
「かくまってほしくて......」
おじさんが口を開こうとした......
「ちょっとちょっとちょっと!......考えないでよ......」
でも耳が遠いらしく......思いっきり叫んだ......
「中にいるぞ!!」
「おじさん、マジで!!」
私は急いでカウンターから飛び出し......店の裏へと向かった......しかし裏口のドアを開けると......
「あ......」
私を追いかけていた村人たちと、ばっちり目が合った。
「おい!こっちにいたぞ!!」
「ふざけんな!!(Fuck off)」
私は急いで前へ引き返した......しかしさっきの大柄な男がまた立ちふさがっていた......
「よう......ブラックウッド卿の手下か......(ロバート・ダウニー・Jr.版シャーロック・ホームズの悪役)」
「...............」
大柄な男は自分のシャツを引き裂いた......そして床からポンドハンマーを掴み上げた......
「ねえ......話し合いできるよね?オーケー?......私、最初から何もしてない......濡れ衣なんだって......オーケー?」
しかし大柄な男は聞く耳を持たなかった......私の頭より大きなポンドハンマーを即座に振り下ろしてきた......
「ちょっと!!」
私は急いで飛び退いた......ハンマーは仕立て屋の木の床を粉砕した......
もし避けていなかったら......肉塊になっていたのは確実だった......
「お願いだから......少しは加減してよ......私はただの女の子だって思ってよ......」
大柄な男はポンドハンマーを横に薙ぎ払ってきた......しかしこれも難なくかわした......
「もう!......」
私は近くにあった小さなハンマーを掴み......彼に向かって投げつけた......
小さなハンマーは彼の胸に当たった......そして床に落ちた......
「この人、人間なの?ロボットなの?......」
大柄な男は拳を固めて私に向かって殴りかかってきた......私は両腕で胸と顔をガードした......
そして頭と同じくらい大きな拳が、全力で私の体に叩き込まれた......
「ぐあっ!!!」
筋肉を鍛えたボクサーの拳の力は銃弾やトラックの衝突と同等だと聞いたことがある......この大柄な男の場合、それはまさに小型トラックが胸に直撃したのと同じだった......
私は異世界で荷物トラックに轢かれるという、望んでもいなかった体験を、今まさに味わっていた。
私は店の中央まで吹き飛ばされた......そこには木の柱が立っていたおかげで、外まで飛び出さずに済んだ......
「もう......痛い......死ぬほど痛い......」
生まれて初めての経験だった......骨が折れたのは間違いなかった......
しかし......
「ふんっ......」
私は両手を広げた......緑色の光が全身を包んだ......傷ついた体が......元の状態へと戻り始めた......
「あ......くっ......痛っ!!!」
クロエはその身に希少な魔法を宿していた......それはあらゆる系統の魔法を使えるという能力だった......
このマンガの世界では通常、魔法使いは一つの属性魔法しか使えない......火属性、氷属性、といった具合に......
そして回復魔法は貴族の医師だけが使えるものだった......だからこそクロエはこの世界で最も特別な存在の一人だったのだ......
「ふんっ......」
私は急いで立ち上がった......私が自分を治癒するのを見た大柄な男は、もう一度目をこすって確かめた......
「......悪いけど......私、普通の女の子じゃないから」
「クロエ・アンダーソン!!」
ヘレニ 王子の声だった......彼は馬を駆って店の前で止まった......
「降伏しろ......さもなくば死ね......」
彼が剣を抜くと同時に、兵士たちが一斉に建物を取り囲んだ......
「王子殿下......もう一度申し上げます......私は浮気などしておりません......」
「最後の言葉かと思えば......結局は悪魔の言い訳に過ぎないか!」
もう!だから違うって言ってるでしょ!!
「聞いてくれないんですね!私たちはかつて婚約者同士だったのに......」
「黙れ!......そのような口を利く権利はお前にはない!お前はただの淫売に過ぎぬ......わたしはこのレギュラー王国の王子だぞ!」
ああ......そういうことか......マンガにはこんなセリフはなかったけれど......それでも私には、なぜクロエが王子に事情を説明しようとせず、いつも刺客や兵士に追い回されてばかりで、マンガのエピソードがやたら多くなるのかが、すぐにわかった......
説明しても無駄だとわかっていたからだ......金の匙をくわえて生まれてきたような王子は、我儘が極まりないのだから......
だからこそ彼女は、ルイスという心優しい貴族を心の底から愛していたのだ......読者からすれば、クロエはとてつもなく幸運だと思えた......私もそう思っていたけれど。
さっき私を殴った大柄な男が再び突進してきた......私は怒り心頭のまま、純粋な拳に怒りのすべてを込めて......一撃で彼の顔面を叩き、そのまま気絶させた......
その場にいた全員が、一瞬動きを止めた......
「全然話を聞く気がないってわけね?」
こんな男が街の女たちの憧れの的なのか......そんな男をもらった人はおめでとう......でも私は御免だ......
私はルイスという名の貴族を見つけなければならない......そうすれば、ようやく彼と幸せになれるのだから。
「じゃあ......簡単な提案をするわ......私が街を出て行く......あなたたちはこのことを忘れる......」
「兵士!!」
兵士たちが一斉に剣を抜いて私に向けた......私は上を見上げた......
「もうどうにでもなれ......ジャービス!......飛ぶわよ!!」
私は両手を地面につけた......爆発が炎の流れとなって広がり......ゆっくりと私の体を地面から押し上げた......
ひゅっ!......火属性魔法を噴射して、私はこの連中から逃げるべく空へと舞い上がった......
「は?」
「え?」
「やったあ!......巣立ちの時間よ!!......」
私は大きくて壮観な街並みの上空を飛んでいた......しかし喜んでいられたのもつかの間......
「ちょっと待って......これ、どうやって飛んでるの......」
マンガの中のクロエは、魔法でこんなことができるとは知らなかったらしい......だから私もこの使い方についての情報を事前に持っていなかった......
私は二分も経たないうちに空中に浮かんだまま動けなくなり......やがて猛スピードで地面へと落下し始めた......
「きゃああああ!!!!」
私は必死に頭を絞って、何でもいいから自分を守れる魔法を使おうとした......しかしクロエはあまり魔法の訓練を積んでいなかったようで......基本的な魔法しか使えなかった......魔法が使えるといっても、種類ごとに鍛え方が違うのだから、すぐに思い通りに使えるわけではなかった......
「嫌だ嫌だ嫌だ!!絶対嫌!!」
私はきつく目を閉じた......今日だけでいったい何と遭遇してきたというのか!!
地面が見えるところまで落下したとき......地面に藁の山があるのが見えた......私はゆっくりと......空中で体を調整して、藁の山の上へ落ちるようにした......
そう......そう......いいぞ......よし!!
ドシン!!......無事に着地した......しかし藁の山の上ではなく......誰かの家の中だった......
「痛っ......」
ガヤガヤとした声が聞こえてきた......何を話しているのかわからなかったけれど......きっと私のことだろう......
頭がくらくらする......もう限界だ......少しだけ眠らせて......
―――
「うん......んー......」
どのくらい眠っていたのかわからないまま......私はゆっくりと目を開けた......
「あ......起きた......」
「きゃあああ!!!」
村人たちに追い回された恐怖がまだ抜けていなかったせいで、私は思いっきり大声を出してしまった。
「ちょっと!......落ち着いて......もう安全だから......オーケー?」
目の前には女の子が三人、ベッドに横たわる私のそばに座って見守っていた......
「.....................」
「あの......その......あんた......空から落ちてきて......うちの屋根をぶち抜いて......気絶したんだけど......覚えてる?」
ピンク色のツインテールの女の子が顔を近づけてそう言った......
「あ......ここは......どこ......」
「スラム......つまり盗賊の巣ってこと」
「え!!」
私は急いでベッドから飛び起きた......しかし三人が私を引き止めた......
「ちょっとちょっと!......落ち着いてよ......空から落ちてきたばかりでしょ......おまけにうちの家もぶっ壊してくれたし......」
この子の言う通りではあった......
「ごめんなさい......わざとじゃなかったんだけど......」
「じゃあこうしましょう、クロエ......あんたはうちの家を修理するお金を用意しなきゃならないからね......」
「あ......うん......そうしないとね......え?」
ちょっと待って......なんでこの子がクロエを知ってるの......しかも......この子......マンガには全然出てこなかったはずだけど......
「ねえ......あなた......私のこと知ってるの?」
「え!?......私よ......私!」
まるで電話詐欺師みたいな話し方だ。
「誰......?」
「マジで聞いてるの!?......幼なじみの私を忘れたってこと?」
そんな子いたっけ?......ちょっと待って......頭の中に新しい記憶が流れ込んでくる......四人で路地を走り回っている映像が......しかも何か手に持って......
「リボン?」
「そう!......私よ......リボンよ......」
誰がリボンなんて名前つけるのよ?
「で、日焼けした肌に金髪のあなたが......マベル......そしてピンクの浴衣を着たあなたが......ヒメコ......」
二人は頷いた......本当に?......こんなことマンガには一切なかったのに......
「さあ!......ゆっくり休んで......うちの家の修理代を用意する準備しておいてよね......」
どうやらルイスという貴族に簡単に会えそうにはなかった......
「はあ......ふざけんな(Fuck off)」