婚約破棄系のマンガの世界に閉じ込められたと思ったら、処刑までされるの!?
001
ガタンゴトン......
地下鉄の音が私の耳に響いていた......ある路線の車両の中で......仕事で疲れ果てた私は、漫画を読んで時間を潰すことしかできなかった......
これまでの人生、たいして良いこともなかった......卒業してからは平凡な会社に就職し、おまけに仕事を人に押しつける口の悪い上司までついてきた。
付き合い始めたばかりの彼氏は浮気をするし......
二日間病欠しただけで降格させられるし。
顔の良い同僚と話しただけで、淫らな女と陰口を叩かれるし。
両親も、私のことをそれほど気にかけてくれない。
東京......充実した素晴らしい生活......誰かがそう言っていたけれど......そんな風に感じたことは一度もない。
「はあ......」
私はページをめくりながら、漫画のヒロインを羨ましそうに見つめた。
「まったく......クロエ・アンダーソン......美しい王子様に婚約を破棄されたというのに......顔の整った貴族にまた求婚されるなんて......運が良すぎるでしょ......」
こんなことを声に出して言えたのも、車両に私しかいなかったからだ......だからどれだけ大きな声を出しても構わなかった。それでもそこまで大きくはなかったけれど。
私が読んでいた漫画は、市販でよく見かける婚約破棄ものヒロイン漫画だった......何を読もうか迷って、とりあえず二冊ほど買ってみたのだ......なかなか面白かった......
「もし私にも白馬の王子様が守ってくれるなら......こんな惨めな仕事をしなくて済んだのに......」
私は本を閉じながら愚痴をこぼした......
「......もっとまともな人生を送りたいな......」
パソコンを見続けた目の疲れが出てきて、私は目を閉じた......
「ふざけんな......(Fuck off)」
ついつい口をついて出る言葉を呟いた。不運なことがあるたびに言ってしまう癖だ......
「...............」
そしてそのまま......ふわりと眠りに落ちた......
腰が痛い......いや......なんか変な感じで体が痛い......
「やれやれ!」
ん?......やれやれ......って何が......それにこの声は何?......誰かが工事でもしてるの?......それはないか......だって電車の中にいるんだし......
あれ......電車......もしかして私、まだ寝てるの!?......今どの駅まで来てるの!?
「こんな淫らな女は処刑されて当然だ!!」
何......?なんで誰かが罵倒してるの......?
「...............」
私は目を開けた......そして即座に混乱した。
「え?」
私は電車の壁にもたれて眠っていたはずじゃ?しかも夜の時間帯だったはずなのに......なんで今、中世風の服を着た人々が溢れる街の真ん中にいるの?
「あの......お兄さん......」
私は隣に立っている男性を見た......彼は一瞬こちらを見て、また前を向いた......
「なんでみんな私に向かって叫んでるの?......」
彼女は左右を見回しながら考えた......
「やっぱり漫画の読みすぎね......もう少し寝よう......」
仕事で疲れすぎてて、変な夢を見ているのかもしれない......
私はもう一度目を閉じようとした......でもあることが気になった......
「あれ?......ってか......なんで喉が変に痛いんだろ......」
私は周りを見渡した......そしてあることに気が付いた......
「きゃあ!!......なんで私、いつの間にかギロチンに固定されてるの!!!」
自分が処刑されようとしていることに気づくまでに十分以上かかっていた......正直に言うと、本当に今この瞬間に気づいたのだ......
「皆様!......時が来ました!!これより......レグラ王国は......クロエ・アンダーソンの処刑を執行します!罪状は......ヘレン王子殿下との婚約中における重大な不貞行為!!!」
「はあ!!???」
私は思い切り叫んだ......当然だ......目が覚めたら処刑されるなんて......望んでいい経験じゃない......
しかも......
私の名前が......読んでいた漫画のヒロインと同じじゃない!
もしかして私......婚約破棄ものの漫画の世界に転生したの!?
「王陛下、女王陛下、そして王子殿下のご到着です!!」
さっきまで私を追い出そうとしていた町の人々が、その三人に向かって手を叩き称賛し始めた......
「あれが......ヘレン王子よ!」
ヘレン王子......漫画の冒頭でクロエの婚約を破棄した人物......
ヘレン王子は処刑台に縛り付けられた私を、まるでゴミを見るような目で見つめた......
私は......いったい何をしでかしたというの......
漫画の中では......クロエはただ婚約を破棄されて、宮殿から追い出されるだけのはずじゃ......処刑なんて物騒な話は一切なかったはず......
ヒロインが美しい貴族ルイスと恋をする、ただの婚約破棄ものの漫画だったはずなのに......
「......クロエ・アンダーソン!」
王が大声で叫んだ......
「そなたはわが息子を騙した卑しい淫売よ......そのような者への最高の罰は......処刑のみ!!」
「そうだ!!」
王の宣言の後、村人たちは歓声を上げ始めた......
「さっさと首を切れええ!!!」
一人の男が叫んだ......急かさなくてもいいじゃない!!
二人の処刑人が斧を持ち上げ、私の首を切ろうと構えた......なんか変だとは思ったけれど、処刑台はギロチンのような形をしているのに、首を切る大きな刃はついていない......
斧が振り上げられた瞬間......私は必死に頭を回転させた......
私はきつく目を閉じた......あまり気にかけてくれない父と母の顔を思い浮かべながら......
でも......ここで死ぬわけにはいかない......
「止まれ!!!」
私が叫ぶと......全員が止まった......
「あの......よく聞いてほしいんだけど......私が誰なのかはよく分からない......でも断言できる、私は浮気なんて何もしていない......婚約破棄されたのは、王陛下が平民である私の顔が気に入らなかっただけでしょ!!!」
私は思い切り言い返した。
「きさま......」
王が拳を握りしめ、歯を食いしばった......この世界が漫画の内容なのかどうかは分からないけれど......王のリアクションがあんな感じなら、私が言ったことは事実に違いない......
「父上にそんな口を利くな!!」
ヘレン王子が私に剣を向けた......私も負けじと彼を睨みつけた......
「そなたは......余以外の男を見た淫売だ!......他の男と寝ておきながら、余の父上を批判するとはどういう了見だ!!......」
まったく......顔がいいからって何様のつもりよ。
「よく聞いてください、王子殿下......私は殿下が仰るような淫売では断じてありません......」
「違うはずがない!下僕がそなたを......ふん!......他の男と楽しそうに情を交わしているのを目撃しているのだ!」
ちょっと待って!......これは違う!......王子が言っていることは漫画の内容と完全に一致している......ということは、私は本当に何もしていないということが確認できたじゃない......
「わかった!!私は悪くない......早く私を解放しなさい......さもないとあなたたちは全員殺されるわよ。」
全員が私を睨みつけた......クロエ・アンダーソンが何ができるのか、まだ分かっていないようね......
この漫画の世界は......純粋なファンタジーの世界で転生なんてない......もちろん魔法が存在する......
そしてヒロインのクロエも魔法を持っていた......
確か......この世界では貴族と魔術師と上流階級だけが魔法を使えた......でも平民でも生まれつき魔法を持って生まれることがある......ただしそれはごく稀だった......そういった人々は軍に徴兵されるか、貴族や王族との結婚を強いられた......魔法を持つ者は純粋な血統を持つ者とされ、高い地位にふさわしいとされていたから......
クロエはヒロインだから......魔法が使えた......
クロエの体に目覚めてから二十分......彼女の記憶が少しずつ私の脳に流れ込んできていた......
その中には魔法の使い方も含まれていた......
「いい?二人とも、早く私を解放しなさい......さもないと殺すわよ」
二人の処刑人は顔を見合わせてから聞いた......
「どうやって?」
「すぐ分かるわ......アイアンマン3を見たことある?......ね?......見たことある?......あんな感じになるわよ」
「だから何だ......お前は処刑台に縛られてるんだぞ......」
私は両手を広げて二人に見せた。
「これよ!......ドカン!」
処刑人の二人は顔を見合わせて......笑い出した......
「いい?......数えるわよ......一になったらあなたは死ぬ......五......四......三......ドカン!!」
二人はまた顔を見合わせながら呟いた......
「なんで俺たちこいつを処刑しないといけないんだ......」
「よく見ておきなさい......逃げられるなら逃げなさい......武器も置いて......五......四......」
「頭がおかしいんじゃないか......」
「おい!!」
遠くから王が叫んだ......
「早く処刑しろ、腹が減った!!!」
「......最後の警告よ......」
「はいはい......偉いね......もう一回数えてみなさいよ......一になったら首が肩から落ちる、保証するよ......」
「じゃあそれでいい......五四三二一!!ドカン!!!」
その瞬間......私の手の上に炎の魔法の玉が現れた......そしてそれは右手の拘束具を爆発させて外してしまった......
「だから言ったじゃない......」
そして私は残りの拘束具を爆発で壊してから、路地へと走り込んだ......
「おい!......」
王は顔を真っ赤にして激怒した......椅子を思い切り叩きながら剣を抜いて大声で宣言した!
「あの淫売を捕まえてこい......生死を問わん、必ず連れてこい!!!」
「了解!!」
父王の命令を聞いた王子はすぐさま剣を掴んで、座っていた場所から飛び降りて馬に乗り、路地の中へと追いかけていった......
「......まったく......どこで知ったというのだ......」
王は独り言を言うように、小さな声で呟いた......
「だからこそ、あの女を一刻も早く始末しなければならん......」