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第39話 兆し

地方の高速道路 | 深夜2時過ぎ

とある商社に勤める男は、顧客からのクレームに対応するため、トランクに代替品を載せ、深夜の高速道路を西へ向かっていた。

朝一番にこの部品がなくては工場のラインが止まってしまう。
そう連絡を受けたのは夜の8時過ぎ。

今からでは飛行機も間に合わない。
仕方なく自らの運転で遠方の工場まで部品を運ぶ羽目になっていた。

窓の外は暗く、等間隔に並ぶ街灯だけが路面を照らしていた。

長時間の運転で瞼は重い。それでも男は意識を保とうと、ラジオの音量を少し上げ、眠気をごまかしながらハンドルを握り続けていた。

その時だった。

ドアミラー越しに2つの白いライトが映る。
かなり後方だったはずの車は、数秒もしないうちに距離を詰め、猛烈な勢いで迫ってきた。

その車の速度は男の目を覚ますには十分であった。
ハンドルを握る手に力を込め、追い越しの際に生じる風圧に備えていたのだが......。

いつまで経っても横を通り過ぎない。
不思議に思って再びミラーを見ると、そこには何も映っていなかった。

***

某都市の繁華街 |金曜日の夜

駅前の繁華街は仕事帰りの会社員たちで賑わっていた。

さまざまな形態の居酒屋がひしめき合うその一角、このエリアでは中規模と思われる居酒屋の前には、この店の案内役の男が立っていた。

条例により客の呼び込みは禁止されているが、客から声をかけられればその限りでない。

だからこの男は呼び込みをしない。

喉を潤す店を探す会社員は、この男に空席を尋ねれば店の中を覗く手間が省け、男は声をかけられれば自分の店を目一杯アピールできる。

もちろん断られれば深追いはしない。
そうやって成り立っていた。

この日も会社員に空席を尋ねられ、ドリンクを1杯サービスすることを条件に、この3人組の会社員を案内することができた。

手に持っていた荷物を受け取ると、そのまま先に立って店内に案内する。

「お客様3名です!」

いつものように入店を告げるが、迎えたのは困惑した顔のアルバイトたち。

「あの......お客様はどちらに?」

さっき預かった客の手荷物を持ったまま振り返るが、すぐ後ろにいたはずの3人組は跡形もなく消えていた。

***

とある観光地 | 早朝

この観光地では観光客によるごみ問題に頭を悩ませていた。

住民から寄せられる苦情はごみ問題だけにとどまらない。観光客を優先するあまり、生活全般に不便を強いられている住民は不満を募らせていた。

観光客と地域住民、両者に満足してもらうにはどうすればよいのか。

会議を重ねた結果、とある職員からのアイデアで、観光地内のごみ拾いをイベント化することになった。

当日のごみ拾いイベントには多くの参加者が集まり、イベントは成功するかに思えたが、思いもよらないことが起こる。

「ちょっと、どうなってるんだ!?」

あちこちに散乱していたごみは、職員がイベントの説明をしている間に、いつの間にか全て跡形もなく消えていた。

***

遠藤キャスターの個人チャンネル【テレビでは言えない〇〇話】より

みなさん、こんにちは。遠藤です。

いつもの噂話を期待されている方には大変申し訳ないのですが、今回はここ最近増えている不可解な事件について取り上げたいと思います。

まず、こちらの3件をご覧ください。

1件目
深夜の高速道路を走っている車

2件目
繁華街にいたはずの3人組の会社員

3件目
観光地内に散乱していたごみ

一見なんの関連もないこの3件ですが、実は3件とも不可解な事件に巻き込まれたものたちなんです。

その事件とは――突然存在が消えてしまう、いわゆる神隠しです。

しかしこれらの事件はどこにも取り上げられません。

なにかが突然消えるなどというあり得ない現象を真面目に検証するよりも、見間違い、勘違い、気のせい、などと言う現実に即した結論にあてはめてしまう方が理解が得られやすいからです。

実際にそれらを目撃した方も、警察などに届けたりすることはほとんどありません。

先に挙げた例は、SNSなどの不特定多数に発信されたものを、私が独自に収集し、発信者本人にコンタクトを取って、匿名を条件に証言を入手したものです。

この現象がどれくらい発生しているのかは、残念ながら調査しきれていません。

星の数ほどあるSNSの発言を収集し、一件一件確認することは容易ではなく、またこういった現象を目撃した方のすべてがSNSなどに発信するとも限らないでしょうから、確認しきれないというのが正直なところです。

今回調査したのはこの3例だけですが、その全てが不可解な結末となりました。たまたま調査した事件が全て同じ結末になる確率はどれくらいでしょうか。

最近多発している盗難事件や、年間で数万人にも及ぶという行方不明。これらの一部がこういった現象によるものであるかもしれない、というのは突飛な発想でしょうか?

このような事件は世界各地で発生しているという話もあり、既に世界では専門の機関が調査を始めているという話があります。一方、日本でも秘密裏に調査を進めているという噂があります。

どれも噂ばかりで実体がない話ですが、SNSなどでは以前からこういった現象についてのさまざま憶測が飛び交っています。

当チャンネルではいつもの芸能ニュースと並行して、この件についても引き続き取り上げていきたいと思います――。

***

11月28日 10時20分 | 西峰区

この日のオフィス内は、特殊事案対策室をまとめるサトルしかいなかった。

彼の部下であるトシオとカナメは、サトルの指示のもと、早朝から消滅事案の対応に当たっているからである。

先ほどから忙しく動かしていた手を止めて、先ほど入れ直したまだ熱が残るコーヒーを一口すすると、時計に目をやり時間を確認する。

「そろそろ戻るころか」

そう呟いた直後、オフィスのドアが開き、部下2人が戻ってきた。

「ご苦労だったな」

デスクに報告に来た2人に労いの言葉をかける。

「まったく朝早くからの仕事なんか冗談じゃねえよ。手当は弾むんだろうな?」
「おい、まず報告が先だろう」

報告より先に愚痴を言うトシオに文句を言うカナメであったが、彼女の顔にも若干の疲労が見える。

「我々は一応公務員だ。時間外の勤務には手当てが付くから安心しろ」
「そうかい、それならまあいいけどよ」

サトルの言葉にトシオは矛を納める。
元よりサトルに対して文句を言いたいわけではない。

文句を言いたいのは......

「それでは報告なのですが......」
「いや、それは後でいい」
「おいおい、まさか......」
「ああ、早速次の案件に向かってもらう」

ここ最近、正確には半月ほど前からサトルたちの対処対象となる消滅事案が増加していることだ。

消滅自体は大小さまざま毎日発生しているが、そのすべてにサトルたちが対応するわけではなく、消滅事案の中でも社会的影響が大きいものに対してのみ、上層部の指令により消滅の回避あるいは成立といった対応を行っている。

その数は多くても数日に一件程度。
稀に一日に複数発生する場合もあったが、基本的には大した頻度ではなかった。

だからこそ3人でもこれまで対応できていたし、上層部の指示以外でも消滅案件に対処する余裕もあった。

しかし半月ほど前から様子は変わってきた。

数日に一件程度だった消滅事案が2日に一度になり、それが毎日へと変わり、気付けば1日に数度の出動が常態化していた。

いつの間にか常態化した消滅に対応するうちに、トシオとカナメには余裕がなくなり、それが引いては疲労を蓄積させていった。

「いくらなんでも多すぎるだろ。俺たちはロボットじゃないんだぜ。少しは休ませろよ」
「仕事だから仕方ないだろ」

不満を隠さないトシオをカナメがたしなめる。
そんなカナメの顔にも明らかに疲労の色が浮かんでいる。

自分よりも体力的に劣るカナメにそう言われると、それ以上言いたいことも言えず、不承不承うなずくしかない。

「ったく、それで?次は何時にどこに行けばいいんだ?」
「今から2時間後、若葉市まで行ってもらう」
「おい、冗談だろ?若葉市は今から車を飛ばしても2時間で着くかどうかだぞ!」
「その更に3時間後には潮見町だ」
「おい、いい加減にしろよ。そんなの物理的に不可能だろ」
「現地の人手は既に手配してある。お前たちは現場指揮に当たってくれ」

トシオはデスクを叩きながらサトルに詰め寄るが、サトルはその言葉に耳を貸さず、淡々と指令のみを伝えると、そのまま視線をノートパソコンに戻す。

そんなサトルの態度にいらつきを隠せず、さらに詰め寄ろうとするトシオをなだめてから、カナメがサトルに向き直る。

「室長、よろしいですか?」
「なんだ?」

サトルはノートパソコンから目を離さないままカナメの呼びかけに答える。

「トシオの肩を持つわけではありませんが、さすがにそのスケジュールには無理があります。確かに行くだけなら理論上では1時間半程度で若葉市まで到着することは可能ですが、途中の交通状況もさることながら、現地での状況確認をする時間も取れないまま現地の指揮を取れと言われても、それでは対応に不備が出る可能性があります」
「そもそも現地で人を雇ってるなら、そいつらにそのままやらせればいいだろ。わざわざ俺たちが行く必要あるのかよ」

詰め寄る2人に視線を向けるサトルの表情は変わらない。
ただその瞳には、明らかな謝意の色が浮かんでいる。

それに気付くとカナメは目を伏せ、トシオは頭を掻きながら大きくため息をつく。

長年サトルの元で働いてきた2人にはそれで十分だった。

「分かりました。しかしこれだけは教えてください」
「聞こうか」

サトルはそう言うと、ノートパソコンを閉じ、テーブルに肘を付いたまま顔の前で手を組み、強い意志を込めたカナメの視線を受け止める。

「今、いったい何が起こっているんですか?」
「いつもと同じ、消滅だ」
「ボスは本当にそう思っているのか?」

呆れたようなトシオの言葉を聞き、サトルは一度目を閉じる。
そしてなにかを飲み込むようにゆっくり目を開くと、眉間に深いしわを寄せる。

「......上はそうは考えていない」
「......!」

わずかに漏らしたサトルの本音に、それ以上なにも言えずに言葉を詰まらす。

上層部は消滅の増加を認識し、それを何かしらの異変と捉えている。しかしサトルたち末端には通常の対応を求めている。

これはつまり異常事態であると認識してはいるものの、それに対し何の打開策もなく、ただ増え続ける消滅に物量をぶつけるだけの対処療法に過ぎない。

この状況が有効な策ができるまでの一時しのぎということであれば分からなくはないが、それでもぶつける物量、すなわち現場の人員が圧倒的に不足していることがまったく考慮されていない。

いかにも報告書の内容と数字でしか物事を判断しない、現場を知らずに役職の椅子に座る世間知らずが考案した対応といえる。

しかしそのことに一番思うところがあるのは、目の前でここにいない誰かを睨むような視線を宙に向けるサトルであろう。

もしこの状況でサトルが上層部にいたら、事態は違っていたのだろうか。

そんなありもしない想像を振り払い、カナメは現在の状況と今後を憂う。

「これからどうなるんですか?」
「我々はやるべきことをやる。ただそれだけだ」

サトルは即答する。

今のサトルの立場ではそう答えることしかできないのだろう。
しかし、その言葉にトシオはにやりと口角をあげる。

「やるべきことをやるっていったな?それじゃやるべきことをやりさえすれば、手段は問わなくてもいいな?」

それはどんな意図を持った発言なのだろうか。

睨むような視線でサトルを射貫くトシオには、なにか妙案があるのだろう。

サトルは表情を変えずにトシオと視線を絡めたまましばらく思案していたが、それも僅かな間。

デスクの上で組んだ手に顎を乗せると、表情を引き締める。

「我々は上からの命令で消滅に対処している。上からの命令は絶対だ。その命令を遵守できる限り、かつ組織の方針から逸脱しない限り問題はない」

サトルの答えはトシオにとって満足いくものだったのだろう。
軽く口笛をふくと、手をひらひらさせながら機嫌よく答える。

「オッケー、分かった。それじゃしっかりとやるべきことをやってくるわ」

そう言ってひらりと背中を向けたトシオは、そのままオフィスの出口に向かう。カナメはサトルに向かって深々とお辞儀をすると、慌ててその背中を追いかけていく。

そのまま2人は次の現場に向かうべく、慌ただしくオフィスを出ていく。

先ほどまで2人が立っていた場所に視線を漂わせたサトルは、少しだけ口角をあげて、どこか含みのある笑みを浮かべる。

その笑みにはどんな想いが込められているのだろうか......

***

11月30日 | ファーストフード店

「なんかここのところ多くない?さすがに疲れたよー」
「もし【予定表】に通知機能があるなら、鳴りっぱなしだろな」

いつものファーストフード店で、ジュースを飲みながらここ最近の消滅現象の多さに不満を言うナナに、リクは冗談交じりで返す。

「きっとカナメさんたちも今頃私たち以上に対応に追われているでしょうね」

そう言うミオの顔にも疲労の色が浮かんでいる。

半月ほど前から徐々に増えだした【予定表】の消滅予定は、今や開くたびに常に更新されていて、リクが言うとおり通知機能があったらゾッとするほどの件数であった。

最初のうちはさほど増えているような実感はなかったが、気づけば疲労を蓄積するほど消滅は増えており、今も【予定表】は常に更新され続けている。

「まあ、トシオさんならなんとかするだろうけど、俺たちはあの人たちほどなんでもできるわけじゃないからな」
「そうだよね。出来る範囲で頑張っていくしかないもんね。ねっ?ハル」
「......」

ナナに声をかけられたハルはそれに答えず、ドリンクを手に持ったまま一点を見つめて固まっている。

「またハルはなんか考え込んでるみたいだぜ」
「んもう、ハル!聞いてるの!?」

そう言ってナナはハルの顔の前で手をひらひらさせる。

突然視界で手を振られたことにより、目をぱちくりさせながら現実に戻ってきたハルは、今ようやく意識が戻ったかのように周囲を見渡す。

「ん......ああ、ごめん。ちょっと考えごとしてたよ」
「それは見れば分かるよ。まったくハルはいっつもそうだよねー」
「ごめんってば」

声をかけたのに無視をされたことを根に持っているのだろうか。目の前のポテトをやけ食いのように数本一気に口に入れると、ぷいっと横を向く。

そんなナナをまあまあとなだめるミオが、ハルが旅していた思考の目的地を尋ねる。

「それで?今度は何を考えてたのかしら?」
「あ、うん。実はね......」

そう切り出すと、以前に見かけたユウの書き込みのことをみんなに伝える。

――規模が拡大すること。
――試されている可能性があること。
――乗り越えられなければ全てが消滅すること。

それをきっかけに思い切ってメッセージを送ってみたら返信がきて、そこから色々聞けたことなどを話した。

「そんな重大なこと、なんで今まで言わなかったんだよ」
「やり取りした履歴が消えちゃったし、話の内容も現実味がなさすぎる話だから混乱の元になると思ったんだ。話をしようにも証拠が残ってないから本当に話をしたのかの証明も出来ないしね」
「証拠があろうがなかろうが、俺たちは消滅っていう現実から程遠いことを目の当たりにしているんだぜ。そんなもんがなくったって今さら疑わねえし、そんなこと聞かされても今さら驚かねえよ」
「そうね。ただ今までハルがSNSで見ていたユウの正体が消滅の観測者っていうのはさすがにちょっと驚いたわね」

非現実を日常としつつあるミオたちにとって、ハルの経験はさほど驚くに値しないらしい。

それでも、誰でも見ることができるSNSに消滅の観測者がいたというのは驚きに値するらしいが、それに驚愕するのはミオだけではなかった。

「おい、今の話はマジかよ!?」

突然の声にその方向に視線をやると、そこにはトシオとカナメがいた。

ここはファーストフード店、別に誰が来てもおかしくはない。
だが、ここにこの2人がいるのを偶然と片付けてしまうのにはさすがに無理がある。

一気に警戒を強めるが、彼らのことを知っているハルたちには何も出来ない。もしトシオがその気になれば、数秒後にどうなるのか想像も出来ないのだ。

張り詰める空気に数秒の間の沈黙。
ゴクリと喉を鳴らしたのはハルたち4人の誰なのだろうか。

その沈黙を無造作に破ったのは、この沈黙を作るきっかけとなった本人であった。

「そう警戒するなって。俺たちは別に敵対してるわけじゃないんだろ?」

そういうトシオが手に持つトレイにはなぜか大量のフードが乗っている。

「今日はちょっと話をしに来ただけだ。とりあえず隣に失礼する」

トシオに続きカナメもそう言うと、ハルたちの横の空いてる席に座り込む。

「まあ、これでも食えって」
「え?いいんすか?」
「おう、お近づきの印にってやつだ」

トシオはトレイをテーブルに置き、そこからハンバーガーをリクに手渡す。

「もう、簡単に食べ物に釣られるんじゃないわよ」
「まあそう言うな。こちらもそれなりに意図があるんだ。良かったら日下部さんもどうぞ」

そう言うカナメのトレイには人数分のドリンクが乗っている。

「やったー!私もいいですかー?」
「もちろんよ。真壁くんもいかが?」
「......いただきます」

既に3つ目のハンバーガーに手を伸ばすリクにもドリンクを手渡すと、こちらをニヤニヤ眺めるトシオと目が合う。

「それで、突然何の用ですか?」

あくまでも警戒を崩さないハルは、トシオに来訪の意図を尋ねる。

「それを言う前に今の話聞かせてくれねえか?」
「今の話?」
「今言ってたじゃねえか。観測者らしきやつとコンタクトとったって」
「僕が言うのもなんなんですが......信じるんですか?履歴もなにも残ってないんですよ?」
「今しがたリクも言ってたろ?俺たちは消滅なんて現実とはほど遠いことを扱ってるんだ。履歴があるなしとかそんなことは些細なことなんだよ」

確かにその通りだ。

消滅現象なんて現実には説明できないことを目の当たりにしている彼らにとって、そこに筋が通るのであれば、履歴や証拠の有無などは些細なことなのかもしれない。

ハルは先日、ユウとメッセージを通じてやり取りした内容を伝える。

内容を聞き終えた後、カナメが難しい顔でしきりに頷いている。

「我々もユウという存在は知っていたが、それが観測者だったとはさすがに予想外だった。けど、その前提で考えれば色々としっくりとくる」

サトルの命令によりユウのことを調べていたカナメも納得する。

その後、ハルたちは一見するとそれなりに和気あいあいとした雰囲気となる。

ハルとナナはカナメに消滅が成立する意味を自分たちなりに解釈した内容などを話し、リクとミオはトシオに以前の作戦で一緒に警察に扮したことなどを話している。

そんな時間が10分ほど続いた頃、ハルは思い切ってトシオに尋ねる。

「それで......今回はなにか理由があって僕らに会いに来たんですよね?」

その言葉にそれまでの雰囲気は一気に霧散し、トシオの様子が変わる。それは風守神社でリクたちを膝まずかせたあの威圧感にも似ていたが、それも一瞬のこと。

ニヤリと笑うとその圧はふっとかき消える。

「そうだな。まずは楽しくお話して場の雰囲気を温めてからって思ってたけど、そろそろ本題に入るとするか」

そう言うと、少し身を乗り出してハルたちに語り掛ける。

「お前らもここ最近、消滅が爆発的に増えてるのは知ってるな?」
「ええ、だからどうしようかとちょうど相談していたところなんです」
「分かってるなら話が早い。俺たちもちーとばかりそれに振り回されててな。だからお前さんたちにもちょっと手伝ってほしいって頼みに来たんだが......」

そこで言葉を止めると、カナメの方に目をやる。

今回、カナメは予めハルたちを訪ねる目的を聞いていたが、今のトシオの発言と視線の意図が分からず訝しげな視線をトシオに返す。

「さっきの真壁の話を聞いてちょっと、いやかなり方針が変わった」

その言葉にカナメは嫌な予感を隠せない。

「トシオ、お前まさか......?」
「お前らうちのボスに会う気はあるか?」
「......なぜですか?」
「消滅の暴走を止めるためだ」
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第40話 解かれていく紐
消滅予定表作者:こまりさ
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第39話 兆し

地方の高速道路 | 深夜2時過ぎ

とある商社に勤める男は、顧客からのクレームに対応するため、トランクに代替品を載せ、深夜の高速道路を西へ向かっていた。

朝一番にこの部品がなくては工場のラインが止まってしまう。
そう連絡を受けたのは夜の8時過ぎ。

今からでは飛行機も間に合わない。
仕方なく自らの運転で遠方の工場まで部品を運ぶ羽目になっていた。

窓の外は暗く、等間隔に並ぶ街灯だけが路面を照らしていた。

長時間の運転で瞼は重い。それでも男は意識を保とうと、ラジオの音量を少し上げ、眠気をごまかしながらハンドルを握り続けていた。

その時だった。

ドアミラー越しに2つの白いライトが映る。
かなり後方だったはずの車は、数秒もしないうちに距離を詰め、猛烈な勢いで迫ってきた。

その車の速度は男の目を覚ますには十分であった。
ハンドルを握る手に力を込め、追い越しの際に生じる風圧に備えていたのだが......。

いつまで経っても横を通り過ぎない。
不思議に思って再びミラーを見ると、そこには何も映っていなかった。

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某都市の繁華街 |金曜日の夜

駅前の繁華街は仕事帰りの会社員たちで賑わっていた。

さまざまな形態の居酒屋がひしめき合うその一角、このエリアでは中規模と思われる居酒屋の前には、この店の案内役の男が立っていた。

条例により客の呼び込みは禁止されているが、客から声をかけられればその限りでない。

だからこの男は呼び込みをしない。

喉を潤す店を探す会社員は、この男に空席を尋ねれば店の中を覗く手間が省け、男は声をかけられれば自分の店を目一杯アピールできる。

もちろん断られれば深追いはしない。
そうやって成り立っていた。

この日も会社員に空席を尋ねられ、ドリンクを1杯サービスすることを条件に、この3人組の会社員を案内することができた。

手に持っていた荷物を受け取ると、そのまま先に立って店内に案内する。

「お客様3名です!」

いつものように入店を告げるが、迎えたのは困惑した顔のアルバイトたち。

「あの......お客様はどちらに?」

さっき預かった客の手荷物を持ったまま振り返るが、すぐ後ろにいたはずの3人組は跡形もなく消えていた。

***

とある観光地 | 早朝

この観光地では観光客によるごみ問題に頭を悩ませていた。

住民から寄せられる苦情はごみ問題だけにとどまらない。観光客を優先するあまり、生活全般に不便を強いられている住民は不満を募らせていた。

観光客と地域住民、両者に満足してもらうにはどうすればよいのか。

会議を重ねた結果、とある職員からのアイデアで、観光地内のごみ拾いをイベント化することになった。

当日のごみ拾いイベントには多くの参加者が集まり、イベントは成功するかに思えたが、思いもよらないことが起こる。

「ちょっと、どうなってるんだ!?」

あちこちに散乱していたごみは、職員がイベントの説明をしている間に、いつの間にか全て跡形もなく消えていた。

***

遠藤キャスターの個人チャンネル【テレビでは言えない〇〇話】より

みなさん、こんにちは。遠藤です。

いつもの噂話を期待されている方には大変申し訳ないのですが、今回はここ最近増えている不可解な事件について取り上げたいと思います。

まず、こちらの3件をご覧ください。

1件目
深夜の高速道路を走っている車

2件目
繁華街にいたはずの3人組の会社員

3件目
観光地内に散乱していたごみ

一見なんの関連もないこの3件ですが、実は3件とも不可解な事件に巻き込まれたものたちなんです。

その事件とは――突然存在が消えてしまう、いわゆる神隠しです。

しかしこれらの事件はどこにも取り上げられません。

なにかが突然消えるなどというあり得ない現象を真面目に検証するよりも、見間違い、勘違い、気のせい、などと言う現実に即した結論にあてはめてしまう方が理解が得られやすいからです。

実際にそれらを目撃した方も、警察などに届けたりすることはほとんどありません。

先に挙げた例は、SNSなどの不特定多数に発信されたものを、私が独自に収集し、発信者本人にコンタクトを取って、匿名を条件に証言を入手したものです。

この現象がどれくらい発生しているのかは、残念ながら調査しきれていません。

星の数ほどあるSNSの発言を収集し、一件一件確認することは容易ではなく、またこういった現象を目撃した方のすべてがSNSなどに発信するとも限らないでしょうから、確認しきれないというのが正直なところです。

今回調査したのはこの3例だけですが、その全てが不可解な結末となりました。たまたま調査した事件が全て同じ結末になる確率はどれくらいでしょうか。

最近多発している盗難事件や、年間で数万人にも及ぶという行方不明。これらの一部がこういった現象によるものであるかもしれない、というのは突飛な発想でしょうか?

このような事件は世界各地で発生しているという話もあり、既に世界では専門の機関が調査を始めているという話があります。一方、日本でも秘密裏に調査を進めているという噂があります。

どれも噂ばかりで実体がない話ですが、SNSなどでは以前からこういった現象についてのさまざま憶測が飛び交っています。

当チャンネルではいつもの芸能ニュースと並行して、この件についても引き続き取り上げていきたいと思います――。

***

11月28日 10時20分 | 西峰区

この日のオフィス内は、特殊事案対策室をまとめるサトルしかいなかった。

彼の部下であるトシオとカナメは、サトルの指示のもと、早朝から消滅事案の対応に当たっているからである。

先ほどから忙しく動かしていた手を止めて、先ほど入れ直したまだ熱が残るコーヒーを一口すすると、時計に目をやり時間を確認する。

「そろそろ戻るころか」

そう呟いた直後、オフィスのドアが開き、部下2人が戻ってきた。

「ご苦労だったな」

デスクに報告に来た2人に労いの言葉をかける。

「まったく朝早くからの仕事なんか冗談じゃねえよ。手当は弾むんだろうな?」
「おい、まず報告が先だろう」

報告より先に愚痴を言うトシオに文句を言うカナメであったが、彼女の顔にも若干の疲労が見える。

「我々は一応公務員だ。時間外の勤務には手当てが付くから安心しろ」
「そうかい、それならまあいいけどよ」

サトルの言葉にトシオは矛を納める。
元よりサトルに対して文句を言いたいわけではない。

文句を言いたいのは......

「それでは報告なのですが......」
「いや、それは後でいい」
「おいおい、まさか......」
「ああ、早速次の案件に向かってもらう」

ここ最近、正確には半月ほど前からサトルたちの対処対象となる消滅事案が増加していることだ。

消滅自体は大小さまざま毎日発生しているが、そのすべてにサトルたちが対応するわけではなく、消滅事案の中でも社会的影響が大きいものに対してのみ、上層部の指令により消滅の回避あるいは成立といった対応を行っている。

その数は多くても数日に一件程度。
稀に一日に複数発生する場合もあったが、基本的には大した頻度ではなかった。

だからこそ3人でもこれまで対応できていたし、上層部の指示以外でも消滅案件に対処する余裕もあった。

しかし半月ほど前から様子は変わってきた。

数日に一件程度だった消滅事案が2日に一度になり、それが毎日へと変わり、気付けば1日に数度の出動が常態化していた。

いつの間にか常態化した消滅に対応するうちに、トシオとカナメには余裕がなくなり、それが引いては疲労を蓄積させていった。

「いくらなんでも多すぎるだろ。俺たちはロボットじゃないんだぜ。少しは休ませろよ」
「仕事だから仕方ないだろ」

不満を隠さないトシオをカナメがたしなめる。
そんなカナメの顔にも明らかに疲労の色が浮かんでいる。

自分よりも体力的に劣るカナメにそう言われると、それ以上言いたいことも言えず、不承不承うなずくしかない。

「ったく、それで?次は何時にどこに行けばいいんだ?」
「今から2時間後、若葉市まで行ってもらう」
「おい、冗談だろ?若葉市は今から車を飛ばしても2時間で着くかどうかだぞ!」
「その更に3時間後には潮見町だ」
「おい、いい加減にしろよ。そんなの物理的に不可能だろ」
「現地の人手は既に手配してある。お前たちは現場指揮に当たってくれ」

トシオはデスクを叩きながらサトルに詰め寄るが、サトルはその言葉に耳を貸さず、淡々と指令のみを伝えると、そのまま視線をノートパソコンに戻す。

そんなサトルの態度にいらつきを隠せず、さらに詰め寄ろうとするトシオをなだめてから、カナメがサトルに向き直る。

「室長、よろしいですか?」
「なんだ?」

サトルはノートパソコンから目を離さないままカナメの呼びかけに答える。

「トシオの肩を持つわけではありませんが、さすがにそのスケジュールには無理があります。確かに行くだけなら理論上では1時間半程度で若葉市まで到着することは可能ですが、途中の交通状況もさることながら、現地での状況確認をする時間も取れないまま現地の指揮を取れと言われても、それでは対応に不備が出る可能性があります」
「そもそも現地で人を雇ってるなら、そいつらにそのままやらせればいいだろ。わざわざ俺たちが行く必要あるのかよ」

詰め寄る2人に視線を向けるサトルの表情は変わらない。
ただその瞳には、明らかな謝意の色が浮かんでいる。

それに気付くとカナメは目を伏せ、トシオは頭を掻きながら大きくため息をつく。

長年サトルの元で働いてきた2人にはそれで十分だった。

「分かりました。しかしこれだけは教えてください」
「聞こうか」

サトルはそう言うと、ノートパソコンを閉じ、テーブルに肘を付いたまま顔の前で手を組み、強い意志を込めたカナメの視線を受け止める。

「今、いったい何が起こっているんですか?」
「いつもと同じ、消滅だ」
「ボスは本当にそう思っているのか?」

呆れたようなトシオの言葉を聞き、サトルは一度目を閉じる。
そしてなにかを飲み込むようにゆっくり目を開くと、眉間に深いしわを寄せる。

「......上はそうは考えていない」
「......!」

わずかに漏らしたサトルの本音に、それ以上なにも言えずに言葉を詰まらす。

上層部は消滅の増加を認識し、それを何かしらの異変と捉えている。しかしサトルたち末端には通常の対応を求めている。

これはつまり異常事態であると認識してはいるものの、それに対し何の打開策もなく、ただ増え続ける消滅に物量をぶつけるだけの対処療法に過ぎない。

この状況が有効な策ができるまでの一時しのぎということであれば分からなくはないが、それでもぶつける物量、すなわち現場の人員が圧倒的に不足していることがまったく考慮されていない。

いかにも報告書の内容と数字でしか物事を判断しない、現場を知らずに役職の椅子に座る世間知らずが考案した対応といえる。

しかしそのことに一番思うところがあるのは、目の前でここにいない誰かを睨むような視線を宙に向けるサトルであろう。

もしこの状況でサトルが上層部にいたら、事態は違っていたのだろうか。

そんなありもしない想像を振り払い、カナメは現在の状況と今後を憂う。

「これからどうなるんですか?」
「我々はやるべきことをやる。ただそれだけだ」

サトルは即答する。

今のサトルの立場ではそう答えることしかできないのだろう。
しかし、その言葉にトシオはにやりと口角をあげる。

「やるべきことをやるっていったな?それじゃやるべきことをやりさえすれば、手段は問わなくてもいいな?」

それはどんな意図を持った発言なのだろうか。

睨むような視線でサトルを射貫くトシオには、なにか妙案があるのだろう。

サトルは表情を変えずにトシオと視線を絡めたまましばらく思案していたが、それも僅かな間。

デスクの上で組んだ手に顎を乗せると、表情を引き締める。

「我々は上からの命令で消滅に対処している。上からの命令は絶対だ。その命令を遵守できる限り、かつ組織の方針から逸脱しない限り問題はない」

サトルの答えはトシオにとって満足いくものだったのだろう。
軽く口笛をふくと、手をひらひらさせながら機嫌よく答える。

「オッケー、分かった。それじゃしっかりとやるべきことをやってくるわ」

そう言ってひらりと背中を向けたトシオは、そのままオフィスの出口に向かう。カナメはサトルに向かって深々とお辞儀をすると、慌ててその背中を追いかけていく。

そのまま2人は次の現場に向かうべく、慌ただしくオフィスを出ていく。

先ほどまで2人が立っていた場所に視線を漂わせたサトルは、少しだけ口角をあげて、どこか含みのある笑みを浮かべる。

その笑みにはどんな想いが込められているのだろうか......

***

11月30日 | ファーストフード店

「なんかここのところ多くない?さすがに疲れたよー」
「もし【予定表】に通知機能があるなら、鳴りっぱなしだろな」

いつものファーストフード店で、ジュースを飲みながらここ最近の消滅現象の多さに不満を言うナナに、リクは冗談交じりで返す。

「きっとカナメさんたちも今頃私たち以上に対応に追われているでしょうね」

そう言うミオの顔にも疲労の色が浮かんでいる。

半月ほど前から徐々に増えだした【予定表】の消滅予定は、今や開くたびに常に更新されていて、リクが言うとおり通知機能があったらゾッとするほどの件数であった。

最初のうちはさほど増えているような実感はなかったが、気づけば疲労を蓄積するほど消滅は増えており、今も【予定表】は常に更新され続けている。

「まあ、トシオさんならなんとかするだろうけど、俺たちはあの人たちほどなんでもできるわけじゃないからな」
「そうだよね。出来る範囲で頑張っていくしかないもんね。ねっ?ハル」
「......」

ナナに声をかけられたハルはそれに答えず、ドリンクを手に持ったまま一点を見つめて固まっている。

「またハルはなんか考え込んでるみたいだぜ」
「んもう、ハル!聞いてるの!?」

そう言ってナナはハルの顔の前で手をひらひらさせる。

突然視界で手を振られたことにより、目をぱちくりさせながら現実に戻ってきたハルは、今ようやく意識が戻ったかのように周囲を見渡す。

「ん......ああ、ごめん。ちょっと考えごとしてたよ」
「それは見れば分かるよ。まったくハルはいっつもそうだよねー」
「ごめんってば」

声をかけたのに無視をされたことを根に持っているのだろうか。目の前のポテトをやけ食いのように数本一気に口に入れると、ぷいっと横を向く。

そんなナナをまあまあとなだめるミオが、ハルが旅していた思考の目的地を尋ねる。

「それで?今度は何を考えてたのかしら?」
「あ、うん。実はね......」

そう切り出すと、以前に見かけたユウの書き込みのことをみんなに伝える。

――規模が拡大すること。
――試されている可能性があること。
――乗り越えられなければ全てが消滅すること。

それをきっかけに思い切ってメッセージを送ってみたら返信がきて、そこから色々聞けたことなどを話した。

「そんな重大なこと、なんで今まで言わなかったんだよ」
「やり取りした履歴が消えちゃったし、話の内容も現実味がなさすぎる話だから混乱の元になると思ったんだ。話をしようにも証拠が残ってないから本当に話をしたのかの証明も出来ないしね」
「証拠があろうがなかろうが、俺たちは消滅っていう現実から程遠いことを目の当たりにしているんだぜ。そんなもんがなくったって今さら疑わねえし、そんなこと聞かされても今さら驚かねえよ」
「そうね。ただ今までハルがSNSで見ていたユウの正体が消滅の観測者っていうのはさすがにちょっと驚いたわね」

非現実を日常としつつあるミオたちにとって、ハルの経験はさほど驚くに値しないらしい。

それでも、誰でも見ることができるSNSに消滅の観測者がいたというのは驚きに値するらしいが、それに驚愕するのはミオだけではなかった。

「おい、今の話はマジかよ!?」

突然の声にその方向に視線をやると、そこにはトシオとカナメがいた。

ここはファーストフード店、別に誰が来てもおかしくはない。
だが、ここにこの2人がいるのを偶然と片付けてしまうのにはさすがに無理がある。

一気に警戒を強めるが、彼らのことを知っているハルたちには何も出来ない。もしトシオがその気になれば、数秒後にどうなるのか想像も出来ないのだ。

張り詰める空気に数秒の間の沈黙。
ゴクリと喉を鳴らしたのはハルたち4人の誰なのだろうか。

その沈黙を無造作に破ったのは、この沈黙を作るきっかけとなった本人であった。

「そう警戒するなって。俺たちは別に敵対してるわけじゃないんだろ?」

そういうトシオが手に持つトレイにはなぜか大量のフードが乗っている。

「今日はちょっと話をしに来ただけだ。とりあえず隣に失礼する」

トシオに続きカナメもそう言うと、ハルたちの横の空いてる席に座り込む。

「まあ、これでも食えって」
「え?いいんすか?」
「おう、お近づきの印にってやつだ」

トシオはトレイをテーブルに置き、そこからハンバーガーをリクに手渡す。

「もう、簡単に食べ物に釣られるんじゃないわよ」
「まあそう言うな。こちらもそれなりに意図があるんだ。良かったら日下部さんもどうぞ」

そう言うカナメのトレイには人数分のドリンクが乗っている。

「やったー!私もいいですかー?」
「もちろんよ。真壁くんもいかが?」
「......いただきます」

既に3つ目のハンバーガーに手を伸ばすリクにもドリンクを手渡すと、こちらをニヤニヤ眺めるトシオと目が合う。

「それで、突然何の用ですか?」

あくまでも警戒を崩さないハルは、トシオに来訪の意図を尋ねる。

「それを言う前に今の話聞かせてくれねえか?」
「今の話?」
「今言ってたじゃねえか。観測者らしきやつとコンタクトとったって」
「僕が言うのもなんなんですが......信じるんですか?履歴もなにも残ってないんですよ?」
「今しがたリクも言ってたろ?俺たちは消滅なんて現実とはほど遠いことを扱ってるんだ。履歴があるなしとかそんなことは些細なことなんだよ」

確かにその通りだ。

消滅現象なんて現実には説明できないことを目の当たりにしている彼らにとって、そこに筋が通るのであれば、履歴や証拠の有無などは些細なことなのかもしれない。

ハルは先日、ユウとメッセージを通じてやり取りした内容を伝える。

内容を聞き終えた後、カナメが難しい顔でしきりに頷いている。

「我々もユウという存在は知っていたが、それが観測者だったとはさすがに予想外だった。けど、その前提で考えれば色々としっくりとくる」

サトルの命令によりユウのことを調べていたカナメも納得する。

その後、ハルたちは一見するとそれなりに和気あいあいとした雰囲気となる。

ハルとナナはカナメに消滅が成立する意味を自分たちなりに解釈した内容などを話し、リクとミオはトシオに以前の作戦で一緒に警察に扮したことなどを話している。

そんな時間が10分ほど続いた頃、ハルは思い切ってトシオに尋ねる。

「それで......今回はなにか理由があって僕らに会いに来たんですよね?」

その言葉にそれまでの雰囲気は一気に霧散し、トシオの様子が変わる。それは風守神社でリクたちを膝まずかせたあの威圧感にも似ていたが、それも一瞬のこと。

ニヤリと笑うとその圧はふっとかき消える。

「そうだな。まずは楽しくお話して場の雰囲気を温めてからって思ってたけど、そろそろ本題に入るとするか」

そう言うと、少し身を乗り出してハルたちに語り掛ける。

「お前らもここ最近、消滅が爆発的に増えてるのは知ってるな?」
「ええ、だからどうしようかとちょうど相談していたところなんです」
「分かってるなら話が早い。俺たちもちーとばかりそれに振り回されててな。だからお前さんたちにもちょっと手伝ってほしいって頼みに来たんだが......」

そこで言葉を止めると、カナメの方に目をやる。

今回、カナメは予めハルたちを訪ねる目的を聞いていたが、今のトシオの発言と視線の意図が分からず訝しげな視線をトシオに返す。

「さっきの真壁の話を聞いてちょっと、いやかなり方針が変わった」

その言葉にカナメは嫌な予感を隠せない。

「トシオ、お前まさか......?」
「お前らうちのボスに会う気はあるか?」
「......なぜですか?」
「消滅の暴走を止めるためだ」
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次の話第40話 解かれていく紐
消滅予定表作者:こまりさ
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