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第12話 解析

7月6日 午後 | 風見駅付近

梅雨真っ盛りのこの日、街中には傘の群れが溢れている。
その一つに紛れて歩くハルは、湿気で纏わりつく袖にわずかな不快感を覚えながら、先日リクと待ち合わせたファーストフード店へ向かっている。そこへ向かう足取りは、空模様とは対照的に軽い。

店内に入り周囲を見回すと、既に他の仲間は席について談笑していた。
ハルが到着したことに気付くと、先に席に着いていた仲間の一人、リクが軽く手をあげる。

「よお、遅かったな」
「まだ約束の時間より早いだろ?」
「まあそうだけどな」

軽口を叩きながら席につき、他の二人とも言葉を交わす。

「ナナも早かったんだね」
「ハルが遅いだけだよ」
「なんでそんなに張り切ってるんだよ」
「だってミオ先輩と話せるチャンスだもん」

いつの間にかそんなに親しくなったのか、どことなく嬉しそうな彼女が「ねー」と声をかけた相手、ミオに対して少し緊張しながら挨拶をする。

「ミオ先輩、この間はどうもでした」
「話し方が固いわね。これから協力していくんだから、もっと普通に接して頂戴」

ミオの雰囲気は先日までとは明らかに異なっていた。

凛とした雰囲気はそのままに、他者を射抜くような冷たさがなくなっている。
それどころか、秘密を共有した仲間へ向ける信頼さえ感じられる。

もっともこの四人しか知らない秘密を共有している以上、文字通り仲間ではあるのだが。

「そうだよ、ミオ先輩ってキリッとして近寄りがたいオーラが出てたけど、こんなに話しやすい人だなんて思わなかったよ」
「ナナはいきなり砕けすぎじゃないか?」
「そんなことないよねー?」
「ええ、そうね。それくらいの方がありがたいわ」
「そっかそっか、ミオは近寄りがたいのか」
「言いたい人には言わせておけばいいのよ」

事前にナナが買っておいてくれた飲み物を口にしながら周囲に目をやる。

今日は週末であるせいか、家族連れが多い。
小さい子供が両手で抱えるようにしてハンバーガーにかぶりつき、口の周りをソースだらけにしているのが実に微笑ましい。友人同士で談笑しているグループや、本を読み耽って自分の世界に没頭している人もいる。

そんな中で、一見すると他と変わらない友人同士のグループに見えるハルたちであるが、この四人を結んだきっかけは普通とは言い難い。

そして今日は、そんな普通とは言い難い内容について相談をするために集まったのだ。

「それで、今日はこれからのことを話すんだろ?」
「そう、俺がずっと呼び掛けてたことがやっと実現するんだよ。なあ、ミオ」
「もう、悪かったわよ。いいから話を進めましょ」

消滅に対して協力して対抗していこうということになったのが2日前。
今日はこれから具体的にどうしていこうか、ということを話し合うためにこの場が設けられた。ハルとしても協力者が増えることは喜ばしいことであり、これからのことを前向きに考えられると思ったからこそ、ここまでの道中、自然と足取りが軽くなっていたのだ。

「それじゃみんなが好き勝手に話し出してもきりがないから、俺が司会進行ってことでいいか?」
「うん、いいんじゃないかな?」
「それじゃ私がメモを取るね!」

リクの立候補にハルが賛同し、ナナは自ら書記を名乗り出る。

「それじゃまずはおさらいだ。俺たちのうち【予定表】を見ることができるのはハルとミオ、俺とナナは見ることができない」
「そうだよ。だから二人とも色々悩んだりしてたんだよね......」
「それは確かにそうだし、今だって吹っ切れたわけではないわ。けど、それでも受け止めていかないといけないっていうのは理解しているわ」
「おっと、脱線は後回しだ。まずは事実の確認を優先しようぜ」

一番雑談が好きそうなリクが、話題がずれそうになるとすかさず軌道修正をしてくる。普段は一番自由に見えるリクだが、こういう時の進行は妙に上手い。おかげで話はスムーズに進んでいく。

「で、【予定表】が見える二人に確認なんだが、それってどんな感じでどんな風に見えてるんだ?」
「あ、それは私も気になるー!」

【予定表】を見ることができる二人が同時にスマホを取り出し、画面を操作する。
それを見ることができない二人が画面を覗き込むが、やはり待ち受け画面を撫でているようにしか見えなかった。

「どんな感じって言われても、見た感じはメモ帳アプリのように見えるけど......」
「そうね、そこに消滅対象の情報が書かれているって感じだわ」
「情報ってどんなことが載っているんだ?」
「ここに載っているのは日時、対象、場所、状態ってとこかしら」

ナナがしきりに頷きながらペンを走らせる。

「それで、その予定はどれくらい前から出てくるんだ?」
「どれくらい前か......それはあまり気にしなかったな」
「それなら折角だから今確認してみましょ」

確かに今までは内容ばかりに気を取られ、消滅の予定はいつから表示されるのかなどはあまり気に留めていなかった。
リクの指摘に改めて【予定表】を確認しながら、やっぱり協力することになって良かったと思うハルであった。

「私の方で確認できる一番先の予定は......3日後ね」
「僕の方もそうみたい......あれ?」
「どうしたの?」
「いや、ここからちょっと離れた場所なんだけど、既に過ぎている予定があるんだよ」
「過ぎてるのに予定ってのも変な言い方だな」
「いちいち茶化さないで。でも本当ね、私の方でも過ぎてる予定が確認できるわ」

それからさらに確認してみると、他にも消滅予定時間が過ぎたものがいくつかあった。それらを眺めていると――。

「あ、消えた」

どうやら予定時間が過ぎても、1時間くらいは【予定表】に残っているようであるが、それを過ぎたものは先ほどのように自動的に消去されているようである。

「そっか。だから消えた直後は確認できたのに、翌日に見たら無くなってたのか」
「改めて相談してみると色々新しい発見があるわね」
「それで、内容についてはどうだ。終わった予定のものとまだ終わってない予定で違いはあるか?」
「そうね......特に違いはないように見えるわ。既に終わってる予定では......例えば中央通りの看板とか第三公園のトイレの扉なんてのも出てるけども、特に変わったなんてことはなさそうね」
「そうだね、確か僕が以前に消えた直後に見たときにも書いてある内容に変化はなかったような気がするよ」
「おい、ちょっと待てよ」

検証を続ける二人にリクが待ったをかける。

「今、看板とかトイレの扉って言ったよな?」
「あ、うん。言ったけど、それがどうしたの?」
「中央通りや第三公園ってのは、それらがあった場所の事だよな?」
「うん、そうだよ」
「なんで俺がそれを認識できるんだ? 場所は伝えられないはずだろ?」
「そう言えば......」

【予定表】に書かれている内容で伝えられるのは消滅対象の名前と消滅予定時間だけ。場所や状況は共有できなかったのはハルも確認済みである。

それなのにミオが読み上げた内容をリクは認識できた。
これは今までにないことであった。

「【予定表】に載っている情報は伝えることができなかったから、終わった予定もそうだと思って確認したことなかったわね」
「ってことは、終わった予定なら【予定表】が見えない人にも伝えられるのかな?」
「でもそれって必要かしら?」
「必要かどうかよりも、今はできることとできないことをしっかり把握していくのが優先だと思うぜ。何せ俺たちはまだ【予定表】がどういうものかよく分かってないからな」
「確かに......それもそうね」
「それじゃちょっと試してみるよ」

そう言うと、ハルは【予定表】の終わった予定を読み上げる。

「えっと、さっきの中央通りの看板は......蔓に巻き付かれてる、だって。どう?」
「うん! 分かったよ! 蔓に巻きつかれてるんだね」

確かに終わった予定であれば書いてある全ての情報を共有できるようだ。
これができたところで何の役に立つのかは分からないが、リクの言う通り、できることやできないことを把握しておくことは間違いではないだろう。

「それじゃ今度はこれから起こる方の予定を読み上げてくれないか?」
「それは伝わらないって分かってるでしょ?」
「だからミオじゃなくてハルに読んでもらうんだよ」
「何で僕が?」
「確かにミオが言っても伝わらなかったけど、もしかして言う人によって違うかもしれないだろ? 男には男の言うことしか分からない、とかな」
「確かに試してみる価値はあるね」
「だろ?」

今は互いに二人だけであった時にはできなかったことを色々と試す良い機会だ。
せっかくだから色々と試してみようと思ったので、リクの言う通り、今から起こる消滅の予定を読み上げる。

「7月7日、●●●ってとこにある●●●●ているオートバイ用のタイヤ」
「......」

ハルの読み上げに沈黙で答えるリク。

「どう? 認識できた?」
「うーん......オートバイ用のタイヤってのは分かったけど、それ以外はやっぱり認識できなかったな」
「そっか、やっぱ消滅前の予定は認識できないのか」

ダメで元々なので大して落胆していない。
分からないことはこうやってトライアンドエラーを重ねて認識を深めていくしかない。

そう思っていたのだが......

「ちょっと待って」

今度はミオがハルの言葉に手をあげる。

「ハルが言った言葉、私も何を言っているのか分からなかった」
「えっ?」
「正確にはリクと同じ、オートバイ用のタイヤというところだけしか認識できなかったわ」

会話を重ねるたびに色々なことが判明してきたが、ここにきてさらに新たな謎が浮上する。
首を捻る三人に対して、ナナが忙しく動かしていたペンを置き「疲れたー」と手を振りながら口を開く。

「それってさ。もしかしたら他の人には伝えられないんじゃない?」
「ん? どういうこと?」
「ハルもミオ先輩も自分たちの【予定表】は見ることができるけども、私やリクにはその内容を伝えられないんでしょ?」
「そうだね」
「今までは【予定表】が見れるのは自分たちだけだったからそれ以上のことは分からなかったけど、今は【予定表】を見ることができる人が二人になったじゃない? でも他の人にその内容を伝えられないってのは【予定表】を持っている人同士でも同じなのかもって」
「なるほど......確かにそう考えるのが自然かもしれないわね」
「だからさ、試しにミオ先輩も【予定表】を読んでみたらどうかな?」
「そうね、その必要があるわね。それなら今言ったオートバイ用のタイヤについてはこっちでも確認できるから、私の方でも読んでみるわよ」
「はい、お願いします」
「7月7日、オートバイ用のタイヤ、場所は●●●、●●●している」

敢えて読む順序を変えたのだろうが、ハルが認識できたのは先ほどのリクやミオと同様、消滅対象の名前だけだった。

「やっぱりナナの言った通りみたいだね」
「でもミオ先輩もハルも同じ【予定表】が見えているみたいだからあまり影響はないんじゃない?」
「そうかもしれないけど......ミオ先輩、念のためにちょっとミオ先輩の【予定表】を見せてもらっていいですか?」

ミオがスマホの画面を皆に向ける。
待ち受け画面は愛らしい犬の写真が映っている。これがきっとサロンなんだろう。

ナナは顔を綻ばせて「かわいい!」などと叫んでいるが、ハルはその画面を見渡し、あるべきものが見つからないことに気付く。

「この画面に【予定表】があるんですよね?」
「そうよ」
「僕には【予定表】が見えないです」
「おいおい、それってどういうことだよ」

口を挟むリクをよそに、ハルは考え込む。

普段は一度考えこむとなかなか思考の海から帰ってこないのだが、この時は素早く思考を終えると、自分のスマホを皆に向けながら問いかける。

「ミオ先輩、僕の【予定表】は見えますか?」
「......見えないわね」
「やっぱり......」
「何か分かったか?」
「ああ」
「今ので私も分かったわ。【予定表】を見ることができるのは自分だけってルールはすべてに適用されるってことね」
「そう、つまり僕が予定を共有できない相手はナナやリクだけじゃなく、【予定表】が見えるはずのミオ先輩も含まれるってことみたいだ」

ここでリクの提案で一休みがてら、ここまでで分かったことを整理してみようということになった。新しい発見に皆知らず知らずのうちに力が入っていたようで、一気に空気が弛緩していく。

「なんか一気に色々分かって疲れちゃったよ」

ナナはそうぼやきながらすっかり冷めてしまったポテトに手を伸ばし、氷が解け切ったドリンクを飲み干す。

まだ先は長そうなので追加が必要になるかもしれないとミオとリクが買い出しの役割を買って出てくれたので、その間にハルはナナが取ってくれていたメモに目を通してみる。

=====
予定表について
この予定表はとあるモノやヒトが消滅する予定が記されたものである。

・記載されていること
日時
対象
場所
状態

・予定が載るタイミング
最長3日前、最短1時間前

・予定が消えるタイミング
消滅予定時刻から約1時間経過後

・予定の共有について
対象、日時は共有可/場所、状態は共有不可
但し消滅予定時刻を過ぎたものは共有可能
これは予定表所有者同士でも同様

・予定表について
自分が所有している予定表以外は認識できない
=====

ここまでで分かったことをまとめたのがこれである。
買い出しから戻ってきたミオはナナがまとめてくれたメモを手に取り、じっくりと読みふけっている。

「なるほど、だいぶ分かってきたわね」
「ナナがしっかりメモを取ってくれてたおかげだね」
「えへへー」

ナナが揚げたてのポテトを手に取りながら嬉しそうに笑い、次から次へとポテトを口に放り込んでいく。

自ら買って出た書記という仕事が思いのほか大変だったのであろう。
焦って喉を詰まらせそうになる彼女に「ほら、何か飲みながら食べなよ」とドリンクを手渡す。

「ここまでは分かったことをまとめただけよ。この【予定表】について知ることはもちろん大事だけども、私たちが本当に知りたいのはこの先のことよ」

ミオが弛緩した空気を引き締めるように告げると、手に取っていたメモを皆に見せる。さっきナナがまとめた内容の下にいつの間にか書き加えたのか、【予定表】に対する疑問点が箇条書きにされていた。

・疑問点
誰がこの予定表を管理、運営しているのか
なぜハルとミオが予定表を見ることができるようになったのか
なぜリクとナナは予定表を見ることができないのか
他にも予定表を見ることができる人はいるのか
消滅を避けるためにはどうすればいいのか
この消滅はいつから始まっていたのか
この消滅はいつ終わるのか

「ぱっと思いつくだけでこれだけの疑問があるわ」
「確かにどれも疑問に思っていたことだらけだ......」
「そうだな、いつの間に【予定表】があることに慣れちまったけど、そもそもこういうもんがあること自体がおかしいんだよな」
「そう考えると【予定表】について分かってることってちょっとしかないけど、これって本当に役に立つのかなー?」

ミオが挙げた【予定表】にまつわる疑問点。
いや、これらは消滅という現象に関する疑問と言い換えてもいいだろう。

こうしてあげてみると、まだまだ分からないことの方が多い。
そう思うと色々と分かったことがあったとはいえ、まだ喜べるような状態ではなかったかもしれない。

「もちろんよ。相手のことを知るのは戦において当然のことだもの。ここまでまとめた情報は決して無駄なんかじゃないわ」
「そうは言っても、ここまでの情報でこの疑問点を解消するのは無理だぜ」
「全部を解消する必要なんてないわ。そりゃもちろん全部分かった方がすっきりはするけども、この中で私たちが解消しなくちゃいけない疑問は一つだけ......」

そう言って言葉を区切ると、視線をハルの方に送る。
彼女の言いたいことは良く分かる。

つまり......

「「消滅を避けるためにはどうすればいいのか」」

ハルとミオの声が重なる。

「そっか、確かにそりゃそうだ」
「色々知りたいことはあるけども、まずはそれが一番優先だね」

リクとナナも賛同し、改めて四人の想いが一つに重なる。

「でも今までだって色々調べてたけど分からなかったよな」
「ええ、そうね。でも以前に聞いたハルの話、それとこの間の消滅で既にヒントは得ていたのよ」
「僕の話?」

確かに偶然とは言え消滅を回避したことはあるが、それは何が理由で成しえたのか今でも分かっていない。その場に居合わせたナナと一緒に首をひねるのだが、やはり何も思い当たる節がない。

「ハル、あの時の【予定表】の内容は覚えてる?」
「えーっと......確か風見中央公園で......」
「いえ、その時の状態だけでいいわ」

細かく思い出そうとするハルにミオが思い出すべき内容を指定する。

「状態は......確か空を見ている......。いや夕日を見ているだったかな?」
「なるほど。いずれにしてもあのお婆さんは上の方を見てるって内容だったのね」
「うん、確かそうだったと思う」
「それで、ナナもその場に立ち会ってた、と」
「うん、そうだよ」

何が聞きたいのか分からないが、それでも聞かれたことに答えていく。

「で、私たちが遠くからあなたたちを見ていた時、お婆さんも含めて三人で何か拾ってたわよね」
「そうそう、あの時はハルに画材が入っていた紙袋を破られちゃって、中身がぶわーっと散乱しちゃったんだよ」
「それは災難だったわね」

思い出し笑い、というのは聞いたことがあるが、思い出しジト目というのは初めてだ。

あの時のことを思い出し、何とも言えない視線を向けてくるナナの視線をかわすようにそっぽを向くが、それでもミオが何が言いたいのか分からず、たまらず疑問を投げる。

「で、それでそれのどこにヒントが......」
「それじゃ今度は一昨日の消滅の話をするわね」

ハルを無視して話を変えるミオ。
それを若干不満に思うが、恐らく今は重要なことを話そうとしているのだろう。
そう思ったので口を閉ざし、再びミオの話に耳を傾ける。

「この間は無人販売所で売られている野菜が対象だったわ」
「ああ、俺が買ったきゅうりのことだな。でもあれはあの時消えなかったよな?」
「そう、その通り。消えなかったわ。リクが買ったきゅうりだったからね」

なんとなく言いたいことが分かってきた気がしたが、それに一早く気付いたのはナナであった。

「売られているきゅうりが消えるはずだったけど、リクが買ったから売られているきゅうりじゃなくなったってこと?」
「ご明察、その通りよ」
「もしかして俺が買わなかったら、あのきゅうりはあの場で消えていたってことか?」
「今となっては確認する方法はないけど、きっとそうなっていたと思うわ」

ミオの推理を聞いてハルが気付く。

「それじゃ僕たちが消滅を回避できたのは......」
「そう、その時に書かれていたのは空か夕日か分からないけども――もし書かれていた内容が上の方にあるものを見ているってことだとしたら、あの時の状態は......」
「みんなで地面を見ていた!」
「そういうことよ」

ミオの言葉に納得する。

彼女の説明は全て辻褄が合っているし、少なくとも今のところそれ以外の解釈は思い浮かばない。改めて検証をしてみる必要はあるかと思うが、恐らくその解釈で間違いないと思われた。

皆がミオの推理に感心する中、ハルはこの解釈をさらに深掘りしていく。

ミオの推理は恐らく正しいだろう。
それはハルたちが回避した近藤ハナの消滅、ミオたちが回避したきゅうりの消滅という二つの例から証明できると思う。

それでは何故消滅対象の状態を変えたことで消滅を回避できたのか――。

それはこの【予定表】が「予定に沿ったものを消滅させるための表」だからだろう。

だから予定にない状態となったものは【予定表】通りでないため、消滅の対象から外れたというわけだ。

【予定表】通りでない状態ということは、例えば「上を見ている」状態なら「上を見ていない」状態、つまり記載されている状態と異なる状態にすればよいということだ。

これで本当に消滅の回避が可能であるならば、事前に【予定表】で消滅対象についての
詳細を確認できるハルたちには、それが可能であるということになるだろう。

ようやく見えてきた消滅回避の方法。

これでハルやミオのような不幸な想いをする人が減らせるかもしれないと思うと、少しだけ気分が高揚するのを感じていたが、消滅に深く関わることで、今後の彼らを取り巻く環境が大きく変わることを、この時の彼らはまだ知らなかった。
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消滅予定表作者:こまりさ
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第12話 解析

7月6日 午後 | 風見駅付近

梅雨真っ盛りのこの日、街中には傘の群れが溢れている。
その一つに紛れて歩くハルは、湿気で纏わりつく袖にわずかな不快感を覚えながら、先日リクと待ち合わせたファーストフード店へ向かっている。そこへ向かう足取りは、空模様とは対照的に軽い。

店内に入り周囲を見回すと、既に他の仲間は席について談笑していた。
ハルが到着したことに気付くと、先に席に着いていた仲間の一人、リクが軽く手をあげる。

「よお、遅かったな」
「まだ約束の時間より早いだろ?」
「まあそうだけどな」

軽口を叩きながら席につき、他の二人とも言葉を交わす。

「ナナも早かったんだね」
「ハルが遅いだけだよ」
「なんでそんなに張り切ってるんだよ」
「だってミオ先輩と話せるチャンスだもん」

いつの間にかそんなに親しくなったのか、どことなく嬉しそうな彼女が「ねー」と声をかけた相手、ミオに対して少し緊張しながら挨拶をする。

「ミオ先輩、この間はどうもでした」
「話し方が固いわね。これから協力していくんだから、もっと普通に接して頂戴」

ミオの雰囲気は先日までとは明らかに異なっていた。

凛とした雰囲気はそのままに、他者を射抜くような冷たさがなくなっている。
それどころか、秘密を共有した仲間へ向ける信頼さえ感じられる。

もっともこの四人しか知らない秘密を共有している以上、文字通り仲間ではあるのだが。

「そうだよ、ミオ先輩ってキリッとして近寄りがたいオーラが出てたけど、こんなに話しやすい人だなんて思わなかったよ」
「ナナはいきなり砕けすぎじゃないか?」
「そんなことないよねー?」
「ええ、そうね。それくらいの方がありがたいわ」
「そっかそっか、ミオは近寄りがたいのか」
「言いたい人には言わせておけばいいのよ」

事前にナナが買っておいてくれた飲み物を口にしながら周囲に目をやる。

今日は週末であるせいか、家族連れが多い。
小さい子供が両手で抱えるようにしてハンバーガーにかぶりつき、口の周りをソースだらけにしているのが実に微笑ましい。友人同士で談笑しているグループや、本を読み耽って自分の世界に没頭している人もいる。

そんな中で、一見すると他と変わらない友人同士のグループに見えるハルたちであるが、この四人を結んだきっかけは普通とは言い難い。

そして今日は、そんな普通とは言い難い内容について相談をするために集まったのだ。

「それで、今日はこれからのことを話すんだろ?」
「そう、俺がずっと呼び掛けてたことがやっと実現するんだよ。なあ、ミオ」
「もう、悪かったわよ。いいから話を進めましょ」

消滅に対して協力して対抗していこうということになったのが2日前。
今日はこれから具体的にどうしていこうか、ということを話し合うためにこの場が設けられた。ハルとしても協力者が増えることは喜ばしいことであり、これからのことを前向きに考えられると思ったからこそ、ここまでの道中、自然と足取りが軽くなっていたのだ。

「それじゃみんなが好き勝手に話し出してもきりがないから、俺が司会進行ってことでいいか?」
「うん、いいんじゃないかな?」
「それじゃ私がメモを取るね!」

リクの立候補にハルが賛同し、ナナは自ら書記を名乗り出る。

「それじゃまずはおさらいだ。俺たちのうち【予定表】を見ることができるのはハルとミオ、俺とナナは見ることができない」
「そうだよ。だから二人とも色々悩んだりしてたんだよね......」
「それは確かにそうだし、今だって吹っ切れたわけではないわ。けど、それでも受け止めていかないといけないっていうのは理解しているわ」
「おっと、脱線は後回しだ。まずは事実の確認を優先しようぜ」

一番雑談が好きそうなリクが、話題がずれそうになるとすかさず軌道修正をしてくる。普段は一番自由に見えるリクだが、こういう時の進行は妙に上手い。おかげで話はスムーズに進んでいく。

「で、【予定表】が見える二人に確認なんだが、それってどんな感じでどんな風に見えてるんだ?」
「あ、それは私も気になるー!」

【予定表】を見ることができる二人が同時にスマホを取り出し、画面を操作する。
それを見ることができない二人が画面を覗き込むが、やはり待ち受け画面を撫でているようにしか見えなかった。

「どんな感じって言われても、見た感じはメモ帳アプリのように見えるけど......」
「そうね、そこに消滅対象の情報が書かれているって感じだわ」
「情報ってどんなことが載っているんだ?」
「ここに載っているのは日時、対象、場所、状態ってとこかしら」

ナナがしきりに頷きながらペンを走らせる。

「それで、その予定はどれくらい前から出てくるんだ?」
「どれくらい前か......それはあまり気にしなかったな」
「それなら折角だから今確認してみましょ」

確かに今までは内容ばかりに気を取られ、消滅の予定はいつから表示されるのかなどはあまり気に留めていなかった。
リクの指摘に改めて【予定表】を確認しながら、やっぱり協力することになって良かったと思うハルであった。

「私の方で確認できる一番先の予定は......3日後ね」
「僕の方もそうみたい......あれ?」
「どうしたの?」
「いや、ここからちょっと離れた場所なんだけど、既に過ぎている予定があるんだよ」
「過ぎてるのに予定ってのも変な言い方だな」
「いちいち茶化さないで。でも本当ね、私の方でも過ぎてる予定が確認できるわ」

それからさらに確認してみると、他にも消滅予定時間が過ぎたものがいくつかあった。それらを眺めていると――。

「あ、消えた」

どうやら予定時間が過ぎても、1時間くらいは【予定表】に残っているようであるが、それを過ぎたものは先ほどのように自動的に消去されているようである。

「そっか。だから消えた直後は確認できたのに、翌日に見たら無くなってたのか」
「改めて相談してみると色々新しい発見があるわね」
「それで、内容についてはどうだ。終わった予定のものとまだ終わってない予定で違いはあるか?」
「そうね......特に違いはないように見えるわ。既に終わってる予定では......例えば中央通りの看板とか第三公園のトイレの扉なんてのも出てるけども、特に変わったなんてことはなさそうね」
「そうだね、確か僕が以前に消えた直後に見たときにも書いてある内容に変化はなかったような気がするよ」
「おい、ちょっと待てよ」

検証を続ける二人にリクが待ったをかける。

「今、看板とかトイレの扉って言ったよな?」
「あ、うん。言ったけど、それがどうしたの?」
「中央通りや第三公園ってのは、それらがあった場所の事だよな?」
「うん、そうだよ」
「なんで俺がそれを認識できるんだ? 場所は伝えられないはずだろ?」
「そう言えば......」

【予定表】に書かれている内容で伝えられるのは消滅対象の名前と消滅予定時間だけ。場所や状況は共有できなかったのはハルも確認済みである。

それなのにミオが読み上げた内容をリクは認識できた。
これは今までにないことであった。

「【予定表】に載っている情報は伝えることができなかったから、終わった予定もそうだと思って確認したことなかったわね」
「ってことは、終わった予定なら【予定表】が見えない人にも伝えられるのかな?」
「でもそれって必要かしら?」
「必要かどうかよりも、今はできることとできないことをしっかり把握していくのが優先だと思うぜ。何せ俺たちはまだ【予定表】がどういうものかよく分かってないからな」
「確かに......それもそうね」
「それじゃちょっと試してみるよ」

そう言うと、ハルは【予定表】の終わった予定を読み上げる。

「えっと、さっきの中央通りの看板は......蔓に巻き付かれてる、だって。どう?」
「うん! 分かったよ! 蔓に巻きつかれてるんだね」

確かに終わった予定であれば書いてある全ての情報を共有できるようだ。
これができたところで何の役に立つのかは分からないが、リクの言う通り、できることやできないことを把握しておくことは間違いではないだろう。

「それじゃ今度はこれから起こる方の予定を読み上げてくれないか?」
「それは伝わらないって分かってるでしょ?」
「だからミオじゃなくてハルに読んでもらうんだよ」
「何で僕が?」
「確かにミオが言っても伝わらなかったけど、もしかして言う人によって違うかもしれないだろ? 男には男の言うことしか分からない、とかな」
「確かに試してみる価値はあるね」
「だろ?」

今は互いに二人だけであった時にはできなかったことを色々と試す良い機会だ。
せっかくだから色々と試してみようと思ったので、リクの言う通り、今から起こる消滅の予定を読み上げる。

「7月7日、●●●ってとこにある●●●●ているオートバイ用のタイヤ」
「......」

ハルの読み上げに沈黙で答えるリク。

「どう? 認識できた?」
「うーん......オートバイ用のタイヤってのは分かったけど、それ以外はやっぱり認識できなかったな」
「そっか、やっぱ消滅前の予定は認識できないのか」

ダメで元々なので大して落胆していない。
分からないことはこうやってトライアンドエラーを重ねて認識を深めていくしかない。

そう思っていたのだが......

「ちょっと待って」

今度はミオがハルの言葉に手をあげる。

「ハルが言った言葉、私も何を言っているのか分からなかった」
「えっ?」
「正確にはリクと同じ、オートバイ用のタイヤというところだけしか認識できなかったわ」

会話を重ねるたびに色々なことが判明してきたが、ここにきてさらに新たな謎が浮上する。
首を捻る三人に対して、ナナが忙しく動かしていたペンを置き「疲れたー」と手を振りながら口を開く。

「それってさ。もしかしたら他の人には伝えられないんじゃない?」
「ん? どういうこと?」
「ハルもミオ先輩も自分たちの【予定表】は見ることができるけども、私やリクにはその内容を伝えられないんでしょ?」
「そうだね」
「今までは【予定表】が見れるのは自分たちだけだったからそれ以上のことは分からなかったけど、今は【予定表】を見ることができる人が二人になったじゃない? でも他の人にその内容を伝えられないってのは【予定表】を持っている人同士でも同じなのかもって」
「なるほど......確かにそう考えるのが自然かもしれないわね」
「だからさ、試しにミオ先輩も【予定表】を読んでみたらどうかな?」
「そうね、その必要があるわね。それなら今言ったオートバイ用のタイヤについてはこっちでも確認できるから、私の方でも読んでみるわよ」
「はい、お願いします」
「7月7日、オートバイ用のタイヤ、場所は●●●、●●●している」

敢えて読む順序を変えたのだろうが、ハルが認識できたのは先ほどのリクやミオと同様、消滅対象の名前だけだった。

「やっぱりナナの言った通りみたいだね」
「でもミオ先輩もハルも同じ【予定表】が見えているみたいだからあまり影響はないんじゃない?」
「そうかもしれないけど......ミオ先輩、念のためにちょっとミオ先輩の【予定表】を見せてもらっていいですか?」

ミオがスマホの画面を皆に向ける。
待ち受け画面は愛らしい犬の写真が映っている。これがきっとサロンなんだろう。

ナナは顔を綻ばせて「かわいい!」などと叫んでいるが、ハルはその画面を見渡し、あるべきものが見つからないことに気付く。

「この画面に【予定表】があるんですよね?」
「そうよ」
「僕には【予定表】が見えないです」
「おいおい、それってどういうことだよ」

口を挟むリクをよそに、ハルは考え込む。

普段は一度考えこむとなかなか思考の海から帰ってこないのだが、この時は素早く思考を終えると、自分のスマホを皆に向けながら問いかける。

「ミオ先輩、僕の【予定表】は見えますか?」
「......見えないわね」
「やっぱり......」
「何か分かったか?」
「ああ」
「今ので私も分かったわ。【予定表】を見ることができるのは自分だけってルールはすべてに適用されるってことね」
「そう、つまり僕が予定を共有できない相手はナナやリクだけじゃなく、【予定表】が見えるはずのミオ先輩も含まれるってことみたいだ」

ここでリクの提案で一休みがてら、ここまでで分かったことを整理してみようということになった。新しい発見に皆知らず知らずのうちに力が入っていたようで、一気に空気が弛緩していく。

「なんか一気に色々分かって疲れちゃったよ」

ナナはそうぼやきながらすっかり冷めてしまったポテトに手を伸ばし、氷が解け切ったドリンクを飲み干す。

まだ先は長そうなので追加が必要になるかもしれないとミオとリクが買い出しの役割を買って出てくれたので、その間にハルはナナが取ってくれていたメモに目を通してみる。

=====
予定表について
この予定表はとあるモノやヒトが消滅する予定が記されたものである。

・記載されていること
日時
対象
場所
状態

・予定が載るタイミング
最長3日前、最短1時間前

・予定が消えるタイミング
消滅予定時刻から約1時間経過後

・予定の共有について
対象、日時は共有可/場所、状態は共有不可
但し消滅予定時刻を過ぎたものは共有可能
これは予定表所有者同士でも同様

・予定表について
自分が所有している予定表以外は認識できない
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ここまでで分かったことをまとめたのがこれである。
買い出しから戻ってきたミオはナナがまとめてくれたメモを手に取り、じっくりと読みふけっている。

「なるほど、だいぶ分かってきたわね」
「ナナがしっかりメモを取ってくれてたおかげだね」
「えへへー」

ナナが揚げたてのポテトを手に取りながら嬉しそうに笑い、次から次へとポテトを口に放り込んでいく。

自ら買って出た書記という仕事が思いのほか大変だったのであろう。
焦って喉を詰まらせそうになる彼女に「ほら、何か飲みながら食べなよ」とドリンクを手渡す。

「ここまでは分かったことをまとめただけよ。この【予定表】について知ることはもちろん大事だけども、私たちが本当に知りたいのはこの先のことよ」

ミオが弛緩した空気を引き締めるように告げると、手に取っていたメモを皆に見せる。さっきナナがまとめた内容の下にいつの間にか書き加えたのか、【予定表】に対する疑問点が箇条書きにされていた。

・疑問点
誰がこの予定表を管理、運営しているのか
なぜハルとミオが予定表を見ることができるようになったのか
なぜリクとナナは予定表を見ることができないのか
他にも予定表を見ることができる人はいるのか
消滅を避けるためにはどうすればいいのか
この消滅はいつから始まっていたのか
この消滅はいつ終わるのか

「ぱっと思いつくだけでこれだけの疑問があるわ」
「確かにどれも疑問に思っていたことだらけだ......」
「そうだな、いつの間に【予定表】があることに慣れちまったけど、そもそもこういうもんがあること自体がおかしいんだよな」
「そう考えると【予定表】について分かってることってちょっとしかないけど、これって本当に役に立つのかなー?」

ミオが挙げた【予定表】にまつわる疑問点。
いや、これらは消滅という現象に関する疑問と言い換えてもいいだろう。

こうしてあげてみると、まだまだ分からないことの方が多い。
そう思うと色々と分かったことがあったとはいえ、まだ喜べるような状態ではなかったかもしれない。

「もちろんよ。相手のことを知るのは戦において当然のことだもの。ここまでまとめた情報は決して無駄なんかじゃないわ」
「そうは言っても、ここまでの情報でこの疑問点を解消するのは無理だぜ」
「全部を解消する必要なんてないわ。そりゃもちろん全部分かった方がすっきりはするけども、この中で私たちが解消しなくちゃいけない疑問は一つだけ......」

そう言って言葉を区切ると、視線をハルの方に送る。
彼女の言いたいことは良く分かる。

つまり......

「「消滅を避けるためにはどうすればいいのか」」

ハルとミオの声が重なる。

「そっか、確かにそりゃそうだ」
「色々知りたいことはあるけども、まずはそれが一番優先だね」

リクとナナも賛同し、改めて四人の想いが一つに重なる。

「でも今までだって色々調べてたけど分からなかったよな」
「ええ、そうね。でも以前に聞いたハルの話、それとこの間の消滅で既にヒントは得ていたのよ」
「僕の話?」

確かに偶然とは言え消滅を回避したことはあるが、それは何が理由で成しえたのか今でも分かっていない。その場に居合わせたナナと一緒に首をひねるのだが、やはり何も思い当たる節がない。

「ハル、あの時の【予定表】の内容は覚えてる?」
「えーっと......確か風見中央公園で......」
「いえ、その時の状態だけでいいわ」

細かく思い出そうとするハルにミオが思い出すべき内容を指定する。

「状態は......確か空を見ている......。いや夕日を見ているだったかな?」
「なるほど。いずれにしてもあのお婆さんは上の方を見てるって内容だったのね」
「うん、確かそうだったと思う」
「それで、ナナもその場に立ち会ってた、と」
「うん、そうだよ」

何が聞きたいのか分からないが、それでも聞かれたことに答えていく。

「で、私たちが遠くからあなたたちを見ていた時、お婆さんも含めて三人で何か拾ってたわよね」
「そうそう、あの時はハルに画材が入っていた紙袋を破られちゃって、中身がぶわーっと散乱しちゃったんだよ」
「それは災難だったわね」

思い出し笑い、というのは聞いたことがあるが、思い出しジト目というのは初めてだ。

あの時のことを思い出し、何とも言えない視線を向けてくるナナの視線をかわすようにそっぽを向くが、それでもミオが何が言いたいのか分からず、たまらず疑問を投げる。

「で、それでそれのどこにヒントが......」
「それじゃ今度は一昨日の消滅の話をするわね」

ハルを無視して話を変えるミオ。
それを若干不満に思うが、恐らく今は重要なことを話そうとしているのだろう。
そう思ったので口を閉ざし、再びミオの話に耳を傾ける。

「この間は無人販売所で売られている野菜が対象だったわ」
「ああ、俺が買ったきゅうりのことだな。でもあれはあの時消えなかったよな?」
「そう、その通り。消えなかったわ。リクが買ったきゅうりだったからね」

なんとなく言いたいことが分かってきた気がしたが、それに一早く気付いたのはナナであった。

「売られているきゅうりが消えるはずだったけど、リクが買ったから売られているきゅうりじゃなくなったってこと?」
「ご明察、その通りよ」
「もしかして俺が買わなかったら、あのきゅうりはあの場で消えていたってことか?」
「今となっては確認する方法はないけど、きっとそうなっていたと思うわ」

ミオの推理を聞いてハルが気付く。

「それじゃ僕たちが消滅を回避できたのは......」
「そう、その時に書かれていたのは空か夕日か分からないけども――もし書かれていた内容が上の方にあるものを見ているってことだとしたら、あの時の状態は......」
「みんなで地面を見ていた!」
「そういうことよ」

ミオの言葉に納得する。

彼女の説明は全て辻褄が合っているし、少なくとも今のところそれ以外の解釈は思い浮かばない。改めて検証をしてみる必要はあるかと思うが、恐らくその解釈で間違いないと思われた。

皆がミオの推理に感心する中、ハルはこの解釈をさらに深掘りしていく。

ミオの推理は恐らく正しいだろう。
それはハルたちが回避した近藤ハナの消滅、ミオたちが回避したきゅうりの消滅という二つの例から証明できると思う。

それでは何故消滅対象の状態を変えたことで消滅を回避できたのか――。

それはこの【予定表】が「予定に沿ったものを消滅させるための表」だからだろう。

だから予定にない状態となったものは【予定表】通りでないため、消滅の対象から外れたというわけだ。

【予定表】通りでない状態ということは、例えば「上を見ている」状態なら「上を見ていない」状態、つまり記載されている状態と異なる状態にすればよいということだ。

これで本当に消滅の回避が可能であるならば、事前に【予定表】で消滅対象についての
詳細を確認できるハルたちには、それが可能であるということになるだろう。

ようやく見えてきた消滅回避の方法。

これでハルやミオのような不幸な想いをする人が減らせるかもしれないと思うと、少しだけ気分が高揚するのを感じていたが、消滅に深く関わることで、今後の彼らを取り巻く環境が大きく変わることを、この時の彼らはまだ知らなかった。
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次の話第13話 チーム行動
消滅予定表作者:こまりさ
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