またね
おかしな時間に目が覚めた。蛙子ちゃんの家を出てみると、遠くの空がほんのり明るくなってきている。
ゆうべの騒がしさが嘘のような静寂が村を包み込んでいる。一部の普段は早起きなカッパたちも今日ばかりは疲れ果てて眠っているのだろう。
ぐーっと伸びをする。眠気はすっかり消え失せていた。
蛙子ちゃんの家をそっと離れる。わたしはふと思い立った。散歩に出かけることにしよう。
思えばカッパの国に来てからひとりっきりになるのは二度目のことだ。誰の気配もしない道をゆったり進んでいく。
すこし歩くとわたしはとある場所に出た。そこはわたしにとって思い出の場所。初めての夜、蛙子ちゃんが「あーしを召しませ」と言ってくれた場所だ。
「......」
すぅ、はぁ。自分の呼吸音がやけに鮮明だ。空気が美味しい。鼻をくすぐる甘い匂いは睡蓮のものだろうか。
目の前に広がるのは広大な水辺。あの日、満天の星を抱え込んでいた水は今、朝日を迎えようと光を反射してキラキラしていた。
そのキラキラがまるでわたしと蛙子ちゃんの一週間みたいで、わたしは――。
「――道世! 道世ー!」
後ろからいつもの声がした。けれどいつもの声じゃなかった。それは彼女らしくない必死な呼び声だったから。
振り返ると、遠くでわたしを探しながら駆け回る蛙子ちゃんがいた。蛙子ちゃんはわたしの姿を見つけると、泣き出しそうな顔をして駆け寄ってくる。
「道世っ‼︎」
「蛙子ちゃん、どうしたの?」
「どうしたじゃないよっ! 目が覚めたら道世がいなくて、どこにもいなくて! 家の中も村の中もどこを探してもいなくって! あーし、てっきり道世が――」
わたしの肩を掴んで揺さぶると、わたしをまっすぐ見ながら大粒の涙をぽろぽろ流す。
「――道世が、帰っちゃったんだって思って、あーし、あーしはぁ......!」
わんわんと泣き出してしまう蛙子ちゃん。
心配をかけてしまった後ろめたさと、こっちまで哀しくて泣きたくなるのと、探しにきてくれて嬉しいのと――わたしの心がぐちゃぐちゃに混ざる。
「ごめん、ごめんね。勝手にいなくなったりしないから。だから泣き止んで、ね?」
「泣き止めないぃぃ......っ!」
「お願いだからっ! じゃないとわたし、わたしまでっ......」
視界に映った蛙子ちゃんの姿が朧げに溶けていく。それが嫌でたまらなくて瞬きをすると、その瞬間から涙が溢れて止まらなくなった。
力強く蛙子ちゃんを抱きしめる。蛙子ちゃんもわたしの背中に手を回してぎゅっと力を込めた。
二人分の泣き声が、空に、水辺に、大地に広がる。わたしたちを朝日が照らしてもとめどなく、頭が空っぽになるまで泣き続けた。
*
すっかり陽が昇ったころには涙も止まり、わたしたちは座り込み、手と手を繋いで水辺を眺めていた。大泣きしてしまった気まずさからか、それとも単に言葉が見つからないせいか、わたしたちはずっと黙っていた。
さわさわと水のせせらぐ音だけが耳に届き、触れ合った手を通して熱が伝う。時折、指先をぴくりと動かして、わたしがそこにいることを確かめる仕草がいじらしくて、そのたびわたしも指先を動かして応えた。
「あーしさ。人の子のあったかさを知らなかったんよ」
唐突に、けれど自然に、蛙子ちゃんは話し始める。声はまだ震えていたけれど、とても優しい声色だった。
「村に人の子はあーしだけだからな。だから道世に抱きしめられたときびっくりした! 人の子ってこんなにあったけーんだって!」
「うん」
「それがなんか嬉しくて、あーしの気持ちまでポカポカしてきて。道世のためになりたいって思った」
「......そっか」
「ん」
蛙子ちゃんはそれっきり黙ってしまう。わたしは会話を途切らせたくないと思った。もっと蛙子ちゃんの声が聞きたかった。
「わたしも忘れていたんだ。人の温かさ」
「え?」
「わたし人見知りだし、自信も持てないし、なにもできない、そんなだめな子だったから。誰かと触れ合うのが怖かったんだ」
「またそういうこと言う!」
「あはは。でも今はちょっと違うよ。蛙子ちゃんのおかげ。ありがとね」
「そ、そか。んへへ、あらたまって言われるとなんか照れるな」
指先を動かして、ぎゅっと手を握り合う。すると蛙子ちゃんは「わひゃー、あちいあちい!」と恥ずかしそうな声を上げた。
わたしも同じ気持ちだったから、もう片手をうちわにして顔を仰いだ。
「道世はさ」
ぎゅっと握られる手に力がこもる。蛙子ちゃんの緊張が伝わってきて、わたしまで緊張してしまう。こういうのも共感というのだろうか。
「今でも、帰りたいと思うか?」
「......」
「そっか」
蛙子ちゃんは立ち上がってわたしの前に立つ。そしていつかのように両手を広げて、ニッと笑った。
それはいつもの蛙子ちゃんの笑顔だった。
「言ったよな! そういうのはお願い事にせんであーしに言ってって!」
蛙子ちゃんの頼りがいのある笑顔に胸がきゅうと締めつけられる。こういう時なのにどうして笑ってくれるのだろう。自分の気持ちを誤魔化すため? 寂しい気持ちを隠すため? それともわたしのため?
きっと蛙子ちゃんの気持ちもぐちゃぐちゃなんだ。
......応えないと。だってわたしは蛙子ちゃんにたくさんのものをもらったのだから。
自信をくれたこと。特訓をしてくれたこと。大戦争の時に守ってくれたこと。姿を消したわたしを探しにきてくれたこと。そしていつだって笑顔にしてくれたこと。
そのどれもが、わたしにとって大切な宝物なんだ。
わたしは立ち上がり、胸元を手で押さえて決意を告白する。
「わたし、帰りたい。蛙子ちゃんにもらったもの全部持って帰って、わたしのことばかにしたみんなを見返してやりたい! わたしだってやれるんだってことをわたしに教えたい! もう自分に負けたくないから! だからわたし、カエルを探す!」
「ん! よく言ったぞ道世! あーしが叶えてやる!」
蛙子ちゃんが勢いをつけて抱きついてきた。わたしも抱きしめ返してくるくる回る。
わたしは体を包む感覚を心に焼きつける。きっとこのぬくもりを一生忘れないだろう。
水辺にはもう泣き声は響かない。代わりに響くのは楽しげな笑い声。打てば響き、響き合い、また響く。わたしたちなら永遠に笑い合えるような気がした。
*
薄青空の下、蛙子ちゃんの案内でしばらく歩く。わたしはまだ泳ぐまではできないので、水辺を渡ったとしても足のつく範囲だから助かった。もしかしたら蛙子ちゃんがわたし向きのルートを選んでくれたのかもしれない。
「見えてきたぞー。あれ、あれ」
そこには水辺の上に立つ鳥居と、その向こう側にある小島に祠が建っているのが見えた。腰まで沈む水辺をじゃぶじゃぶ言わせながらゆっくり駆け寄ると、だんだんと石像のシルエットが見えてくる。
小島に上陸してまじまじと石像を見つめる。
「......」
確かにカエルだ。わたしの知るカエルそのものだ。両手で抱えられるぐらいの大きさの、カエルにしてはとても大きめの石像だ。
まじまじと眺めるわたしに蛙子ちゃんが訊く。
「どうだー?」
「うん、カエルだった」
「人間の国にいるのと同じ形してんのか」
ふたりしてじぃーっと像を見つめるが、像は像である。
「んー、やっぱりカッパの国じゃ見たことねーなぁ」
「そっか、そうだよね。伝説の生き物なんだもんね」
カッパの国の生活のなかで、わたしもそれとなくカエルを探していた。しかしこれだけ水があるにもかかわらず見かけたことがない。やはり伝説は伝説なのだろうか。
「まーのんびり探すしかねーな。どする、いったん戻っか?」
「うーん。そだね......」
頭をひねっていても仕方ないと踵を返す。蛙子ちゃんも隣に並んで帰り道を歩き始めた。
その矢先だった。
「ゲコ」
うん? いま何か聞こえたような。
「蛙子ちゃん、なにか言った?」
「いんや?」
気のせいだったのだろうか。そう思いつつ耳を澄ましてみる。
「ゲコ、ゲコ」
やっぱり気のせいじゃない!
背後をパッと振り返ると、先ほどの石像が目に映る。
その石造りのカエルの頭に、それはいた。緑色で小さいけれど、石像にそっくりのその姿!
「ああーっ‼︎ カエル‼︎」
「えっ⁉︎ いたのか⁉︎」
蛙子ちゃんも振り返る。そしてその姿を見つけたようだ。
その途端、カエルは石像の上から飛び降りて、水辺の奥のほうに飛び込んでしまった。
「ま、待って!」
慌てて後を追い、水辺に飛び込む。
しかしわたしは想像していなかった。さっきまでの水辺は足がついていたのに、急にこんなに深くなるなんて。
そう。そこは水辺の中でも海のように深い場所だった!
わたしは沈みそうになり慌てて浮かぶ。しかしこうしている間にもカエルは遠く離れていくことだろう。心臓の音が高く鳴る。身動きを取れないのに気持ちばかりが先走る。
「ど、どうしよう、カエル行っちゃう、どうしよう蛙子ちゃん!」
蛙子ちゃんを見ると、彼女は呆然と立ち尽くしていた。どこを見ているのか分からない目で、口をぽかんと開いて、腕を力なく脱力させて。とても心細そうに立っている。
わたしは蛙子ちゃんの気持ちがわかる気がした。きっと後夜祭のとき、わたしが「置いていかれる」と思ったあの瞬間の、そのまたすごい版。わたしを見送ることしかできない、とてもつらい気持ち。
とてもよく分かる。だから――。
――だから置いていかないよ。置いていくもんか!
「お願い、蛙子ちゃんっ‼︎」
蛙子ちゃんはハッとしたように瞬くと、自分の両方のほっぺたをパン! と叩いて「あーしがビビってどうする!」と言い放ちわたしのそばに飛び込んでくる。
「すまん道世! カエルは⁉︎」
「分からない、でも諦めたくない!」
「そか、分かった! 行くぞ!」
わたしの手を握った蛙子ちゃんはもう片手で水をかきわけ潜り始める。わたしは引っ張られるままに蛙子ちゃんに連れられながらカエルの姿を探した。
水底が見えないほど深く、まるで巨大な穴のよう。それは泳げないわたしには途方もなく恐ろしい光景だった。こんな広大な水中でカエルを見つけられるだろうか?
違う。見つけるんだ、絶対に!
深く深く潜る。その最中、遠くに緑色の小さな生き物を見つけた。カエルだ!
「蛙子ちゃん、あっち!」
「あーしも見っけた!」
なんとか泳ぎながらカエルを追いかける。蛙子ちゃんの足を引っ張っているのがもどかしくて、わたしもすこしでもと足をバタつかせる。
そしてついに蛙子ちゃんの手が届こうとしたとき、不思議なことが起きた。パッと視界が光に包まれ、次いで感じたのは、水中特有のものとはまた別の浮遊感だった。
あまりの眩しさに目を閉じていると、やがて光が収まってくる。そしていつの間にかわたしは固い地面に寝転がっていた。
そこは一週間お世話になったカッパの村の広場だった。
「......あれ?」
なんでこんなところに。わたしたち、さっきまで水中にいたはずなのに。
「んあ、帰ってきたのか......? はっ、カエルは⁉︎」
わたしも思い出して辺りを探すと、すぐそこで首を傾げて「ゲコゲコ」と鳴いているカエルの姿を見つけた。
「いたーっ!」
わたしと蛙子ちゃんとで咄嗟に捕まえる。
手と手を重ねた檻のなかに、確かにカエルが収まった。
やった、カエルを捕まえた!
「蛙子ちゃん!」
「道世!」
顔を見合わせて喜びを分かち合う。ついに目的を達成できた! これで帰れる!
「蛙子、道世ちゃん。これはどういうことかな? 突然広場が輝き始め、気がついたら二人ともそこに寝ていたが」
そばでおとんさんが訊ねてくる。よく見ると周りにはカッパたちが集まってちょっとした騒ぎになっていた。
興奮冷めやらずわたしと蛙子ちゃんはカエルをかかげてみせる。
「おとん! カエル、カエルを!」
「捕まえました!」
場がしんと静まりかえる。そしてややあって、
「なんと――⁉︎」
というおとんさんの声を皮切りに、あちこちから歓声が上がる。その歓声の最後にカエルが一言「ゲコ」と付け足したのだった。
*
カエルはもう逃げる気がないらしく、広場の真ん中でじっとしていた。
それをおとんさんがよく観察して「うぅむ」と唸る。
「この姿、この形、この色つや。間違いない、伝説のカエルだ......しかしどういうわけだろう? 蛙子はともかく道世ちゃんまで村に帰ってきたのは」
「んあー、それな。たぶんあーしのせい」
頬をポリポリかきながら蛙子ちゃんが言った。
「カエルを捕まえるとき考えたんだ。捕まえたら道世と一緒に帰ろう、それからでも遅くないって」
「そうか......それで道世ちゃんごと村に帰ることができたのだな」
納得しておとんさんはうんうん頷いた。
それからわたしを見て、おとんさんはすこし寂しげな声を出す。
「行ってしまうのだね、道世ちゃん」
「......はい」
頷くと、周りで見物していたカッパたちも口を開いた。
「寂しくなるなぁ......。なあ、もう一日ぐらい!」
「あんたばか、よしなさいな! それは道世ちゃんが決めることだよ」
「......どこか行っちゃうの?」
わたしとの別れを惜しんでくれているのが、寂しいけれど嬉しくて、わたしは困りながら笑った。
「みなさん、今までありがとうございました。わたし、人生で一番楽しかったです!」
「道世ちゃーんっ‼︎」
それからは号泣の嵐がカッパたちの間に吹き荒れる。そんなに悲しまれたらこっちまで泣きたくなるではないか。さっき枯れたはずの涙が込み上げてくる。
「道世!」
「蛙子ちゃ......わっ」
蛙子ちゃんがわたしに抱きついてくる。わたしもいつもみたいに抱きしめ返した。
「行かないでって言ったら、道世は困るか?」
「......うん、そうだね」
「そっか」
蛙子ちゃんはずびーっと鼻を鳴らし、肩と声を震わせながら叫んだ。
「でも行くな、道世! やっぱり嫌だって言わせてくれ! それぐらいはいいだろ⁉︎ だって道世は、あーしの人の子の初めての友達なんだ! こんなあったけー友達は初めてだったんだ!」
「蛙子ちゃん......」
「行くな、行くな行くな――っ! 道世と一緒がいい――っ‼︎」
「わたしだって嫌だよ! 帰りたくない、蛙子ちゃんと一緒がいいよっ‼︎ でも、もう決めたから......わたしに、帰ることを、諦めさせないでよぉ!」
わたしはハッと気がついて泣きじゃくったまんま蛙子ちゃんに提案した。
「そうだ、蛙子ちゃんがついてきてよ! 人間の国に! そしたら離ればなれにならないよ? 蛙子ちゃんと一緒に村に戻れたんだから、きっとできるはず――」
「それはだめ!」
「なんで⁉︎」
「だって、あーしの帰る場所はここなんだ。だからカエルは帰りたいと思ったあーしをここに連れてきたんだ。胸張ってここを故郷だって言って、ここに残るって思わないと駄目なんだっ‼︎」
「じゃあどうしたってさよならしかないじゃん......っ‼︎」
「ううううう......!」
「わあああん......!」
愛し合う。慈しみ合う。惜しみ合う。そうやってこの国は回っている。
なんて美しい場所だろう。なんて名残惜しいんだろう。なんて悲しいことだろう。
それになんて――嬉しいことだろう。
思い出が湧いては消えて、次の思い出を映し出す。いつまで経っても終わらない映画のように、わたしの頭のなかで繰り返される。「道世」と呼ぶ蛙子ちゃんの声が耳のなかでループする。
蛙子ちゃんも同じだろうか。
「わたしね、カッパの国に来て良かったよ」
「......うん」
「たくさんのものを貰ったよ。ねえ、蛙子ちゃん。わたしは蛙子ちゃんたちになにかをあげられたかな?」
「そんなのっ、当たり前だろ‼︎ 見てみろ、全員泣かすなんて罪な人の子だっ‼︎」
「それなら、良かったっ......!」
「はは......なんだよ、もう......」
より一層、抱きしめる力を強くして、蛙子ちゃんは言ってくれた。
「道世、あったけーなーっ」
*
それからどれほど経った頃か、どちらからともなくそっと離れて、わたしたちは笑い合った。泣き顔でお別れなんて絶対に嫌だった。それは蛙子ちゃんも同じだったのだろう。
「じゃあ、わたし、行くね」
「ん。達者でなー」
手をひらひら振って、不器用な笑顔を浮かべる蛙子ちゃん。でもそれはわたしだって他人のことは言えない。
「カエルさん、お願いね」
わたしが手のひらを差し出すと、カエルは「ゲコ」と鳴いてぴょんっと乗っかってきてくれる。
それから念じる。『わたしを人間の国に帰して』と。
そのときだ。ぽわっと柔らかい光がわたしを包み込んでいく。ゆっくり、ゆっくりと、わたしの気持ちを汲んでくれているようにのんびりと。
「道世ちゃん。蛙子と友達になってくれてありがとう」
おとんさんが言う。それからカッパたちも言いたいことが溜まっていたらしく、なだれのように言葉を尽くしてくる。
「道世ちゃんの笑顔が好きだったよ!」
「飯を美味そうに食ってくれてありがとな!」
「可愛いんだから向こうでもたくさんオシャレするんだよ!」
「道世ちゃーん! バイバーイ!」
わたしは笑顔でお返しする。カッパたちとも色々あった。語り尽くせないほどに色々だ。
「道世!」
蛙子ちゃんの声がしてそちらを見ると、わたしに手を差し出していた。
わたしたちはぎゅっと握手して、微笑み合う。
「また会えるか?」
「どうだろうね。でも会えたらいいな」
「んじゃ、いつかあーしが人間の国に遊びに行く!」
「えっ、ほんとに? どうやって?」
「分かんないけど、ぜったいだ! だから約束!」
わたしは笑って握った手をほどき、小指を出すと、蛙子ちゃんはきょとんとした。
「小指を出して」
「う、うん」
それからわたしたちは指切りをした。
「人間の国ではね、こうやって約束するんだよ」
「おおおー」
「もっと色んなことを教えてあげる。だからぜったいまた会おうね」
「ん! 約束したからな、もう寂しくないぞ!」
光が強くなる。もう時間のようだ。
蛙子ちゃんの小指が離れていく。けれど蛙子ちゃんの言うように寂しくなんかない。
ううん、嘘。ちょっぴり寂しいけれど。
「しばしの別れだ! またな、道世!」
「うん! またね、蛙子ちゃん!」
光り輝く視界のなか、最後に映ったのは蛙子ちゃんの満面の笑顔だった。
――こうしてわたしの冒険は幕を閉じた。
齢十一にして渡った不思議な世界の冒険は、わたしにとってすべてが輝いていて、わたしに必要なもの全部をくれたように思う。
それは自信のなかったわたしと、風変わりな少女の冒険の記憶。