第七十九話 魔導剣士ロイ、パティ兄に会う
「え、ボクの家族に会うんですか?」
提案を切り出すと、パティが意外そうな顔......をしているかどうかわからないが、そんな声音で言った。
「うむ。思えば、君とフランのご家族に会ってなかったな、と。都合が悪いだろうか?」
「いえ、ボクは構いませんけど」
わたわたと手を降る。
「アポは取ったほうがいいよな。頼めるか?」
「あ、はい! では、ちょっと行ってきます!」
手早く朝食を終え、勘定を済ませると、がっしゃがっしゃと退店する彼女。
「急がなくてもいいのに」
ミルクを飲み、やれやれと首を振る。
「そういえば、クコのご家族はやはり遠くに住まわれているのか?」
「はい。グリーン・ヘブンの森に」
「そりゃ遠いな」
ミルクをもう一口。
「でも、きっと元気ですよー! あっちのほ」
「黙れ」
笑顔で制する。どうしてこうなんだ、こいつは。
「フランは?」
「この街の大司教と、副大司教ですわ」
ほー。そりゃまたすごい。
そんな雑談をしながら、ゆっくり朝食を愉しむ。うむ! やはりたまごサンドは鉄板だな! まったく、一度ダイス状にするという小憎いアイデアは、誰が考えたのだろうか。実に食べやすいではないか。美味し、美味し。
◆ ◆ ◆
「戻りました~」
「おかえり」
暇潰しにカードゲームをしていると、パティが戻ってきた。
「夕食を共にしたいと」
「ほう。それはそれは。やはり、バリッとした格好で行くべきだろうか」
服の袖口を引っ張る。
「いえ、気軽な格好でとのことで」
「わかった。せっかくだから、パティも混ざってくれ。今、いい勝負なんだ」
「はーい」
こんな調子で、夜まで時間を潰すことに。
◆ ◆ ◆
「商業地区......。パティの実家の生業は、商家なのか?」
夕刻、パティに道案内されていると、戦士の家にしては不似合いな方角に向かっていることに気づく。
「はい。女性用の服飾を扱っているんです」
ほほー。サンキスト......女性服......。
「あそこか!」
サンキスト服飾商会。このへんじゃ、ちょっとした有名店だ。
「また、なんだって商家の娘さんが、戦士に」
「そのへんは、家で話しましょう。そろそろ着きます」
るんるんと道行くパティの後ろを、ぞろぞろとついていく。
◆ ◆ ◆
「おかえりなさいませ、お嬢様。そして、ようこそいらっしゃいませ」
「ただいま!」
しゃんとした身なりの男が、我々を迎え入れてくれる。
腰のものを預け、招かれるままに応接室へ。
「やあようこそ、妹が世話になっているようだね」
縁なし眼鏡 (これはかなり珍しい品だ)に金髪オールバックの男が入室してきた。
「ロイド・サンキストという。よろしく」
「ロイ・ホーネットです。お世話になっております」
皆、自己紹介を済ませていく。
「ところでロイくん」
「はい」
「パティはこの世で、最も美しいと思わないかね?」
はい? なんですか、唐突に。
「この愛らしい顔!」
兜で見えません!
「このカモシカのように美しい脚!」
鎧で見えません!
「納得いかない様子だね。君には心眼というものがないのか」
「あるわけないでしょう!」
いかん、つい突っ込んでしまった。
「お兄ちゃん、そのぐらいにして」
わたわたと、彼をなだめるパティ。どうも、シスコンのケがあるらしい。
「ところで、他のご家族は」
「商用で、遠くに行っている。なので、今日は私一人でもてなさせてもらう」
どうも、間の悪い時にお邪魔してしまったらしい。まあ、それでも晩餐会を開いてくれるというのだから、ありがたいな。
「お茶をどうぞ」
先程の使用人が、茶を配膳してくれる。おや?
「緑茶ですか。バーブル産ですか?」
「うむ。あそこはこのところ景気がいいので、商売相手としては上々だ」
彼が口にするので、我々もいただく。この、ほんのりした甘み。実にいい。ほっと一息。
「最愛の妹のご友人たちだ。最大限のもてなしをしよう」
「ありがとうございます」
ほんとに、目に入れても痛くないといったところか。
しばし談笑していると、また使用人がやってきて、「ご準備できました」と告げる。
「では、行くとしようか」
ロイドさんの後をついていく。どんな料理が、供されるのであろうか?