第八十話 魔導剣士ロイ、東と北に想いを馳せる
テーブルにつくと、さっそく食前酒と肉料理の小皿が運ばれてきた。
「鴨......ですね?」
「ああ。いいのが手に入ったので、調理させた」
いただこう。......うむ。東の川、そこを泳いでいたのだろうな。良く引き締まった、野趣溢れる味。鶏とは違う、滑らかな肉質。そして、程よい脂。ふう......これに、白ワインが合う。見事な一番槍。
「そういえばパティ。なんで戦士をやっているのかという話が宙ぶらりんだったな」
「そんな難しい話でもないんですよ。ボク、男の人の視線が苦手なんで、こうやって顔を隠せる仕事を探したら、これに行き着いたんです」
いや、ずいぶん難しいよ!
「顔を隠して、家業を手伝うのではだめだったのか?」
「客商売で、それはちょっと......」
むう。道理ではあるが、女性向け服飾店なら、あまり男性客はこないのでは?
まあ、合縁奇縁。頼れる盾役がいて助かっているから、この選択を否定する筋合いもないか。
などと話していると、次の皿が運ばれてきた。
コンソメスープだ。
「! これは、青い三日月亭の......!」
「ご名答。彼女らはいい仕事をするね」
しれっとおっしゃるロイドさん。お抱えに技を盗ませるとは、食えない人だ。
続いて魚。
「サクラマス......。これも青い三日月亭の味ですね?」
「いい舌をしているね。あそこの料理は大変参考になると、シェフが言っていたよ」
やれやれ。女将さんたちの、商売敵じゃなくてよかった。
そして、やはりきたか! 鴨のステーキ! いいのが手に入ったと言っていたもんな。ここで、赤ワインがサーブされる。
モム......。モニュ......。ナポ......。
野趣あふれるこの味わいは、やはり鴨。おお、鴨よ。一体、どんな異国の風景を見てきたんだ? あの寒い、エーデルガルドか? あるいは、そのさらに北か?
その生命力、ありがたくいただこう。
最後にデザート。のはずだが。なんだろう、この黒い物体は?
「不思議そうだね。それは羊羹という。バーブルと、そのさらに東、オウカで食べられている」
ごくり。どんな味がするのか。
これは甘い! ケーキなどとは、まったく違った風合い! いやはや、バーブルでこんな甘味を見逃していたとはしくじったな!
バーブルの茶に始まり、バーブルのデザートで終わったか。
「お見事です」
「ありがとう。ところでパティ。悪い虫はついていないだろうね?」
兄の問いに、盛大に茶を吹く彼女。
「あつっ!」
さすがのパティも兜を脱がないわけにはいかず、クコからやけどの手当てを受ける。
「ああ、可愛いパティ......。大丈夫かい?」
「は、はい。なんとか」
咳込んでいる。ほんとに大丈夫か? こっちまで心配になってきたぞ。
「それにしても、悪い虫に心当たりでもあるのか?」
パティの無事を確認すると、腕組みしてため息つくロイドさん。
「いえ! そんなことは!」
わたわたと手を振る。顔が紅いな。酒が回ってるのか。
「ふう......。悪い男には気をつけるんだぞ」
「はい」
うーむ、シスコンにして、過干渉のケがあるなあ。
パティと視線が合ったが、すぐに外されてしまった。彼女、男の視線苦手だものな。
「最後の最後にアクシデントがあったが、これにてお開きとしたい。皆、酒が入っているし、夜も更けた。客間に泊まっていきなさい。パティは、自室だ。ずっと、保全してあるぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとうございます」
我々も、礼を述べる。
「ロイさん......いえ、なんでもないです!」
寝室に向かうすがら、パティから話しかけられたが、わたわたと手を振って去ってしまった。何がしたかったのだろうか?
首を傾げつつ、あてがわれた客間に入る。
ふう、いいベッドだな。相当景気がいいのだろう。
明日は、セルティス父母とご対面か。あの娘にして、この親ありというような、キョーレツなキャラしてそうだなあ......。