第八十一話 魔導剣士ロイ、懲りる
「大司教様に副大司教様か。緊張するな」
「ロイさん。オルナウ様はすべての信徒のもとに慈悲深いのです。なにも緊張することなどありませんわ」
朝早く、フランの先導で教会に向かっていると、振り返っていい笑顔で言う。
いや、俺信徒じゃないから心配なんだけど。アンデッドや異教徒に対する彼女の狂態は、今でも鮮明に思い出せる。モーニングスターで殴打されたり、聖王曙光輪ですり潰されたりしたくねえよ。
まあ、自分で会いに行くって言っといて、今更だけどさ。
見えて来ましたよ、大教会が。ドキドキしますねえ、色んな意味で。
「ただいまですわーっ!」
フランが大扉を開けて中に呼びかけると、掃除中の信徒たちがこっちを向く。
そして、ずだだだだと走り寄ってくる、ヒゲでマッチョのおっさんが!
「フラン!」
「お父様!」
二人で腕をクロス!
「アンデッドと邪教徒は!」
「必滅あるのみ!」
「オルナウの光は!」
「正義の陽光!」
高らかに笑い合う二人。ぽかーんと、置いてきぼり状態。
「ええと、ロイ・ホーネットと申します。その、大司教様でしょうか?」
「いかにも! ラドネスブルグ教区を取り仕切っている、ハルベルト・セルティスだ! 娘が世話になってるようだね、はっはっはっ!」
なんつーか、ゴーカイな人だな......。
「あなたったら、相変わらずねえ」
うお! びっくりした! 気配を消して謎の女性が!
「副大司教のサリッサ・セルティスです」
なんというか、こちらはまともそうで良かった。
「ところでロイさん。ぜひオルナウ教に入信しませんか? 今ならなんと、ホーリーアイテムを無料進呈中です。喜捨として......」
「あー、いえ。間に合ってます」
猛烈な営業トーク! 前言撤回、まともじゃなかった!
「はっはっはっ! 遠慮することないではないか! 入信したまえ!」
ハルベルトさんに、肩をバンバン叩かれる。やっぱ、こなきゃよかったかな......。
「ところで君、いままでアンデッドをずいぶん倒したそうだね?」
「はあ、まあ」
「いいぞ! 見込みがある! やはり入信するしかないな!」
豪快に笑いながら、肩をバンバン叩いてくる。回れ右していい?
「お父様、お母様。お茶ぐらい、お出ししませんと」
「それもそうだな! 用意しよう!」
のっしのっし&しずしずと去って行く。うう......逃げたい! 今すぐ逃げ出したい! これから勧誘トーク聞かされるのか......。
「ロイさん。それに皆も。顔色が優れませんわね」
「あ、ああ......。ちょっと、その。あれだ。急に腹具合がな」
冷や汗を拭う。
「まあ! では、お母様に手当してもらいましょう!」
逃げるコマンドが封殺された。後悔というのは、常に後からやってくるのだな......。
信徒が「お茶の用意ができました」と告げるので、一同奥へ。これが恐怖への入口か......。
◆ ◆ ◆
質素ながらも、白基調でしつらえのいい客間に通された。
温かそうな紅茶が、テーブルに載っている。
「遠慮せずに飲みたまえ!」
豪快なハルベルトさんに促され、「いただきます」と一口。
おおう......。この酸味、渋み。喉に染み渡る......。
「いい茶葉ですね。淹れ方も丁寧です」
「うむうむ。妻の淹れる茶は、世界一だよ」
「副大司教様手ずからとは、恐れ入ります」
頭を下げる。
「いえいえ。感謝のお気持ちは、入信でぜひ」
「はは......。考えさせてください」
便利な言葉だよな、これ。
「しかし何だね。君は、さっきから少し態度が固いね」
「ええと、その。大司教様と副大司教様を前にいたしましては......。ご容赦を」
圧が強いのは確かだよ!
「お母様。ロイさんは、お体の具合が優れないようですわ」
「そうですか。では、治癒魔法を施して差し上げましょう。喜捨として」
「おーっとぉ! 急に体の具合が良くなったなー! このお茶のおかげでしょうか! ありがとうございます!」
させるものか!
「そうですか。それは何よりです」
その後も、事あるごとにさし挟まれる入信の誘いを、のらりくらりとかわし続け、事なきを得たのだった。
もう、懲り懲りだよ! ちゃんちゃん。