第六十五話 魔導剣士ロイ、海神祭・本祭を観覧する
「お客サン、お客サン! 今日は、海神祭の本祭だヨ!」
テーブルで朝食のパンケーキなど食んでいると、奥から出てきたヒカタが、腕をぶんがぶんがと振りながら、さも嬉し楽しそうに言う。
「本祭ってのは、どう違うんだ?」
「歌姫サマたちが、歌うんダヨ! ノンキに朝ごはん食べてる場合じゃないヨ!」
キラキラした瞳を向けてくる。
「そうは言うが、祭りを楽しむにも体力がいる。昨日、痛感した。というわけで、食い終わるまで待ってくれ」
もぐもぐ。
「モー! いい場所なくなちゃってモ、知らないヨ!」
そんなに大盛況になるのか。食べるスピードを、少しアップしよう。
◆ ◆ ◆
「姉貴~、イカ焼き食いてえ!」
「お前、まだ腹に入るのか。呆れたな」
「そういうのはアトだヨ! はやク! はやク!」
ヒカタに急かされる。いやはや、どんだけ人が集まるんだ?
「ときにヒカタ。海神祭にやたら詳しいようだが、ひょっとして、毎年やってたりするのか、これ?」
「ソダヨ!」
「ロード・カナロアが暴れるのは、百年に一回じゃなかったか?」
なんで、毎年やってるんだろう。
「普段ノ海神祭は、ロード・カナロアサマに、カンシャを捧げる祭ダヨ! 今年は、ソレガ魂ヲ鎮めルお祭に、なルだけなんダ!」
へー。
「お。ここが歌唱ステージか。すでに、結構人が多いな。
「ヨカッタ! まだ空いてル! 割りと、前のほうデ見れるヨ!」
うはあ。これで空いてるのか。彼女が急かしたわけが、わかった。
今は、ステージの設営の仕上げのようだ。人間の女王と思しき女性が、貴賓席に鎮座してる。
人魚姫たちのライブだから、ステージは海中で、我々はぐるりとそれを囲んで見る形になる。
「九時の鐘とともニ、女王サマとルティアサマから、開会のおコトバがアルヨ!」
今、何時頃だろう。
「ルティア様というのは?」
「歌姫七人のリーダーネ! トッテモ、ステキな方ヨ!」
へー。
そこへ、鐘の音が鳴り響く。
イルカに乗った海兵や、トライデントで武装したマーメイドらに囲まれた、ものものしい警備の中、七人の女性が姿を表す。
「これより、海神祭、本祭を開催します。歌姫ルティア、みなに言葉を」
「みなさん、ようこそお集まりくださいました! 歌姫のリーダーを努めさせていただくルティアです! 今年は、ロード・カナロア様に感謝と祈りと歌を捧げ、いつもの優しい神様でいていただきましょう!」
手に持ってる短い棒は、拡声用の魔道具か? 金髪ツインテールと、なんだか舌足らずな喋り方のせいで、幼気な印象を受けるが、人魚ってのは、エルフ並みの長寿だからな。あれで百歳とか超えてるのかもしれん。
「それでは一曲目、いっきまーす!」
地上の楽隊がBGMを奏でると、七人がそれに合わせて歌う。おお、これは美声だ。歌詞もいい。
「ドウ? ステキデショ?」
「ああ」
ヒカタの言葉に同意する。バーブルの祭も趣深かったが、こちらも負けてないな。
本祭も盛り上がってきたところで、突如警鐘が鳴り響く。
「敵襲ー! 敵襲ー!」
敵だと? 祭の最中に、野暮な奴らだ。
「歌姫と楽隊は、歌を続行! 兵は迎撃を!!」
女王が、指令を下す。会場は大混乱だ。
「俺たちも、ぼーっと見てるわけにはいかんな。義を見てせざるは、なんとやらだ! いくぞ!」
階下に降り、兵の指揮を取っている男性に声をかける。
「冒険者だ! 助太刀がしたい! 何をすればいい!?」
「ありがたい! イルカには乗れるか!?」
いや、そりゃ無理だ。
と、そこに、見覚えのあるシロイルカが、ざぱんと現れた!
「おねーさんたちは、シロンとシロンのお友達の背中に乗るといーのです! シロンたちが、上手くバランスを取ってあげるのです!」
やあ。持つべきものはイルカの友だな。後で海遊びするつもりだったから、上着の下には水着を着込んでいるので、あっという間に水上戦モードだ! ベルトポーチから、皆の武器やクコのハーブホルダーを渡していく。
そして、シロンの背にまたがる。
「いっきますよー! ぱいーん!」
掛け声はけったいだが、これは速い。それでいて、乗りやすいのだからすごい。
あっという間に、主戦場が見えてきた。
どーれ、不届き者たちの成敗といこうじゃないの!