第六十四話 魔導剣士ロイ、南海を満喫する
「ところで、海神祭というのはどういう祭なんだ?」
せっかくガイドがいることだし、ふと気になったことを尋ねてみる。
「ロード・カナロアという神サマを鎮める祭だヨ。ロード・カナロアは海の恵みと安全を守ってくれる神サマ。でも、百年に一度、とても荒ぶってしまうヨ。それを、マーメイドの七人の歌姫ガ歌で鎮める祭ナノ!」
へー。
「なんですか、それは。邪し」
フランの脇腹に肘鉄を入れる。宗教戦争の火種を撒くんじゃないよ。
「そういえば、あちこちに飾られているエイが、ひょっとして?」
街のそこら中に、作り物のマンタが、吊るされたり置かれたりしていて、気になってたんだ。
「ソ! これが、ロード・カナロアサマのお姿ネ!」
フランの信仰するオルナウとは違って、土着の生き神ってところか。
「おー! すっげー! 姉貴、バーブルよりさらに、水がきれいだぜ!」
感動するサンの視線を負うと、砂浜の向こうに、青い......いや、碧い海が広がっていた。
バーブルに行ったのは季節外れだったから、海水浴は楽しめなかったが、これは泳ぎがいがありそうだ。
「ひゃっほー!」
先陣を切って、海に突進するマイシスター。元気だねえ。
「ロイくん、ロイくん、あれやりましょ、あれ! やったな、こいつぅ~! ってやつ」
ああ、恋愛小説のお約束らしいな。
「まあ、そのぐらい構わんが」
「じゃあ......それ!」
わぷ。じゃあ、お約束で返そうじゃないの。
「やったな、こいつぅ~!」
ばしゃあ! きゃっきゃと、はしゃぐナンシア。
「あの、やめてください!」
突然何かと思えば、パティが男に絡まれていた。
「すまん、ナンシア。行ってくる」
男とパティの間に割って入る。
「ナンパか? 嫌がってるだろう、やめろ」
「おほ、今度はオットコマエなネーチャンきたー。あんたでもいいぜ。ちょっと、あそ」
問答無用で、投げ飛ばす。水しぶきが上がり、男がげほげほと海水を吐き出す。
「なにしやがんだ! 女だと思って、優しくしてりゃ!」
今、一番腹の立つセリフだな。
「まだ絡むなら、金○蹴り飛ばすぞ。そのシュミがあるか?」
俺が本気であることを悟ったらしく、「ちくしょー! このアバズレがー!」と捨て台詞を残して、男は逃げていった。
まったく、女というのは気苦労が絶えないな。皆の気持ちが、わかるようになってきたよ。......クコ以外は。クコだけは、どうしてもわからん。
「ありがとうございます!」
パティが、もじもじと上目遣いでお礼を述べる。
「当然のことを、したまでだよ」
「あの、ロイさん。よかったら、ボクと泳ぎませんか?」
それもいいな。
「じゃあ、軽く流そう」
というわけで、南海の暖かな水を愉しむ。水の抵抗が、体に心地よい。
「キュイ!」
突然、水しぶきを上げて、白いイルカが目と鼻の先に現れた。
「うお! イルカがこんなところまで来るのか!」
「まーね! シロンちゃんは特別ですから!」
喋ったアアア!?
「驚いたな。パルピアのイルカは喋るのか」
「あくまでも、シロンが特別なのです! おほほい!」
「可愛い......。触っていい?」
パティが、うるうるした目でシロンを見る。
「いーですとも! クキュア!」
しばし、イルカとのスキンシップを楽しむ俺ら。イルカって、意外とスベスベしてないのな。
「疲れたな。一旦、戻るか」
「シロンはいつも、この辺にいるので! また遊びーましょ! おほほい、おほほい!」
やたらキャラの濃い白いイルカに別れを告げ、浜辺に上がる。
......と、クコが教育上よろしくないオブジェを砂で作っていたので、申し訳ないがチョップで破壊させてもらった。
「なにするんですかー、ロイさん!」
「小さな子供もいるのに、そんな物作るんじゃあない!」
「だってー。誰にもナンパされないんですもーん。手持ち無沙汰で~」
そんな物体こさえてたら、余計声をかけづらいと思うのだが。パティとクコ、それぞれ別方向に、ナンパに困らされてるもんだな。
そういえばフランは? と姿を探すと、砂浜で潮風を愉しみながら、男女からの羨望を浴びていた。胸、大きいからな。ほんとに、こうしてればただの美少女なのだが。
「姉貴ー! どっちがより遠くまで行けるか、競泳しようっすよー!」
「そういうのは、大歓迎だ!」
サンと、遠泳に繰り出す。
◆ ◆ ◆
こんな調子で、夕暮れまで、遊びに遊んだ。いやはや、さすがに疲れた。
遊び疲れるなどという感覚、久しく味わってなかったなあ。
「紅い珊瑚亭」に戻ると、まずは一休み。
その後は、パルピアの味覚、「ロコモコ」を楽しむ。
目玉焼きハンバーグが美味いのは天地開闢以来、自明の理だが、さらに飯の上に乗せることで、楽しさと美味さの三段重ね! 素晴らしい!
今日はもう泳がないので、今夜はココナッツのカクテルも出してもらう。素朴な甘さのジュースで割られたラム酒が、実に良し。
南に来てよかったなあ。とても、充実した一日だった!