第十五話 魔導剣士ロイ、菜食に舌鼓を打つ
昼下がりに、大過なく王都へと帰り着いた。さて、新たな仲間を加えてやることといえば、徽章の発注と、歓迎会である。徽章発注の方は手早く済ませ、お馴染み『青い三日月亭』で、宿を取り食事会と洒落込むことに。
何ぶんナンシアの兄のこともあり、どんちゃん騒ぎをする気はないが、同じ釜の飯を食うのは団結力のアップに役立つというのが、持論のひとつ。なるべく早く、ナンシアにはパーティーに馴染んでほしいところだ。実際、ここにくるまで、どうにも会話が弾まなかった有様である。
寝室の手配が終わると、早速食卓に着く。思えば、最初俺とサン二人だったパーティーも、短期間でずいぶん大所帯になったものだ。
「ナンシア、君が今日の主役だ。何か食べたいものがあったら、遠慮なく言ってくれ。ここの料理は、どれも絶品だ。味は保証する」
「そうですね......。菜食を食べられれば、と思います」
「ひょっとして、ベジタリアン?」
「そういうわけでもないんですけど、今日はお野菜気分、ぐらいの感覚なんです」
なるほど。とりあえず女将さんに相談してみよう。手を上げて女将さんを呼び、今日のオーダーを伝えると、では菜食づくしにしましょうと快諾してくれた。
「あ、俺にも彼女と同じものを出してください」
食にまつわるマイ金言のひとつに、「相手と仲良くなりたければ相手と同じものを食え」というのがある。実際、これはなかなか効果てきめんな方法だ。
「じゃあ、オレもそれで!」
「私もお願いしますわ」
と仲間も続き、昼食は菜食づくしと相成った次第である。
◆ ◆ ◆
まず運ばれてきたのは、ポロネギをシンプルに串に刺して、塩焼きにしたもの。女将さんが、こういうシンプルな料理を出すときというのは、素材に自信があるときだ。これは楽しみ......。
まずはひとつ口に咥え串を引き、噛みしめる。おほっ、口の中にじゅわっと甘みが広がるじゃあないか! 塩加減、焼き加減も完璧で、まさに三位一体とはこのこと! 食前酒のエールに、これがまた実に合う。シンプルにして、究極の食べ方と言えよう。
皆が食べ終わる頃、続いて運ばれてきたのは揚げ物。極太アスパラガスのフライ。これに岩塩をつけて頂く、という趣向のようだ。岩塩はルンドンベアを擁する国家、ラドネスブルグ名産品のひとつで、外貨獲得手段のひとつにもなっている。海が遠いのに食文化が豊かなのは、この岩塩と交易路の広さのおかげと言っても過言ではない。ともかくも、冷めないうちに食べてみるとしよう。
きゅっと噛みしめると、さくっとした衣の歯ごたえとともに、油の旨味と衣に封じ込められた、野菜のジューシィなエキスが口内を満たす。これに、岩塩のシンプルながら豊かな味わいが、実に良い塩梅。これをつまみに、エールをグイっとやると、もう堪らない。揚げ物における、一つの美の極致を見た、というのは言い過ぎか。しかし、これが非常に美味いのだから仕方ない。
我々が、フライを堪能し終わるのを見計らって、熱々のピッツァと赤ワインが運ばれてきた。具はミニトマト、アボカド、マッシュルームにナス、そしてチーズと実に豪勢。肉抜きでも、このボリュームは圧巻だ。こんなに食べきれるだろうか? 切り分けはセルフサービスなので、カッターで六等分にする。
では、自分の取り分をいただこう。とろけるチーズ、トマトの酸味、アボカドの脂が渾然一体となって、舌を包む。チーズとアボカドの脂肪を、マッシュルームとナスが受け止める。いやはや、実に旨味! 最初はボリュームに驚いていたのに、ぺろりと平らげてしまったぞ。
そしてトリを飾るのは、アップルパイ。きちんと酸味の強い林檎を使っており、味がぼやけていない。パイ生地はサクサクしていて、しっとりとした林檎と、蜂蜜のハーモニーが絶妙である。俺には祖母がいないが、きっとこれが「おばあちゃんの味」だ。可愛い孫のためにパイを振る舞う、顔も知らない祖母のイメージが浮かぶ。
以上四品、どれも美味かった。肝心のナンシアも、「堪能しました。どれも素晴らしい料理でした」と、充実した表情で口を拭っている。皆も、実に満足そうで何より。突飛なリクエストにも柔軟に対応する女将さんに、恐れ入る次第だ。