第十六話 魔導剣士ロイ、買い物に付き合う
「ロイさん、買い物に付き合っていただけませんか?」
寝るには時間が余っている食後、時刻で言えば三時の鐘が鳴って少し過ぎた頃、ナンシアからひょんな申し出を受けた。
「女の買い物は、女同士の方が捗るのではないか?」
と答えたら、彼女は「ロイさんにお願いしたいんです」と食い下がってきた。まあ、特にやることがあるでもなし、親交を深めるのはやぶさかではないので、付き合うことに。
かくしてやってきたのは、服飾店。ううむ、男が退屈するスポット第一位ではないか。まあいい、付き合うと決めたからには、ぼやいてもしょうがない。
「ロイさん、これおかしくないでしょうか?」
意外と早く試着室から出てきた彼女は、地味な村娘スタイルとは打って変わって、アイボリーのチューブトップに、ライトブルーのローライズ・ショートパンツという、ずいぶんと刺激的な格好。スレンダーな引き締まった肢体を前に、思わず視線のやり場に困ってしまう。
「お、おう。とても似合ってると思うぞ」
うーむ。我ながら、もっと気の利いた返しはできないものか。
「ありがとうございます!」
しかし、こんなパッとしない褒め言葉でも、眩しい笑顔を返してくれるのだ。何だか恐縮するやら、照れるやら。
「まだ他に、買い物はあるのか?」
急かすわけではないが、目安を知りたい気持ちもあり、ちょっと尋ねてみた。
「いえ、あとは似たような服を、着替えとして買うだけですから......」
「そうか」
どうにも照れくさい。何だろうか、この感情は。この後は、ついでだからと、ちょっとした冒険用の品々を買い込み、宿へと戻った次第である。
◆ ◆ ◆
宿に戻ると、テーブルの前で、残りのメンツがなにやら難しい顔をしているではないか (訂正。パティは兜のせいでよくわからない)。卓上には、六つのサイコロが転がっていた。
「どうした、みんな。そんな険しい顔をして」
「兄貴......。実は、これからのことを占ってみたんス。そしたら、何かろくでもない展開が起こると、お告げが出たっス」
「ほう? 本当に当たるのかそれ?」
義妹の対面に腰掛けながら、ちょっとからかう。
「当たるっスよ! 現に、ナンシア姉との出会いがあったじゃないっスか!」
ムキになってむくれる彼女。おいおい、そんなに怒ることないじゃないか。
「わかったわかった。疑って悪かったよ。まあこんな家業だ、用心するに越したことはないな」
とりあえず、今日は戸締まりをきっちりして早めに休んで、また明日から、冒険に取り組もうという話になった。
◆ ◆ ◆
視点はロイから移る。
暗雲立ち込め、稲光差す崖上の古城で、十二人の仮面の男女が、燭台の薄明かり灯る円卓に着いていた。いずれも、首元や手が皺深く、頭には白髪を湛えた老人たち。
円卓の中央では、不気味な機械装置が青白く輝き、ウォンウォンと唸りを上げている。席の外では、籠に入れられた、一羽の血のような赤色をした鸚鵡が、「ゲゲゲ」と奇怪な鳴き声を上げていた。
「ナンバーワン、ついに『鍵』が揃いましたな」
「左様、ナンバーエイト。今こそ、我ら『千年評議会』が動くとき」
円卓メンバーの声に応え、ナンバーワンと呼ばれたリーダーと思しき男が、ワイングラスをくゆらせ香りを楽しむ。
「では、ついにデウス・エクス・マキーナ計画の始動を......?」
メンバーのひとりである老婆が、わなわなと手を震わせ恍惚とした声を出す。
「おお......! ついに我らの悲願が!」
「今こそ、悲願成就のとき!」
他のメンバーも皆一様に、興奮気味に声を上げる。
「乾杯をしようではないか、諸君!」
ナンバーワンが、ワイングラスを掲げた。
「我ら『千年評議会』に。栄光あれ! 乾杯!」
めいめいが、隣の者とグラスを打ち鳴らし合う。祝杯を呷る様を、雷光がシルエットとして、強く描き出す。
それを受けるかのように、鸚鵡が羽根を打ち鳴らしながら、ぎゃあぎゃあと、不吉な鳴き声を上げた。
なお、彼らは物語に一切関係ないし、二度と出ない。ろくでもない展開とは、これのことである。ちゃんちゃん。