第三十三話 魔導剣士ロイ、女将さんを助ける ③
「バーシ、失礼だが、料理の腕前を教えて欲しい。誰が陣頭指揮を執るべきか、決めておきたい」
エプロンを身に着けて、厨房で作戦会議を開く。厨房は俺とバーシ、接客はサンとフラン、洗濯と掃除とベッドメイクは、パティとナンシアの三班に別れ、各々の仕事をこなしていく。
クコは、フレキシブルにどれかを担当しつつ、女将さんの看病をするという、アクロバティックで大変な役割だ。そのぶん、各部署でも比較的楽な仕事を回すという寸法。これを一人でこなしてたんだから、女将さんは控えめに言って、超人ではなかろうか。
ちなみにこのチーム割も絶対ではなく、昼夕の食事どきには、清掃班が調理と接客に回ってもらう。現在厨房には、助っ人としてパティも加わっている。
「東のバーブル国で五年修行して、椀方......スープ担当のシェフですね、それを任されていました。ロイは?」
ここで、バーブルの名が出てくるとは。意外な縁だな。
「俺も、師匠の下で五年修行していた。まあ、飯炊きもやっていたけど、どっちかというと、剣と魔法の修行が主だな。ちなみに、得意料理はカレーだ」
「カレー? 聞き慣れない料理ですね。私も職業柄、色んな料理を研究してきたつもりですが」
「異界料理だからな。何でそんなもん知ってるのかという説明は、割愛する。料理に関しては、やはりバーシに分がありそうだな。指揮は任せる」
バーシは了解し、てきぱきと準備に取り掛かる。
「それと」
彼女が手を動かしつつ、話しかけてくる。
「何だろうか?」
「あなたたちの仕事が終わったら、みんなをお客様として、さん付けで呼ばせてもらいます。いいですね?」
「いや、呼び捨てでいいよ」
「そうもいきません。他のお客様の手前もありますから」
むう、言われてみればもっともだ。
「わかった。そうしてくれ」
そうこうしているうちに、フランが注文を取って戻ってきた。オーダーはずばり、シェフのおすすめ。
「いきなり手強いのが来たな。どう行く?」
「ルンドンベアではお米が手に入りませんから、主食は小麦を使った料理ですね。確か、スパゲッティの備蓄があったはず。これと、旬の鮭といくらを合わせれば、私の得意料理ができます!」
下唇に親指を当て、熟考していた彼女が、顔を上げて料理を決定する。
「よし、早速取りかかろう!」
三人がかりでバーシの思い描く料理を作っていく。スパゲッティが茹で揚がり、湯切りしたそれにクリームソースを和え、スモークサーモンといくら、茹でほうれん草を乗せていく。おお、こりゃ美味そうだ。
「注文入りました。三番テーブル、BLTサンドをひとつ、鮭の香草焼きをひとつ、お願いしますわ」
「了解です。これを六番テーブルのお客様に」
フランが注文を取ってきたので、バーシが鮭といくらのスパゲッティを手渡す。それを、早速運んでいくフラン。
「いやはや、まるで戦場だな」
「そうですとも。厨房は戦場です!」
汗を拭いながら、いい顔で応えるバーシ。時間はあっという間に過ぎていき、食堂を閉める時刻になった。
◆ ◆ ◆
「これをお客様にお出ししたのですね?」
本日の成果を見てもらうため、バーシとともに寝室に赴き、女将さんに鮭といくらのスパゲッティを、食べてもらうことにした。彼女の前には、できたてのそれが、お膳に乗っている。
麺を巻き取り、口に運ぶ女将さん。緊張の一瞬である。