第三十四話 魔導剣士ロイ、女将さんを助ける ④
「......とても優しい味で、美味しいです。すみません、バーシ。あなたのことを、もっと早く信用するべきでした。改めて、これからも店をお願いしますね」
「ありがとうございます! さらに精進を重ねますので、よろしくお願いします!」
深々とお辞儀するバーシ。俺も我がことのように嬉しい。
食事し終わった膳を下げ、バーシと笑顔で拳を突き合わせる。
「やったな、相棒!」
「やりましたとも、相棒!」
明日も忙しい。これを片したら、ゆっくり休もう。
◆ ◆ ◆
その数日後の夜、ちょっとした珍事が起きた。
「ロイさん! とんでもない方がいらしてますわ!」
フランがずいぶん慌てているので、食堂を覗いてみれば、姿こそ平民の出で立ちだが、王城の謁見の間で、王の傍らに立っていた、小太り髭スキンヘッドの、重臣と思しき御仁じゃないか!
「おいおい、何の冗談だよ。お忍びってやつか? いい趣味してるなあ」
「どうしました?」
バーシが怪訝な表情で訊いてくるので、かいつまんで説明する。さすがの台風娘も、超VIPの来訪に緊張が走ったようだ。
「彼の注文は?」
「シェフのおすすめを、とのことです」
厳かに確認を取る、バーシへのフランの返答も、声がずいぶん緊張している。
「どうする、バーシ。やはり、鮭といくらのスパゲッティでいくか?」
下唇に親指を当て、考え込む彼女。
「相手が相手です。最上肉のステーキを出しては?」
意見を呈するフラン。確かに、最高の肉でおもてなしするのが最善だろうか。しかし、バーシはなおも熟考をやめない。
「思うのですけど、わざわざお忍びで庶民的な店に来るということは、素朴な料理をお求めなのではないでしょうか。同時に、とても試されているとも考えます」
真剣な面持ちで、言葉を紡ぐバーシ。
「コンソメスープをお出ししようと思います。それと、焼きたてのパンを」
「ええ!? そんな安っぽ......いえその、普通の料理を?」
バーシの決定に、驚愕するフラン。
「スープとソースには、料理人のすべてが出ます。あのお方には、私のすべてをぶつけます!」
ううむ、決意は固いようだ。指揮権はバーシにある。俺たちとしては、彼女を信頼するのみ。
「よし、何でも言ってくれ。君の指示通りに動く」
「ありがとうございます。では......」
彼女の指示を守り、着実にスープとパンを作り上げ、それは完成した。薄茶色の澄んだコンソメスープだ。具はシンプルに、ベーコンと玉ねぎ。とても良い匂いがする。これに、焼きたてのロールパンがひとつ。皿も事前に、温めてある。
一口すくい、味見するバーシ。うん、と頷く。
「我ながら、会心の出来だと思います。できることはすべてやりました。フラン、お願いします」
よそった皿を受け取り、届けに行くフラン。賽は投げられた。俺たちは、他の客も捌かなければいけないので、彼ばかり相手しているわけにもいかない。再び調理に戻る。
体感三十分ほど経っただろうか。フランが緊張した面持ちで厨房に入ってきた。
「あのお客様が、シェフを呼んでほしいと仰っています」
厨房に、再度緊張が走る。賛辞か、はたまたお叱りか。
応対に出たバーシを、厨房の出入り口からそっと見守る。あの客が笑顔で彼女に語り、バーシが名物・九十度お辞儀をする。様子からすると、良い結果のようだ。
「どうだった?」
戻ってきたバーシに、結果を尋ねる。
「とても美味しかった、と仰ってくださいました!」
安堵の表情で、戦勝報告する彼女。拳を突き合わせ、勝利のポーズ!
こうして、今日も夜が更けていった。明日もまた頑張ろう。