第十九話 魔導剣士ロイ、ニンジャと戦う ―前編―
六時の鐘を受けて、待ち合わせ場所に向かうと、朝霧の中に馬車十数台からなる、大規模な隊商が待ち受けていた。俺たちのような、いかにも「冒険者です」という出で立ちの連中もたむろしており、なかなか壮観。
「おはようございます」
まずは、皆で依頼人に挨拶。彼が挨拶を返そうとしたとき、横からドサドサドサと、何かが落ちる音が。
そちらを見れば、深くお辞儀したナンシアの背嚢の蓋がベロンとめくれ、冒険用具が大量に地面に落ちている。
「はうぁ! すみません! すみません! 今しまいます!」
慌てて道具を拾い集める彼女。俺たちも回収を手伝う。モロオさんも手伝ってくださった。すると、いきなり横っ腹にナンシアの頭突きを食らってしまう。
「おぐぅ!?」
「あああ! すいませんロイさん、大丈夫ですか!?」
「うぅ......いや、大丈夫だ。でも、気を付けてくれ」
腹部をさすりつつ、ペコペコとお辞儀しながら荷物を集める彼女に、荷物を渡す。やれやれだな。
「これで全部かな? 改めておはよう。じゃあ、みんなはあの馬車に乗ってもらえる?」
モロオさんの指差す先には、大きな幌馬車が一台。ただこの馬車、幌の部分にメイドの萌え絵が描かれた、「痛馬車」であった。
ええ......まじっすか? あれに乗らなきゃダメっすか!?
ちらりと依頼人を見ると、それはもう上機嫌。とても嫌ですとか、幌を張り替えてくださいとか言い出せない空気。
(まあ、中はきっと普通の馬車と同じだし......)
と自分に言い聞かせ馬車に乗り込むと、荷台の床に描かれたメイドさんとご対面。マジ勘弁してください。
ため息を吐きながら馬車に乗り込もうとすると、「これをどうぞ」と、例の際どい格好のメイドさんからバスケットを渡された。
蓋を開けてみると、中にはトマトとレタス、きゅうりにチーズが挟まったサンドイッチが詰まっている。おお、こりゃありがたい。朝食というわけか。
みんなが乗り込んだので、バスケットを回していく。サンドイッチを食みながら会話をしていると、「出発」と声が上がり、馬車が動き出す。
さあ、旅の始まりだ。
◆ ◆ ◆
馬車は街道を行き、宿場町での滞在を挟みつつ進む。初日の昼以降は保存性が重視され、堅いパンと燻製肉が食料となった。取り立てて美味いものではないが、致し方ない。
二日目の夕刻、突如「敵襲」の声が響き、馬車が急停止する。敵襲だと!? 情報が正しければ遭遇は三日目から四日目のはずだ。情報が間違っていたのか? 何にせよ、お仕事開始だ!
馬車を飛び降り、地面に降り立つと、矢が足元に一本突き刺さる。あっぶね! 視線を高くすると、丘の上から弓を持った馬賊が、多数走ってくるではないか。馬上射撃は相当訓練を積んでないとできない芸当で、ただの山賊にしては異様に練度が高い。これは予想に反して強敵だぞ。
たちまち始まる射撃戦。山賊との戦いに備えて、事前に買っておいた弓矢を連射する。モロオさんは、先頭車両にいたはずだ。あっちに近い冒険者の手で、守られていることを祈ろう。
あっという間に、針鼠のようになる痛馬車。やれやれ、かわいそうに。ともかくも、我が弓で賊を一人仕留めた。パティは文字通り、みんなの盾となって、低い姿勢で盾を抱えて下半身への射撃を防いでくれている。
連中と矢の応酬をしていると、馬賊サイドから奇怪な出で立ちの男が、人ならざるスピードでこちらに向かってくるのが目に映った。その姿は、異界でいう「ニンジャ」。この世界にも、あんな出で立ちの戦士がいる国があると聞いたが、そいつが矢を叩き落としながら、一直線にこちらに向かってくるではないか。
そして、やつが不意に跳躍した。高い、でたらめに高い! これまた人間離れした跳躍力で、バッタもびっくりの跳ねっぷりを見せる。
「我が名はフーマ! お屋形様の命により、『黒魔の宝玉』を頂戴致す! 忍!」
上空から名乗りを上げ、フーマが十字型の刃物をいくつも投擲してきた。しかしこちらも、それらを次々に叩き落とす! あまり威力がないのと、一度に多く撃ったせいか精度が甘いので助かった。
やつは背負った刀を振り下ろし、俺に切りかかりながら着地。その刃を長剣で受けたが、思ったより威力が弱い。あれだけの跳躍をした割に、まるで体重が乗っていない感じだ。
しかし何より驚いたのは、覆面から覗く眼が暗黒の中に光る「点」であったこと。こいつ、ひょっとして霊的存在か!?
「フラン! 死霊浄化術だ!」
「うひょおおおおッ!! 死霊浄化術ォ!!」
神官サマの奇声と共に、掲げた盾から聖なる光が溢れる。やったか!?