第二十話 魔導剣士ロイ、ニンジャと戦う ―後編―
しかし、フーマは平気な顔 (?)をして、再び斬りかかってくる。
「拙者は死霊ではないわァッ!! 誇り高き幽魔族のニンジャよ!!」
相手の二撃目を躱すが、袖をパックリと斬られてしまった。こいつの攻撃は威力がないのではない、重さはまるでないが、切れ味が異様に鋭いのだ。それはそうと、ニンジャという呼称で合ってたんだな。
「くきーっ! 何でアンデッドじゃないんですの!? 許せませんわ! オラオラオラオラァッ!!」
逆切れフランが金切り声を上げつつ、鎚鉾から買い替えた鎖付き棘鉄球でフーマを殴打しようとするが、これがいずれも軽く躱されてしまう。彼女の大雑把な攻撃と、モーニングスターの扱いづらさ、そして何より、やつの身の軽さの悪条件が、三つ重なってしまっている。
そこにナンシア、パティ、サンが攻撃を重ねていくが、それもすべて綺麗に躱されてしまう。こいつどんだけ素早いんだよ。こういう相手は魔法で焼けと、タクラム戦で学習した。さっそく、学習成果を試させてもらおう。
「雷衝撃滅波!」
腰のバインダーから取り出した魔導書がばらばらとめくれ、電撃が迸り、フーマに一撃食らわせる!
「おのれ小癪な真似を! ならばこれを喰らえ! 忍!」
やつは懐から巻物を取り出すと、投げつけてきた。そいつが解けて電撃が迸り、我々に命中する! 痛ってえ! ビリッときたぁ! いやはや、電撃返しをされるとは思わなんだ。自分で食らうと、こんなに痛いんだな。
「命活癒術草!」
前衛に、治癒魔法がかけられる。シャキッと回復! そういえば、こいつで一つ気になったことがある。ひょっとして、目が閉じられないんじゃないか? 一つ試してみよう。
「みんな目を閉じろ! 瞬閃輝眩光!!」
魔法名を叫ぶと、眩い光が、一瞬場を激しく照らす。瞼の上からでも、かなり強いと感じる光だ。
「目が! 目があああああ!!」
瞼を上げると、目を押さえて悶絶しているフーマの姿が目に入る。
「貰った!」
もんどり打つやつを、長剣でぶった切る! 悲鳴とともに、服の切り口から黒い霞のようなものが、ぶわっと巻き上がった。
そのとき、ラッパの音が鳴り響く。
「くう、撤退か! この勝負、お預けだ!」
フーマがベタなセリフを吐きながら、懐から取り出した玉を地面に投げつけると、小さな爆発と共に、煙が激しくたちこめる。視界が戻る頃には、やつはすでにおらず、馬賊たちも遠くに逃げ去っていた。
「げほっげほっ、なんつうコテコテな......」
汚いな、さすがニンジャきたない。まあ、目潰し攻撃を叩き込んだ俺が、とやかく言えた義理ではないか。ともかくも、我々は勝利したようだ。依頼人が気になる。先頭車両に行こう。
◆ ◆ ◆
針鼠のようになっている車両や、負傷して唸っている者など、どこもかしこも激しい戦闘のあとが見て取れた。治癒術師のいない、あるいは倒れたパーティーの負傷者は、クコや他パーティーの治癒術師が、順次手当をしている。
「モロオさん、ご無事ですか!?」
先頭にたどり着くと、すでに数人の冒険者が、メイドの萌え絵が描かれた箱型馬車を囲んでいるので、搭乗部に声を掛け、依頼人の安否を確かめる。
「無事だよ~」
卿がひょっこり窓から顔を出し、依頼人の無事に、思わず安堵の溜息を漏らす。
「メイたんも御者氏も、無事で良かったよ。他のみんなも無事かな? 被害の確認をしないと」
彼と同乗者のメイドが下車する。初日にサンドイッチを渡してくれた人だ。彼女がメイだろうか。
報告をまとめると、積み荷は無事なものの馬が一頭負傷、冒険者が十一名負傷と死者こそ出なかったが、結構な被害規模のようだ。
「ところでモロオさん、賊のひとりが『黒魔の宝玉』という名を口にしていたのですが、お心当たりは?」
状況が一段落したので、疑問点を尋ねる。
「ああ、それ積み荷だよ。何でも、魔王の魂が封印されているとかいうやつだねえ」
「はァ!? 何で、そんな物騒なもん運んでるんですか!?」
思わず手をわきわきさせて、驚愕する。
「へーきへーき。その手の話って、だいたいガセだから」
「いやいやいや! モロオさんの地元ではそうなのかも知れないですが、この世界では、そういうのはだいたい大マジです!」
彼はどうにも実感が湧かないのか、「へー」などと他人事のように感心している。ううむ、こんなに俺たちと異界人で、意識の差があるとは思わなかった......! 悪い人ではないのだがなあ。
「こういうのは慎重に扱ってください。お願いします」
やれやれだな。
ともかくも旅は再開され、我々はバーブル王国へと辿り着いた。三日目に予測通り、山賊とゴブリンから襲われたが、あの馬賊たちに比べたら、どうということのない敵であった。