第十二話 魔導剣士ロイ、運命的な出会いをする? ―中編―
「ようこそ、おいでくださいました」
依頼票片手に、他の民家よりもやや大きい村長宅に行くと、白髪交じりの初老の村長に、清涼な香りのする茶を出され歓待された。こいつはラベンダーというハーブの香りだ。遠出先で喉の潤いは実にありがたい。
「ありがとうございます。早速ですが、詳しく話をお聞かせいただけますか?」
話を促すと、彼は暗い面持ちで語り始めた。
「今から五日前のことです。ダンナーとツィマー夫妻の家が夜に襲われ、翌朝彼らは惨殺死体となって発見されました。その荒らされ方は凄惨なもので、体のあちこちが千切られていたのです」
震える手で、ティーカップを置く村長。話に聞くだけでもえげつない光景だ。しかし、それでも詳しく話を聞かなければならないのが、心の痛むところである。
「二人は元冒険者で、引退したとはいえ、生半可な相手に遅れを取るようには思えません」
「駐在の衛士は、これについてどのような見解を?」
気持ちを落ち着けるために、ラベンダーティーを一口飲む。鼻腔に良い香りが満ち、心が鎮まっていく。村長の心遣いが実に染み渡るな。
「金品に手を付けていないので、物取りの犯行ではない、殺人狂の行いであろうと言っています。この村に、そのような恐ろしい者がいるとは思いたくないですが」
彼も茶を飲み、一息吐く。
「三人目の被害者であるガイシャーも同様に、酷い殺され方をしておりました。二日前のことです。やはり夜に自宅で襲われ、無惨にも......」
目頭を押さえ、感情を堪える村長。村思いのいい人だな。これ以上被害を増やさないために、尽力したい。
「最近何か変わったことはないですか?」
「そうですね......」
しばし腕組みをして、仰ぎ考えを巡らせていたが、自信なさそうに答える。
「最近でもないですが、去年疫病で多くの者が亡くなり、人手を補うために入植者を募りました。十人の入植者が集まりましたが、幸いにも皆いい人たちで、殺人を犯すようには見えません」
ふうむ。これは現場百回と言うやつで、現場を見てみないとなんともいえんなあ。
「現場を見せていただいても?」
「はい、自由にご覧ください。案内の者をつけましょう」
では、現場へGO!
◆ ◆ ◆
村の案内役として、一人の若い村娘をつけてもらった。若いと言っても、俺たちより年上の十九歳だが。名をナンシアというそうな。
百八十センチ強はある、長身のスラリとした美人で、ブロンドのショートヘアがさら美しさを際立てていた。硬派の俺も、思わず見とれてしまいそうになる。
「こちらです」
「どうも」
ナンシアさんに礼を述べ、まずは案内された、木造の小ぶりな一軒家の入り口を調べる。
足跡がずいぶんと多い。実況見分その他諸々で踏み荒らされていて、ここから判ることはあまり多くないようだ。唯一判ったことと言えば、人間の足跡ぐらいしかない、ということか。
続いて扉を開けると、血しぶき祭りの現場とご対面。死体はもうなくなっているし、血も乾いているが、凄惨な状況に思わず顔をしかめてしまう。横ではフランが、死者に祈りを捧げている。
ともかくも、現場検証と行こう。
「兄貴ー、なんスかねぇ、これ?」
しばし手分けして調査していると、サンが声を上げた。見れば、手になにやら灰色をした、短めの毛束を数本持っている。
「毛......? 被害者のものか? いや、被害者が襲われているときに、犯人からむしり取ったものかも知れん」
彼女から毛束を受け取り、よく観察する。上手く言えないのだが、どうにも毛髪に見えない。何か動物の体毛と言ったほうが、しっくりくる質感だ。
まあいい、あとで毛髪が不自然に抜け落ちている村人がいないか、確認しよう。急に坊主にしたやつなんかいたら、要チェック。被害者の頭髪という可能性も、ないではないが。
さらに調べこんでみたが、有益な証拠は見つからなかった。次に期待だ。
そうして案内された二軒目は一軒目以上に小さく、まさにザ・一人住まいと言う感じの家。
こちらも足跡がずいぶんと多く、呼ぶならもっと早く呼んでくれと、思わず呟きたくなる入り口前の荒らされぶり。
ドアを開ければ、こちらも死体は片されており、血しぶきは乾ききっている。さすがに二回目ともなると......別に慣れはせんな。やはりここでも、祈りを捧げるフラン。
現場を丹念に調べたが、一軒目以上に得られたものが少ない。これは厳しいな。
◆ ◆ ◆
まだ陽が高めの夕刻、村長に手伝ってもらい、村人一同を集めてもらった。どうしたことかと、皆ざわついている。
「一軒目の被害者宅から、このような毛束が発見されました。被害者のお二人の頭髪でしょうか?」
クコが村人たちに毛束を見せて回るが、「髪色が違う」という回答が多く寄せられた。
「では、皆さんの中に不自然に髪が減った、あるいは急に髪を短くしたという者はいますか?」
村人が再びざわつくが、どうにも芳しい回答が得られない。ううむ、アテが外れたか。どうにも、彼らの動揺と疑心暗鬼を煽っただけのようで気まずい。
「村長。とりあえず村を警らさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「わかりました。よろしくお願いします」
パトロールに対する許可を得られたので、不安を口にする人々をなだめ、ご解散願うことにした。犯人を泳がせた方がいいのか悩んだが、さらに被害者を出しては元も子もない。今回はシリアスだなあ。