第七十話 魔導剣士ロイ、盲点をつかれる
「お久しぶりです、ベイシック卿」
ルンドンベアに帰ると、さっそくベイシック邸訪問。
急いできたところに、茶の潤いが染み渡る。
「久しいですな。さっそく、用件を切り出すとしましょう。アハ=イシュケでの来たる学会で、皆さんに、シャックス、フォルネウス両者について、発表の補助をしていただきたいのです」
「なるほど。確かに、もっとも詳しく話せるのは、我々です。で、日程と報酬ですが」
アハ=イシュケは、学術で有名な国家だ。
茶を口に含む。
「明後日にでも、到着できればと」
茶を吹く。
オイオイ。オイオイオイオイオイオイ。
早馬飛ばしても、三日はかかる距離だぞ。
「ごほっ。失礼しました。その、あまりにも無茶なスケジューリングでは......?」
メイドさんが、しぶきを拭ってくれる。
「ああ、みなさんは、南方を旅していたからご存じないのですな。テレポーターが設置されましてな」
「テレポーター」
つい、オウム返ししてしまう。
「相互の都市を、一瞬で行き来できるというスグレモノです。利用料は馬車よりかかりますが」
「それはすごい話ですね」
相互に、一瞬で相手の喉元に大量の兵を送れるのだ。相当な信頼と覚悟がないと、できない行為。
アハ=イシュケには、イーゲン陛下の孫が嫁いでいるという。また、アハ=イシュケからも、第三王子に王女が嫁いでいたはずだ。
互いに人質を取っているようなものだが、外交というのは、情ではなく、打算の上にあるもの。切ない話だが。
「日程の件で忘れそうになりましたが、冒険者としては、先立つものが入り用でして」
「これでいかがですかな?」
ベイシック卿が、額を告げる。テレポーターとやらの費用は持っていただけるとのことで、可もなく、不可もなくといったところ。
一同も異存なさそうなので、引き受けることにした。
◆ ◆ ◆
「姉貴ー、どこ行くんだよ」
青い三日月亭で、出かける用意をしていると、サンに問われた。
「師匠のところだ。この体、なんとかならんかとな」
すっかり肉付きの良くなった、尻を叩く。
「あ! じゃあ、オレも一緒に行くっす!」
「ゆっくり休んでて、いいんだぞ?
「水臭いこと、言わないでくれっすよー」
「じゃあ、行くか」
そんなこんなで食堂を通ると、一行にも見つかり、なぜか六人で行くことになってしまった。
◆ ◆ ◆
「師匠、ロイです」
例によって、ドアが手も触れずにスッと開く。
「どうしたロイ。その声、風邪でも引いたか?」
実験装置からこちらを向き、首を傾げる彼女。
「それがその......怪しいスクロールの力で、女になってしまいまして......」
「は?」
ぽかんとする師匠。ですよねー。
「とりあえず、立ち話も何だ。中に入れ」
六人揃って、屋内へ。
「さて、なにがどうしてそうなったのか、聞かせておくれ」
「はい、このスクロールなのですが......」
問題のブツを取り出し、あの夜の出来事、解呪に失敗したことなどを伝える。
「ほー......。たまげた代物だねえ。これ、もう一巻読んでみたのかい?」
「下手に読むと何があるかわからないので、放置していましたが......」
「元に戻れるかも知れんぞ。読んでみるといい。......外でな」
「師匠が、そう仰るなら」
屋外にでて、スクロールの文字を読み上げる。
体が光る!
股を触る!
だめでした!
「......師匠、だめでした」
中に戻り、報告。がっくりうなだれモード。
「ふーむ。......む? これ、逆から読んでも成立するな。やってみたらどうだ?」
「師匠が、そう仰るなら......」
だめで元々。
再び外に出て、呪文を後ろから前へ読む。
体が光る!
股を触る!
......ある!
「やりました師匠! さすがです! 盲点でした!」
「おお、なによりだな」
「服が合わないので、着替えたいのですが」
特に、下着!
「うむ、寝間を使いな」
そそくさー。
「復活! ロイ・ホーネット!」
どや! と、皆の前でポーズを決める。
一同、拍手。
「姉貴が兄貴にもどったっすー!」
サンが、抱きついてくる。
「おいおい、もう男に戻ったんだぞ」
「だからっすよ!」
胸板に、顔を埋められる。まいったな。
「ロイくん、私も......」
後ろから、抱きついてくるナンシア。なんなんだ、二人とも。
「なるほどねえ」などと、師匠も頷いてらっしゃるし。ほんと、なんなの!?
そのとき、俺は気づいてなかったんだ。もう一つの、熱く注がれる視線に......。