第二十七話 魔導剣士ロイ、師匠を訪ねる ―前編―
あの魔城から帰還した日の夜、俺達は例の宿で、夕食を食んでいた。帰路は、疲労困憊した体に鞭打って村経由で戻り、やっと人心地つけた次第である。とにかく肉! 肉を食って力をつけたい! 今日ばかりは、腹ペコ・サンの同類だ!
「ロイさん、あの杖どうするんですか?」
同じく、胃袋に必死に肉を詰め込んでいるフランから、疑問が挙がる。件の杖は、放置しておくのもあれなので、回収して手元に置いてある。
「それについて、丁度いい相談相手を考えてある」
ジューシィなチキンの塊を、ごくんと飲み込む。
「今回、俺たちの力不足を実感した。よって、修行をして鍛え直したいと思う!」
「修行っスか?」
義妹が、眉をひそめる。お前、そういうの嫌いっぽいもんな。
「そう、嫌そうな顔をするな。このへんで。地力を底上げしたいんだ。俺の師匠に、みんなを会わせたい」
「兄貴のお師匠さんっスか?」
マイシスターも少し興味が出たようで、顔を覗き込んでくる。
「ボク、ちょっと修行楽しみです」
修行が楽しみとは、マジメちゃんだな。君のそういうところ、好きだぜ。
「うむ。明日、向かうとしよう」
チキンのおかわりを女将さんに頼みながら、皆に告げる。
明日も早い。食事が終わったら、今日はゆっくり休もう。
◆ ◆ ◆
翌朝、俺達はルンドンベア近郊の森を進んで行く。この先に、師匠のお住まいがあるのだ。
「この森、鳥の鳴き声とか蝉の声が、全然しませんね」
隣を歩いていたクコが、耳を澄まし音を拾おうとする。
「通称を『静かの森』と言ってな。ここの生き物たちは、不思議なぐらい静かなんだ」
「変わった所ですね......」
さすがのエルフでも、こんな森は珍しいのだろうか、キョロキョロとあたりを見渡している。
「危険な生物も特にいないから、安心してくれ」
さらに森を進んで行くと、ログハウスが一軒建っている、開けた場所に出た。
「着いたぞ。ここが師匠のお住まいだ。はて、『兄貴』はいないのかな......?」
『兄貴』は、どこかほっつき歩いているのだろうか。ともかくも、ドアをノック。
「師匠、ロイです! お話があり、戻りました!」
すると、一拍空いて、ドアが誰に操作されたわけでもなく、スッと開いた。一同が、驚きの声を上げる。
中に入ると、薬品の臭いが立ち込める中、紫のバラをあしらった黒いとんがり帽子に、黒のジャケットと、白い異界でいうアラビアンパンツを身に着けた、「いかにも魔女です」と言わんばかりのスレンダーな、長い黒髪を持つ女性の後ろ姿が、フラスコやら謎の液体やらと、格闘していた。
「すまんが、今取り込み中でな。茶はいつもの所に置いてあるから、向こうでくつろいでるといい。お友達には、失礼するね」
彼女が振り返り、皆に会釈する。二十代前半に見えるその美貌には、都会でも珍しい黒下角縁の眼鏡がかかっていた。
「はい、待たせていただきます。みんな、こっちだ」
皆を食卓に案内し、薪をくべてヤカンで湯を沸かす。子供の頃から、師匠に茶を淹れるために幾度となくやってきた、手慣れた行為だ。
「ロイさんのお師匠様というから、もっとこう、いかつい方を想像してましたけど、お若い女性なんですね」
パティが、意外そうに話す。
「それが、実はああ見えて、百年近く生きてらっしゃるようでな」
「百!?」
これにはみんなびっくり。どういう魔法かカラクリか知らないが、エルフでもないのに、あの若々しい外見で百近いのだ。ちなみに、「小娘であるまいし、今さら歳など気にせんよ」とは、いつぞやのご本人の弁。
そんな話をしている内に、師匠がこちらにいらした。