第二十八話 魔導剣士ロイ、師匠を訪ねる ―後編―
「よっこいせ。待たせたね。彼の師である、ローズマリー・ベラドンナだ」
皆が挨拶を交わす。どうでもいいけど、よっこいせは年寄り臭いです、師匠。いやまあ、実際百近いんだけど。
「しかし、ロイ。お前ここを出る時、漢臭いパーティーを作るのだ! とか、息巻いておらなんだか?」
「いえその、まあ色々と、紆余曲折ありまして」
思わず目が泳ぐ。ううむ、どうにも師匠には敵わない。ヤカンから湯気が吹き出したので、皆のために茶葉の入ったティーポットに湯を注ぐ。
「で、どの娘さんを嫁に娶るんだい?」
「あっづ!!」
師匠の唐突な一言に、思わずヤカンを落としそうになり、既のところでキャッチした......はいいが、左手を火傷してしまった。
「師匠! 茶を淹れてるときに、変な冗談言わないでください!」
クコの治癒魔法を受けながら、師匠に苦情を入れる。
「すまん。そこまで動揺するとは、思わなんだ」
彼女が、申し訳無さそうに詫びた。本当に、この人には敵わないな。
治療も終わったので、改めて茶を注ぐと、ハーブティーの芳しい香りが食卓に漂う。
「お前のことだから、ただ顔見せに帰って来たわけではなかろう?」
全員に茶を注ぎ終わり着席したのを見計らい、師匠が問うてくる。
「はい。ひとつは魔物相手に大苦戦をしてしまい、力不足を痛感したため、改めて修行をしに戻りました。もうひとつは、これです」
荷物から例の杖を手渡すと、師匠はそれをまじまじと観察する。
「これは、天魔の杖ではないか。どこで、こんな代物を手に入れた?」
やはり、ご存知でいらっしゃった。彼女の問いに、古城での経緯を説明する。
「ふむ。そんなことがなあ。よし、しばしお前たちの面倒を見てやろう。杖についても、任せておけ」
「ありがとうございます。ところで、『兄貴』の姿が見えないようですが?」
「食料を採りに行ってるよ。噂をすれば、ほら」
屋外から、地響きが聞こえてくる。俺と師匠を除いた皆が、地震かと顔を見合わせていると、小屋の入り口が開かれ、向こうから巨大なハムスターがこちらを覗く。一同、これにはびっくり。
「ロマちゃん、ただいまなのーだ。ごはんがいっぱい採れたのーだ!」
「おかえり。紹介するよ、彼はハムロータ。私の使い魔さ」
「お客さんなのーだ! よろしくなのーだ! けへっ!」
彼は、人語を喋ることができる。体もでかいから、声もでかい。師匠が魔の先生なら、ハムロータ兄貴は武の先生である。
「早速修行を......といいたいところだが、もうすぐ日が暮れてしまうね。ハムロータも頑張ってくれたことだし、久しぶりに、お前の手料理を振る舞ってもらおうかね」
「喜んで。さて、材料は......ふむふむ。師匠、例のアレにしましょうか?」
「おお、アレか! それは楽しみだね」
二人の間でだけ通じる謎のアレに、一同は興味津々。
「兄貴、アレってなんだよ!?」
特に、サンは気になってしょうがないようだ。
「まあ待て。今作るからな。他の皆は、これの皮を剥いて一口サイズに刻んでくれ」
ハムロータ兄貴の採ってきた食材から、じゃがいも、人参、玉ねぎの山を取り出し、桶に入れる。
「俺はその間、香辛料のすり下ろしと調合だ。クコ、一緒に頼む。こういうの得意だろう?」
「はい、得意な方だとは思いますけど」
一体何を作るつもりなのかと、不思議そうな表情を浮かべながらも、同意してくれる。
「あとは......パンを焼いておく必要があるな。これはナンシアにお願いしよう」
ナンシアも了解し、起立する。
「では、調理開始!」
ぽんと手を叩き、一同に号令を下すと、皆、それぞれの配置についていった。
◆ ◆ ◆
「いいかい、クコ。これから言うものを、一緒に入れていこう。トウガラシ、胡椒、ニンニク、ジンジャー、ターメリック......」
種々様々な、乾燥したスパイス類を、次々にすり鉢に入れていく。これらを磨り下ろし調合していくと、スパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。
「なんだか、この時点で美味しそうですねえ」
「完成品はもっと美味いぞ」
ごりごりとすり鉢と格闘すること、体感三十分。いい感じに粉が挽けた。
「皮、剥き終わりましたよ~」
そこへ、丁度いい具合に、皮剥き隊が仕事を終えて戻ってきた。
「よしよし、じゃあこいつらを鍋に入れてだな」
などと、上機嫌でバターを溶かして、野菜たちを炒める。十分火が通ったら、先程のスパイスと水を投入。ぐつぐつと煮立てていく。
「何だこれー。うまそーだなー」
サンが、今にもよだれを垂らしそうに、鍋を覗き込む。
「パン、焼き上がりましたー」
ナンシアが竈から、ロールパンを取り出す。これまた、ナイスタイミング。
「よしよし、パンが温かい内に、こっちのスープも頂くとしようじゃないか。俺がよそうから、師匠を呼んできてくれないか、パティ」
さあさあ、実食と行こうじゃないの。