第二十六話 魔導剣士ロイ、激闘する ―後編―
「散開!」
全員の武器に賦術火炎刃をかけ、四方に散った。
分散したのは、魔法でまとめて攻撃されるのを警戒したからだ。杖を持っているというのが、非常に怪しい。あとは、多方面から攻撃を加えることで、防御を難しくするという狙いもある。
「厄禍呪言殺......!」
仮称・ワイト王が重々しく暗黒魔法を唱える。禍々しい字面の魔法文字を避けられず、命中すると、左手先がただれ、腕も焼けるように痛む!
「ぐぁッ!!」
「命活癒術草!」
クコの魔法によって痛みが一気に引き、ただれも癒える。我々も燃える矢弾で攻撃を加えるが、どうにもこいつは耐久力が高過ぎる。
「痛撃裂殺痕......!」
今度はクコに、不気味に鈍く紫色に光る、奇妙な模様が襲いかかる! 命中した左半身の皮膚が裂け、悲鳴とともに激しい血しぶきが上がる!
「クコ!!」
「命活癒術草!」
自らの傷を魔法で癒やすクコ。彼女の触媒と体力も無限ではない。早期決着が必要だ。
魔法と同時攻撃を行ってくる王の左手を躱しつつ、矢を叩き込む。
王も消耗しているはずだが、何ぶん骸骨なので疲労の度合いがわからない。ただ、矢弾が命中した白骨が徐々にひび割れており、ダメージが確実に蓄積されていることは伺える。
いっそ撤退も選択肢のひとつかも知れない。皆の命を守るのがリーダーの役目だ。逃げることは恥ではない。
いや、弱気でどうする! 勇気を振り絞れ!! 険しきを冒す者、それが冒険者ではないか!
「うおおおおおッ! 雷衝撃滅波!!」
クコの消耗を考え、意を決して短期決戦を挑む。腰のバインダーから魔導書を手に取り、必殺の思いを込めて十八番の魔法を叩き込んでやる。
眩い雷光が王を焼く! すると、ついにやつの左手が爆ぜ、砕け散った!! いける、いけるぞ!!
「小癪な......! 兇貪暴黒牙......!!」
王の呪言が、鋭い牙を持つ漆黒の巨大な顎を生み出す! そいつが、パティの鎧を噛み裂いた! 魔法に対しては、基本鎧というのは役に立たない。彼女のような重戦士にとって、最も厳しい攻撃になる。
悲鳴を上げるパティに、クコの回復魔法が即座に飛ぶ。これは、あまり悠長にしていられない。
「フラン! 何か神聖系のダメージ魔法はないのか!?」
「使えるかどうか、まだ試したことしかないのしかありませんわよ!」
「構わない! やってくれ!!」
どうせこのままではジリ貧だ。やるだけやってみようの世界である。
「聖王曙光輪!!」
彼女が盾に持ち替え、それを高く掲げ祈りを捧げると、白く輝く巨大な光の輪が、ワイト王の頭上に出現する。その輪が回転しながら下降し、王を擦り潰していく! 名前と見てくれの割にエグい攻撃だな!
「俺もそいつに相乗りだ!! 雷衝撃滅波!」
「わしは......わしは王なのだ! 本来ならば、貴様らごときが触れることすらかなわぬ......ぬうぅっ! ぬわあああああぁっ!!」
さらにそこに、いつもの魔法を上乗せで叩き込む。これで俺はもう、体力を使い果してしまった。禍々しい絶叫を上げながら蒸発していく王が、ブラックアウトしていく視界に映る。みんな、後は任せた......。
◆ ◆ ◆
何だろう、この柔らかい感触。頭の後ろに、とても柔からな感触がある。
そうだ、ワイト王だ! 王はどうなった!?
まぶたを開けると、心配そうに覗き込む人状態ナンシアと、クコの顔が目に映った。
「ナンシア? あいつはどうなった......!?」
「勝ったんですよ、私たち。フランさんとロイさんの同時攻撃で」
そうか、勝ったのか......。吉報を確認するため、ゆっくり身を動かすと、どうやらナンシアに膝枕されていたらしいことに気づき、慌てて体を起こそうと試みる。
「お、おお!? すまん!」
「いいんですよ。もっと休んでてください」
といって、ナンシアの手で、再び膝枕体勢にされてしまう。いやはや、抵抗する余力も残ってないとは。
「砂糖水です。少しは体力が回復すると思いますよ。飲めますか?」
クコが、コップを差し出してくる。口をつけてゆっくり中身を飲む。ああ、甘いなあ。染み渡る。
膝枕のまま周囲を見渡すと、フランも同様にサンとパティに介抱されていた。あんな大魔法ぶっ放したら、そりゃ昏倒するよな。
糖分を補給したら、起き上がるぐらいの元気は出てきたようだ。上半身を起こし周囲を確認すると、ワイト王のいたあたりに一本の杖が転がっていた。サイズこそ人間用だが、漆黒でねじれており、王が持っていた杖に酷似している。
「あれは?」
「あの魔物が消滅したら、小さくなって落っこちたんです」
クコが説明をしてくれる。
「取ってくれるか?」
そう言うと、クコがぱたぱたと拾いに行き、手渡してくれたので礼を述べる。
手にとって確かめると、何やら魔法文字が刻まれているようだ。
「何なに......天・魔・の・杖? ......天魔の杖だとォッ!?」
いかん、大声を出したら急に血圧が下がってまたぶっ倒れ、膝枕状態に逆戻りしてしまった。何てこった。魔王ザファーとやらの、復活用アイテムの一つじゃないか。とんでもない物を拾ってしまったぞ。やれやれだな。
このあとは、俺とフランのコンディションが最悪なため、城内で一夜明かしてから帰還することになった。