第二十五話 魔導剣士ロイ、激闘する ―前編―
苦しいことも楽しいこともあった、バーブルの旅からルンドンベアに帰還した翌日。いつもの青い三日月亭で、皆と朝食を食んでいると、不意にガタガタという音が響く。すわ地震かと思いきや、震源は対面に座している、フランの貧乏ゆすりであった。
「どうした? 珍しいな、そんな行儀悪」
「いえ......何でもありませんわ」
注意されて一旦は止めたが、少し経つとまた貧乏ゆすりを再開する。ううむ、落ち着いて飯が食えないではないか。
「ほら、最近アンデッド倒してないじゃないですか」
右横に座っているパティから耳打ちされる。ああ、なるほどね。ストレス溜まってんのか。意図的に遠ざけてたからなあ。
「よし、フラン! 今日は一発アンデッド退治と行こうじゃないか!」
「行きましょう、行きましょう!」
身を乗り出して、物凄い食いつきぶりだ。こっちまで鼻息が届きそうだよ。また狂態を見せられるのかと思うとアレだが、メンバーのストレス発散も、リーダーの努めだからな。
◆ ◆ ◆
そのようなわけで、依頼人のいるルンドンベアから二日ほど歩いた村を経由して、依頼票に書かれた古城にやって来た。
蔦が這い、ところどころ崩れており、実に不気味。この城に、動き回る白骨死体が湧いたのだという。廃城であり一文の価値もない物件だが、近隣住民が怯えてしまって仕事にならないとのこと。
「さあ! ぶちのめしましょう、そうしましょう!」
王都から、こんな調子のフラン。
「どう、どう! 隊列を組むぞ。フラン、パティ、サンが先行して、中衛がクコ、殿は俺とナンシアが持つ。これでいいな?」
荒馬をなだめるように神官サマを抑えながら、隊列の提案をする。本当は、彼女は後衛に回してナンシアと入れ替えたいのだが、どうせ突撃するしなあ、このヒト。まあ、もともと彼女のストレス発散のために受けた依頼だし、好きなだけ暴れさせてあげようじゃないの。
全員で扉を押すと、軋みながら重々しく開く。松明で照らしつつ侵入すると、中は埃臭く、蜘蛛の巣があちこちに張られていた。注意すべき点は、ところどころ蜘蛛の巣が壊されているということ。やはり、ここで屍体が動き回っているというのは本当のようだ。
虱潰しに城内を探索し、クリアしていく。ううむ、緊張感を覚えた割に、一向に死霊と出くわさないではないか。などと拍子抜けした状態で大広間の扉を開けると、社交ダンスを繰り広げている白骨死体の群れとご対面! 出たあぁッ!!
「うばぁしゃああああああっ!! 神が私に、もっと輝けと囁いていらっしゃいますわッ!! 死霊浄化術ォォォッ!!」
神官サマが、人間のものとは思えない雄叫びを上げながら聖印の刻まれた盾から聖光を放ち、アンデッドを十体ほど光の粒子にして消滅させる。しかし、屍体の群れはまだまだたくさんいる。こいつぁ骨が折れそうだ。向こうも我らを敵と認識し、襲いかかってくる!
「半獣化します!」
ナンシアもまた人ならざる獣の咆哮を上げ、人狼の姿を顕にする。そういやローライズのパンツに履き替えたのは、しっぽが出せるからなんだな。今の変身を見て、合点が行った。
ナンシアが得意の飛び膝蹴りを叩き込むと、死霊は頭蓋骨を砕かれ動かなくなった。俺も負けてられんな。
「ロイさん! これ、バラバラにしても復活しますよ!?」
前に出ようとしたとき、パティの悲鳴が耳に入る。そちらを見れば、彼女が小剣で粉砕した骸骨が、逆再生のように復活しているではないか! サンも同様に苦戦している。
もう一度ナンシアの方を見てみれば、彼女が倒した骸骨はピクリとも動かない。これは一体、どういうカラクリか?
脳内の魔物辞典を繰り、こいつらの正体を突き止めようと試みる。よくよく観察してみれば、死霊どもはうっすらと瘴気のようなものをまとっている。フランの神聖魔法とナンシアはやつらを倒せて、パティにはそれができない。瘴気をまとった骸骨......。
ピンときた! あれに違いない!
「みんな、そいつはワイトという魔物だ! 屍体に取り憑く霊体で、倒すには魔法か銀の武器が必要だぞ!」
正確には、同種の非魔法耐性を持つ魔物、もしくはより上位の魔物の打撃も有効なのだが。ナンシアの攻撃が効いている理由は、これだ。
それはさておき、種さえ割れてしまえば対処のしようはある。パティとサン、ついでにフランの武器に賦術火炎刃をかけ、自分は銀の小剣を抜剣する。
ちなみに、賦術火炎刃はこんな名前だが、打撃武器にも炎をまとわせられるし、弓やスリングにかければ矢弾のほうが燃え盛って飛んでいくという優れものだ。
「ありがとうございます!」
「兄貴の愛を感じるっス!」
パティとサンから、感謝の声が上がる。神官サマはそんな余裕もなく、燃える鎖付き棘鉄球を振り回して奇声を上げながら別の意味で燃えている。その姿はまさに狂戦士。
もう、この人は好きにさせておこう。ああ、諦めるって楽になれるんだな。この歳で、こんなこと知りとうなかった......。
ついに、最後の一体を倒し終えた。すると、広間全体におぞましい声が響き渡る。
「お前たちは何者だ。わしの舞踏会を台無しにしよって!」
周囲を見渡せば、天井近くの宙に、瘴気をまとい王冠を被った巨大な髑髏と、白骨化した両手が浮かび上がっているではないか! しかも、右手にはねじれた漆黒の巨大な杖を持っている。この禍々しい圧、かなり強力な魔物と見た!!
「フラン! こいつには。お前の今の力では死霊浄化術は通じないと見た! 賦術火炎刃をかけた飛び道具で倒すぞ!」
「ええい、死霊風情が忌々しいですわねッ!」
さすがに彼我の力量差を理解してか、おとなしく弓を手に取る神官サマ。そういう、多少理性が残ってるところはありがたい。他の者も、予備武器であるスリングや弓、クロスボウを手にした。