第二十四話 魔導剣士ロイ、祭を楽しむ ―後編―
大通りに出ると、紙製のランタンを多数並べて吊るし、灯りをとりながら、祭に興じる人々がまだたくさんいた。
腹が減ったし、とりあえず何か口にしたいところだな。
「なんだか、面白い焼き物の屋台がありますよ」
ナンシアが袖を引っ張る。
屋台を見ると、鉄板の上でドロリとした液体に千切りキャベツや、肉を乗せて焼いていた。片面が焼けると、コテを二つ使って器用にひっくり返すのが面白い。見事見事。
店の看板を見ると、「お好み焼き」と書いてある。また、奇妙な料理と遭遇したようだ。横にはイートインスペースがあり、老若男女がこの料理とエールを楽しんでいる。
「ご主人。これはどういう料理かな?」
「へい、お好み焼きっていいまして、小麦粉をといたものにキャベツや豚肉、イカなんかを乗せて食べる料理で」
「具は選べるんですかね?」
「へい、そりゃもう! お好み焼きってぐらいですから!」
「だそうだ。みんなは何を入れてもらう?」
オーダーをまとめると、烏賊が六、豚が一。義妹は、豚と烏賊両方食うつもりらしい。呆れた食欲だな。
というわけで注文を伝えると、店主が威勢の良い返事とともに溶いた小麦粉を流し込み、具を載せて焼き始めた。やや経つと、香ばしい匂いが立ち込めてくる。これは食欲を唆るな。そして、華麗なコテ返し。サンが拍手を送る。
ややあって、ソースを塗ったお好み焼きが、皿に乗せられて出てきた。お好み焼きの上では、謎の茶色い物体が、ゆらゆらと踊っている。緑色のパウダー状のものと、細切りにされた紅色の物体も不思議だ。
「何だかファンタスティックな料理ですねえ~」
踊る物体に、興味津々のクコ。
「早速食べてみようじゃないか。みんな美味しそうに食べてるし、きっと旨いぞ」
地元民のように箸が使えないので、フォークで切り取って、口に運ぶ。
ほう、これは濃厚なソースの旨味がまず口を満たし、続いて小麦粉ベースの土台がそれを受け止め、咀嚼すると烏賊とキャベツの旨味が溢れる! ううむ、このふわっとした土台の感触、実に不思議。
何か、隠し味が仕込まれていると思うのだが、これが見破れない。悔しいな。ちょっとだけ「やあ」と主張する、酸っぱ辛さもいいアクセントだ。どれがその正体だろうと注意深く食べてみたら、紅色の物体が仕掛けのようだ。
「店主、このふわっとした感じはなにか隠し味が?」
謎解きをギブアップして、尋ねる。
「とろろですね。山芋を擦ったものです」
ほほう、山芋ねえ。バーブルの特産品かな。エールをグイッとやると、お好み焼きと実に合う。うまし。
お好み焼きを食みながら、他愛もない会話をしていると、通りの向こうから掛け声が響いてきた。何だ何だ?
掛け声はどんどん大きくなっていき、人の波が目の前をよぎる。中央では何かを担いでいるようだ。
「店主、ありゃ何です?」
「神輿です。祭のときはあれを担いで回るんです」
掛け声で互いの声がかき消されそうなので、大声で会話する。いやはや、すごい声量と活気だ。
やがて、神輿担ぎの列は遠くへと去って行った。すると、不意に上空から、何かが炸裂する音が響いてくるではないか。
空を見れば、光の筋が立ち昇って上空で爆ぜ、様々な光の軌跡を残して四散している。
「あれは?」
「花火っていって、魔導師が爆発魔法を応用して、空中に模様を浮かび上がらせてるんです」
店主の言葉に感心する。爆発魔法にこんな使い方があるとはなあ。
やがて、バラバラと細かく弾ける音が聞こえ、宙空に『建国七十周年』の字が浮かび上がった。おお、こりゃすげえ。
今のがラストだったようで、立ち止まって見上げていた群衆が動き始めた。人気が、徐々に薄れていくのを感じる。そろそろ祭も終わりか、名残惜しいな。
「俺たちも、そろそろ宿に帰るか?」
サンが最後の一口を飲み込んだのを見届け、一同に声をかける。
「そうですわね。祭も終わりのようですし」
「いいときに来ましたね」
フランとパティが提案に従い、立ち上がる。他の皆もそれに続き、祭見物はお開きとなった。