第二十二話 魔導剣士ロイ、海の幸に舌鼓を打つ
視点は、ロイに戻る。
「みんな遅かったな」
女性陣が食堂にやって来たので、声を掛ける。皆の会話は、パティの指摘通り丸聞こえだったが、そこは言ってやらないのが、優しさというものだろう。パティといえば、湯上がりにも拘らず、すでにいつもの鎧姿だが、蒸れないのだろうか。外はすっかり日が落ちている。
「お待たせしました。お食事をいただきましょう」
すました顔で、着席するフラン。他のメンバーもそれに続き、ハチマキ姿の若い男性従業員が注文取りに来る。いつもの宿屋の女将さんも、従業員雇えばいいのになあ。一人で切り盛りするの、大変だろうに。
「ここは、何がおすすめかな?」
「そりゃあ、何と言っても魚介類ですね! この時期だと、アジ、ハモなんかが旬ですよ」
アジは内陸育ちの俺でも名前ぐらいは耳にしたことがあるが、ハモというのは耳慣れぬ魚だ。皆も興味深げな様子。
「じゃあ、それと酒を」
「畏まりました」
店員は笑顔でオーダーを記し、厨房に引っ込んでいく。皆で旅の思い出など話していると、体感十数分ほどして、先程の彼が料理を手に戻ってきた。
「お待ちどう様です。アジの刺身です」
刺身とな? 皿の上を見てみれば、謎の白い糸のような細切りの上に、生魚の切り身が、そのまま乗せられているではないか。しかも、付け合せに謎の黄色いペーストに、黒い汁。それとは別に、口の狭まった壺のような陶器と、同じ土から作ったであろう、小さな陶器の器のおまけつき。とどめに、フォークの他に、先の細まった謎の黒い木の棒が二本。何なのだ、これは! どうすればいいのだ!?
「召し上がり方は、ご存じですか?」
「いや、バーブル料理は初めてなもので」
「本来はこちらの箸で召し上がるのがおすすめなんですが、無理せずこちらのフォークをお使いください。アジの刺身には生姜を載せて、醤油をつけて召し上がってください。こちらの白いのはツマといって、大根の細切りです。米酒がとても合いますよ!」
彼が順に、棒、フォーク、切り身、黄色いペースト、黒い汁、白い糸、陶器を指して説明してくれる。困惑は消えないが、まあ何とかなるだろう。
さっそく言われた通りに切り身に生姜と醤油をつけ、口元に運ぶが......ううむ、夏場に魚の生食というのは勇気が要るな。ええい、ままよ!
思い切って咀嚼すると、生魚独特の生臭さを生姜が打ち消し、醤油のまろやかな塩辛さが舌に来る。これに、生独特のクニュクニュした食感が加わって、実に面白い。
ここで、温く燗された米酒を手酌でグイッと飲むと、キリリとした辛味がすっきり舌を洗う。ううむ、バーブルの真髄、ここに見たり! 大根も地味に旨い。
「お待ちどう様です。ハモの湯引きと、お吸い物をお持ちしました」
今度の料理は、細かく包丁の入った白身魚を茹でたものに、赤いペーストが乗っている。もう片方は、澄んだ汁の中に、同じく細かく包丁の入った白身魚が沈んでおり、三つ葉が浮いている。
「この赤いペーストは?」
「梅干しと言って、梅という植物の実を、紫蘇という植物の葉と一緒に塩漬けにしたものを、裏ごししています」
へえ、そりゃまた面妖な。とりあえず湯引きとやらの方から頂いてみるか。......むう!? 酸っぱい! しかし、ハモの淡白ながらしっかりした旨味と酸味が、実に調和している。こんな食べ方もあるのか! さらに面白いのはハモの舌触りで、大量に入れられた包丁により、ほろほろとしたものとなっている。ううむ、実に面白い。これまた酒が進む味だ。
では、こちらの椀物はどうか。一口すすると、ハモの出汁が溢れる。もう一つ味付けとして、先程の醤油に似た調味料が使われているようだ。これが滋味というものか。三つ葉の清涼感も、良いアクセントだ。バーブルや、ああバーブルや、バーブルや。
気づけば、料理をすっかり平らげてしまった。今日は面白い料理と温泉に出会えて、異文化を満喫したぞ。明日はちょっとやりたいことがあるので、早めに休むとしよう。