第二十一話 魔導剣士ロイ、温泉を楽しむ
バーブル王国は、東に海を持つ沿岸都市で、街中に潮の香りが漂っていた。話に聞いた通り大変活気に溢れており、ルンドンベアをさらに上回る盛況ぶりだ。何の祝いか、祭も開かれている模様。
街並みは、異界知識でいうところの、和洋折衷という言葉がよく似合う。
我々冒険者は適度な宿を取り、三日ほど逗留する予定となっている。予想外の襲撃があった結果、臨時に危険手当が支給されており、懐も温かい。
「兄貴、あれ旨そう!」
「おいおい、さっき別の串焼きを食べたばかりだろう?」
「だって、せっかくの異国じゃないっスか! 食い尽くさなきゃソンっスよ!」
サンは、自由行動になってからというもの、食べ歩きに余念がない。まあ、一週間ぶりの羽のばしだしな。沿岸都市だけあって、大通りには、ルンドンベアではお目にかかれない海の幸が溢れており、かくいう俺たちも、ホタテと烏賊の串焼きを手に歩いている。もっとも、先程述べたように、義妹はすでに両方平らげてしまっているが。
「宿はどこにします?」
烏賊を食みながら、クコが尋ねてくる。そうだなあ。
「俺のカンでいいか?」
「おー! 兄貴のカンは確かだからな! あの宿屋選んだのも、兄貴なんだぜ」
はっはっはっ、褒めても何も出ないぞマイシスター。とはいうものの、期待にはきちんと応えねばな。
鼻と目を利かせ、次なる宿を吟味する。すると、一軒の宿屋に、ビビビとセンサーが反応した。
木彫りのカジキマグロの看板を下げた店で、『輝く鱗亭』と屋号が書かれている。
「ここ、どうかな?」
皆を見回すが、特に不服はないようだ。ではここにしよう。
「ところでロイさん、烏賊の匂いって精」
「黙れ」
宿に入り際、烏賊を食べ終わったクコの下ネタを、笑顔で阻止する。異国まで来て、やめなさい。ほんとに。
「らっしゃぁい!!」
店内に入ると、えらく威勢のいい大声が響く。声の主は、角刈りにハチマキ姿がよく似合う、ガタイのいいおっちゃん。
「宿を六人分。空いてますかね? 俺と、あと一人はシングルで」
「はい、大丈夫でさァ」
とりあえず、空き部屋は問題ないようだ。やっとゆっくりできるな。夜まで、旅の疲れを癒そう。
「うちには温泉がありやすんで、ぜひ入ってみてくだせえ!」
ほほう、温泉とな? そいつぁ楽しみだ。
◆ ◆ ◆
視点は、ロイから移る。
がらがらと引き戸を開けて、裸体に手ぬぐい一枚のサン、パティ、フラン、クコ、ナンシアが、夕日差し湯けむり立つ、露天風呂に入ってきた。長髪のフランとクコは髪を上げている。先客はおらず、貸切状態だ。
「これが温泉ですか。初めて見ます」
「すげーな! これ、中に入っていいんだろ!?」
目を白黒させているクコと目をキラキラさせているサンという、実に好対象な二人。
「ご主人によれば、まずはかけ湯をするのがマナーらしいですね。足元からかけていくのが、コツだそうです」
パティが湯を汲んで自らの体にかけ、他の四人もそれに倣う。
「こちらも良い湯加減みたいですね」
湯船に手を差し入れて泳がし、湯加減を確かめるナンシア。ゆっくりと足から湯船に浸かっていき、他の者もそれに続く。
「うほお! 何だこれ、気持ちいいぞ!」
「落ち着きなさいな。これは面白いですわね、天国にいるかのような心地よさですわ」
バシャバシャと水しぶきを上げてはしゃぐサンを、フランが制する。
「思えばこうして女同士でゆっくり話す機会って、ありそうであんまりなかったですね」
ぷに。
「ちょっ!? 何するんですの!?」
「いやー、フランさんほど大きいと、突き甲斐がありますなあ」
変態エルフに、胸を突かれてしまったフラン。
なお、大きいとの評だが、我々の世界でいうAカップ程度である。しかし、サーズベルラーでは規格外の巨乳に当たる。
「そして、ナンシアさんの平坦さも、また尊し......」
「なっ! やめてください!」
フランに一発頭を引っ叩かれた後、今度はナンシアの無乳をまさぐるクコ。
「あなた、見境なしですの!?」
「わたしに、見境があるように見えますか?」
無駄にキリリとした表情に、呆れ返って、説教すらする気が失せる神官であった。
「パティさんは、わたしと同じぐらいですかねー」
「ひゃうっ!?」
今度は、互いの胸に左右それぞれの手を当てて、感触を確かめる。
なお、パティもクコも、我々の世界でいうAAカップというところ。サーズベルラー人女性の、平均的サイズである。
「サンちゃんは......これからってとこですかねー?」
「な、なんだよー......」
サンの胸部を視姦するド変態の視線から隠すように、胸を抑えて背を向ける最年少。彼女もまた、ナンシア同様まっ平らである。
「みんな違って、みんないい。名言ですね」
うんうんと頷き、一人納得する、歩く煩悩。
「もう......なんか、変な気分になってきましたわ。のぼせそうですし、そろそろ上がりません?」
フランの提案で、皆、湯から上がる。クコは、色んな意味で名残惜しそうだ。
「そういえば......。ロイさん隣の男湯に入ってるんですよね? 今の会話、丸聞こえじゃないですか?」
パティの指摘に、一同は桜色に染まった顔を、さらに紅潮させた。