第六十二話 魔導剣士ロイ、南へ
「突然だが、諸君」
朝食に、おなじみのサンドイッチを取っている最中、不意に切り出した。
「しばらく、南へ行かないか?」
「ほんとに唐突っすね。南といっても、どんぐらい南っすか?」
サンが、五つ目のサンドイッチを飲み込み、問うてくる。よくまあ、朝からそれだけ入るな。
「南方にパルピアという海洋国があってな、温暖で、風光明媚らしい。聞くところによると、近々、海神祭という祭りが開かれるとか」
「それは、楽しそうですねえ。ロイさんの女性用水着姿を、目に納めるチャンスですしね!」
ほわわんとしているクコの脳天にチョップを入れる。まったく、人の苦労も考えないで......。
「ここも、エーデルガルドほどではないが、寒さが厳しくなる。どうだろうか?」
決を採ると、満場一致で賛成。
「蒼い三日月亭」の女将さんたちを始めとして、普段お世話になっている人々に挨拶して回る。
「いやはや。あの巻物に、こんな効き目が。驚きですな。南方の魔物の報告、期待してますぞ」
「えー、行っちゃうのかい? せっかくロイ氏、女の子になったのになあ。あ、パティたん。ロイ氏の水着姿、スケッチしてきてよ!」
「そうか、南方へ。無論、春には戻ってくるのだろう? そうしたら、またデエトしようではないか! 一足飛びに、結婚でもいいぞ!」
個性的なお三方へも、ご挨拶を済ませ、いざ南へ!
◆ ◆ ◆
パルピアへは、往路二週間ほどで着いた。
街は国の総力を上げて海神祭の準備を進めており、実に賑やか。街の雰囲気は、異界でいうバリやフィジーといった風情だ。
街へ入ると、歓迎の花輪を首にかけられ、ハグされる。
空も、海も、人柄も明るいな。
「姉貴ー! ひと泳ぎしようぜー!」
「その姉貴っての、慣れんなあ......。お前、水着持ってないだろう。それに、腹ごしらえをまずはしたい」
「あ、たしかにお腹空きましたね」
パティが同意する。
さすがのパティも、この常夏の国ではアーマーを外しており、どうにも恥ずかしげだ。
途中の宿場町では色々食ってきたが、質素なものばかりだった。ここは、豪勢にパーッといきたい。
「となれば......姉貴の、直感タイムっすね」
「なるべく、期待に応えよう」
しばらく街を物色していると、とある店にピン! ときた。
「ここ、どうだろう?」
「紅い珊瑚亭」。文字通り、軒下に紅い珊瑚が飾られている。
「ここに、ピンときた。入ってみよう」
「いらっしゃいまセ~。六名様ですカー?」
女性店員が、出迎えてくれる。
「うむ。おすすめを、適当に持ってきてもらいたい」
「かしこまりましタ~」と、厨房に消えていく彼女。
ややあって、魚を載せた、丼飯が運ばれてきた。
「これは?」
「アヒポキ、ネ。魚の切り身をごはんに載せた料理ヨ」
バーブルでいう、海鮮丼か。どれどれ......。
「や、醤油の味がするな!」
「パルピア、バーブルとも交易盛んだからネ!」
いやはや。これは食が進むな。内陸育ちの俺にとって、バーブルの刺し身は鮮烈であった。こうして、またここで刺し身と出会うとは。
これも運命か。いや、運命は大げさだな。
「飲み物は、なにかないだろうか?」
さすがに、暑いし、なにか飲みたい。
「お客さん、海入ル?」
「そのつもりだが」
「じゃあ、ココナッツジュース持ってくるヨ」
再び、奥に消えていく店員さん。
「美味いっすねー」
「うむ。当たりのようだな」
「さすが、ロイくんセンサー!」
などと和気あいあいと談話していると、ジュースが運ばれてきた。
飲みやすい。自然な甘さだ。この、角切りの物体は何であろうか? ココナッツの実ではなかろうし。
「すいません、この角切りの物体は?」
「ナタデココ、ヨ。おいしいヨ」
たしかに、独特の食感が面白い。こりこり。くにゅくにゅ。噛み切ったとき、ぎゅっという感触が気持ちいいな......。これは、歯が嬉しい物体だ。
「そうだ。宿、六人ぶん取れるかな? 二つはシングルで」
「姉貴ー。もう女同士なんすから、ツイン三つでよくないっすか?」
「いや、そうもいかんだろ......」
サンの提案に困り果てていると、意外な人物が挙手した。
「あの! ボク、ロイさんと一緒の部屋がいいです!」
固まる一同。
「ええええ!? どういう風の吹き回しだ!?」
「ロイさん、今、女性じゃないですか。だったら、男性恐怖症を克服するチャンスかなって、思ったんです」
もじもじと、指を突き合わせるパティ。
「それなら、オレも姉貴と同室がいいっす!」
「お姉ちゃんも!」
「言うまでもなく」
サンにナンシア、クコまで挙手してきた。クコは貞操の危機を感じるので論外として、どうしたもんか。
「うむ、パティの心意気やよし! 同室になろう」
「ええー!?」と残念がる、サンとナンシア。
なんか、雪崩事件から向こう、君たち、なんか妙にバチバチしてなーい?