第四十一話 魔導剣士ロイ、北へ行く ―後編―
視点はロイに戻る。
はー、興味深い体験だったな、クールウンも終わり、食堂で一人水を飲んでいると、女性陣が戻ってきた。店主から、エールは後回しにして、まず水を飲むことを勧められたので、そのようにしている次第だ。
「よお、どんな感じだった?」
水差しとコップを渡しながら、例によって、すでに鎧姿のパティに尋ねる。ほんと、蒸れないのそれ?
「面白い体験でしたー。もう、喉がカラカラですよ~」
皆、一斉に水を呷る。
「じゃあ、食事を頼むとするか」
先ほどアニタと呼ばれた女性が傍を通りかかったので、シェフのおすすめとエールを注文する。
さて、どんな物が出てくるか。
◆ ◆ ◆
「お待ちどうさまですー。ロールキャベツですー。うちの自慢なんですよー」
ややあって、店主が料理を手にこちらへやってきた。
料理は、湯気立つコンソメスープに浸かったロールキャベツ四巻きと、黒パンにチーズ、そしてお待ちかねのエール!
さあ、まずはエールだ! 乾杯し、一気に呷る!
爽やかなのどごし、豊かなコク。ああ、染み渡る。砂漠に水が注がれ、そこから緑が広がっていくような感覚だ。
続いて、ロールキャベツをいただくとしよう。
ぎゅっとキャベツを噛みしめると、ほどよく柔らかい歯ごたえに続く、キャベツのほどよい甘味。さらに、ひき肉のほろほろした感触とともに、豊かな肉汁がじゅわりと広がる。ああ、実にほっとする味。暖炉のぬくもりを体現したような温かさだ。
そして、ここでパンと洒落込もうじゃないか。ふかっとしたほどよい食感に、ライ麦の素朴な味わいがマッチしている。北の大地ここにあり。
トドメにチーズ。何しろあれだけ旨い牛乳から作られるチーズなのだから、当然こいつも抜群に美味い。牛乳のときからさらに進化したコクとクリーミィさが、実に豊かだ。
いやあ、堪能した。これで明日もまた頑張れそうだ。
◆ ◆ ◆
翌朝、依頼者である市の庁舎に赴いた。受付で依頼票を見せると、市長室へと通される。市長のお出ましとは、結構でかい話のようだな。
ノックして、依頼を受けに来た冒険者であることを告げると、入室許可が降りた。
中に入ると、シックで品のいい調度で飾られた室内の向かいで、眼鏡で中肉中背の中年男性が、書類にサインをしているところだった。彼が市長だろう。
「かけてくれたまえ」
勧められるままソファに着席すると、彼も対面に座る。
「依頼について説明しよう。もう一ヶ月ほどになるが、若い女性や子供が行方不明となり、無惨な変死体として発見される事件が相次いでいる。これらの行いを、かねてより暗躍している、悪魔崇拝教団の仕業と判断し、討伐を依頼した次第だ」
市長が、ざっとかいつまんで説明をしてくれる。ふむ。だが、いくつか疑問点があるぞ。
「いくつか、質問をよろしいでしょうか? 一に官憲を動かさない理由と、二に地元ではなく、わざわざルンドンベアで依頼を出した理由を、お聞かせ願えますか?」
彼は少し思い悩んようだが、重々しく口を開いた。
「前者については証拠がないのだ。教団はなかなか影響力があり、正面衝突は避けたい」
ふうむ、キナ臭い話だな。
「後者については、この街一番の冒険者が教団討伐に向かったが、返り討ちにあった。そのようなわけで、他の冒険者も怖気づいてしまって、手を付けてくれんのだ」
要するに推定有罪なので、街のみんなの代わりに倒してくれってことか。割と無茶言うな。報酬の高さに得心がいった。
実際に話を聞くと、どうにも気乗りしなくなってきたが、神官サマのスイッチが入ってしまったことと、ここで引き返したら、何のために遠路はるばる北へ来たのかわからないという問題がある。
横に座っている、皆の様子を伺ってみるか。
フランは言うまでもないわな。サンとパティも依頼を受けることに同意の模様。クコとナンシアは何とも言えないといった表情だ。一応賛成多数だな。
「わかりました、お引き受けしましょう。教団について頂ける情報があれば、ご提供願えますか?」
「おお、引き受けてくれるか。では、これを持って行ってくれたまえ」
市長は、立ち上がるとデスクから書類を取り出し、それをこちらに渡してきた。
書類には、教団主要メンバーの人相書きと、プロフィールが載っている。
教団名は「明星の使徒」。教団の首魁は「ダイアー・クニン」。構成メンバー、およそ百五十名。拠点は、北の山の中腹。
こりゃあ、ちょっと骨が折れそうだな。やれやれ。