第七十三話 魔導剣士ロイ、学都の料理を堪能する
「ここが、吾輩が贔屓にしている宿でしてな」
そう言う卿に連れてこられたのは、「緑の森亭」なる店。
清潔な室内で、多くの町民......冒険者風もいるが、それらが食を楽しんでいた。いい匂いがする。
「アハ=イシュケの名物は、何といってもソーセージ。騙されたと思って、頼んでみてくだされ」
ほほう、卿の太鼓判。
「では皆、ソーセージとエールでいいかな?」
一同意義なし。というわけで注文。
先程の学術会議について卿と談義していると、注文の品が運ばれてくる。
どれどれ......。
むう!
外はパリッ! 中はジューシィ! これは美味い!
養豚場ですくすくと育った豚の、生命の息吹を感じる!
ああ......うまい芋を食って育ったんだろうな。手塩にかけて育てた飼育者の、愛と別れが目に浮かぶようだ。
「こりゃあ絶品ですね!」
ここでエール! 効くぅ!
「そうでしょうとも、そうでしょうとも。ソーセージの本場ですからな」
卿も、愉しんでおられる。皆も、満足そうだ。
そんな風に和気あいあいとソーセージと酒を愉しんでいたが、何かもう一品いきたい。
「卿。もう一つなにか、おすすめはありませんか?」
「ふむう。肉の次は、魚などいかがですかな? この時期だと、フォレレ・ブラウが旬で、具合がよろしい」
「なんでしょう、それは」
聞き慣れない料理だ。
「有り体に言うと、ニジマスの煮込み料理ですな」
「それは面白そうですね。では、それとエールを頼みましょう」
というわけで、注文後再び談笑。
すると、やってきましたよ! 鮮やかな青い体が、目を引く。
「では、いただくとしましょう」
うん! 酸味が利いてて、こりゃ食が進む!
こいつは川の中で、どんな世界を見てきたんだろうな。
左右に開いた魚の目には、この世はどう映っているのだろう。
色彩を喪った今の目からは、彼らの見ていた世界をうかがい知ることはできない。
そして、エール! また効くぅ!
「いやあ、面白い料理を教えていただきました。ところで、明日以降のご予定は?」
「吾輩は、やることも済ませたので、明日帰投しようと思ってますぞ」
「では我々は、もう少しこの街を散策してみます。興味深い依頼もあるかもしれないですし」
特に、さっきのステルベンさんが気になる。一同も、この街に興味津々らしい。冒険者のサガだな。
「それもよいでしょう。ですが、帰りは自費でお願いしますぞ」
「承知しております」
「では、アハ=イシュケを存分に楽しんでくだされ。吾輩はお先に失礼しますぞ」
精算を済ませると、卿は寝室のある二階へと上がっていった。
「もう! ロイくんったら、ベイシック卿と話してばっかり」
「すまない。普段、アカデミックな会話ができないものでな。ほら、俺は師匠の下で、勉学に励んできたたちだろう?」
「むう。お姉ちゃんも、真面目に色々勉強しようかしら?」
「お、オレもオレも!」
なんか、サンまでノってきた。なんですかフランさん、そのジト目は。
「うむ! 向学心があるのはいいことだな!」
だから何、そのジト目。
「ロイさん。ボクも一緒に、お勉強していいですか?」
「おお、パティもか。いいぞー、はっはっはっ!」
だから、そのジト目は何なんですか、フランさん。
◆ ◆ ◆
その夜、ランプの明かりで、一同で勉強会。もっとも、フランはさすが神官、教養が高く、クコもエルフだけあって頭がいい。ほんとにこの二人、なんで普段はあんなんなんだろうな。
「でだ。火の精霊が......」
「うおー! 頭がフットーしそーだぞー!!」
「こらこら。騒がしいぞ、サン。それに、始めたばかりじゃないか」
「だってよー......」と、人差し指をつつき合わせる彼女。やれやれだな。
ん?
「そういえばお前、なぜ字が読める? その、言いにくいが......」
「育ちが悪いってんだろ? じっちゃんに教わった! オレの育ての親だ! シーフの技術も、じっちゃんに教わったんだぞ!」
鼻高々だ。俺にとっての、ベラドンナ師匠みたいな存在なのだな。
「そうか。話の腰を折ってしまったが、ギブアップなら、先に寝てていいぞ」
「殺生だぞ、兄貴~。まだ頑張れるぜ」
「わかった、続けよう。火の精霊が......」
こうして、勉強会は夜遅くまで続いた。