第七十四話 魔導剣士ロイ、夢を見る
「いただきます!」
ある初秋の日、一家でテーブルを囲む。
テーブルの上には、サラダと目玉焼きとソーセージ。そして、オニオンスープにロールパン。
いい匂いが、鼻をくすぐる。
「ロイ、今度の定休日、釣りに行こうな!」
「うん!」
微笑みかける父さんに、元気に返事。
だめだ、父さん。「今度」はないんだ。
「楽しんできてね。私は、友達と劇場行くから」
前髪が気になるのか、ちょいちょいいじってる姉ちゃん。
行けないんだよ。「今度」はないんだ。
「晩御飯は、何にしようかしらね。シチューでいいかしら」
「さんせーい!」
元気に返事。
ああ。その「晩御飯」もないんだ。
「じゃあ、ロイにお使い頼もうかしらね」
「うん!」
行っちゃだめだ。みんなが......。父さんも、母さんも、姉ちゃんも......。
平和な食卓。
平和で、平和で。とても平和で。これが、ずっと続くはずだったんだ。
瞬間、凄惨な殺人現場に変わる。
家族の名前を呼ぶ。返事はない。
家族を揺する。
反応はない。
泣きわめく。
誰も助けてくれない。
地獄の中で、そっと差し出された手を、ぎゅっと握り返す。
◆ ◆ ◆
目が醒めると、眼尻が濡れていた。
また、あの悪夢か。ときどきこうして夢に見る。
窓を開けると、陽光が差し込む。
俺は、いつこの悪夢から解放されるのだろうか。
多分、死ぬまでだな。
白昼堂々の犯行にもかかわらず、未だ犯人は捕まっておらず、迷宮入り扱いになったらしい。官憲も暇ではない。
だからといって!
......ふう。朝から頭に血を上らせるもんじゃないな。
用足ししたら、少し散歩しよう。
◆ ◆ ◆
春の早朝は、まだ冷え込む。だが、これぐらいが、冷静になれてちょうどいいのかもしれない。
犬を散歩させている人とすれ違ったので、会釈する。
平和だな。
だがこんな平和な街でも、官憲や、俺たちが必要とされている。
サンも元はといえば、スリで生計を立てていて、ことと次第によったら、俺が捕まえる定めだったのかも知れん。運命というのは、読めないな。
一旦戻るか。腹が空いた。
◆ ◆ ◆
「ロイくん。今日の予定は、やっぱりステルベンさんに会いに行くの?」
「そのつもりだが、皆も別行動したいなら、好きにしてくれていいぞ」
緑の森亭で、朝食にソーセージエッグをいただく。......少し、今朝の悪夢を思い出してしまった。
「水臭いこと言いっこなしっすよ~。オレは兄貴と一心同体っす!」
「ボクもです」
「ならば、私も」
結局、いつメンで行動だな。そういえば。
「クコ。昨日から静かだな」
「だって......」
「だって?」
「だってこの街、インスピレーションが湧くようなものがないんですよう!」
頭を抱える彼女。下ネタに、インスピレーションも何もない気がするのだが。
やれやれだな。
◆ ◆ ◆
まずは、学院を訪れてみる。今日は平日であるから、こちらにいると思われるが......。
「あっ!」
クコが、素っ頓狂な声を上げる。
「どうした?」
「あれですよ! 見てください!」
......ちょうちょが、まぐわっておるな。
「生命のエネルギーが、躍動してますねえ~」
あー、はいはい。クコに反応して損した。
そんな彼女をお構いなしに、得物を預け院内に入ると、慌てて合流してくる。
「失礼。冒険者チーム、スティング・ホーネットのロイと申しますが、ステルベンさんはいらっしゃいますでしょうか?」
受付に尋ねると、現在講義を開いているとのこと。
「せっかくだ、見ていこう」
サンは不満そうだったが、結局ついてくることにしたようだ。
講堂に入ると、ステルベンさんが、教鞭を執っているところだった。
こういうところはありがたいことに、見聞きするだけならタダだ。単位はもらえないが。
彼と目が合うと、笑顔で会釈されたので、会釈で返す。
途中からの参加だが、授業内容は、彼の説く「生と死は表裏一体」に基づくものだった。なかなか勉強になる。
鐘が鳴った。
「では、今日はここまで。続きはまた明日。......これはこれは、ようこそ」
「ご講義、興味深い内容でした」
「ちょうどいい。これから一コマ、フリーでね。ここではなんだし、私の自室へ行こう」
誘われるままに、皆で彼の部屋へと向かう。
「茶をどうぞ。それとも、コーヒーの方が?」
「お茶でお願いします」
めいめい、好きなものを頼む。
「ところで、ステルベンさん。なぜ、自分にこんなに目をかけてくださるんです?」
どうにも気になっていたことを、ズバッと切り出す。
「そうだねえ......。一つは、君が聡明なこと。それと......」
一旦言葉を切る。
「とても哀しい眼をしていること、かな。失礼だが、近しい方を喪っているね?」
その言葉で、心臓が飛び跳ねるように感じた。