第四十八話 魔導剣士ロイ、一夜を共にする!
「いえ、あの、そうした方が、暖かいと思うんです」
むう......。低体温の回避には有効な手段だが。ううむ。だが、体力の回復に努めようと言い出したのは俺だな......。
「わかった。その、変なことはしないから安心してくれ」
「信頼してなかったら、提案しませんよ。さあ、どうぞ」
「......邪魔する」
彼女の懐に潜り込む。俺よりも長身の彼女に抱きしめられていると、なんだか不思議な安堵感を覚える。
ふかふかした毛の感触が心地良くて、うつらうつらしてきた。
「ふかふかしてていいな、毛......」
「人狼になります?」
「遠慮しておく。冗談が言えるなら、元気な証拠だな」
うと、うと......。
「あの、もう一つ提案なんですけど......。今度から、『ロイくん』って呼んで、弟みたいに接しても良いでしょうか? ほんとに、ちょっとした思いつきなんですけど」
「好きにしてくれ......」
睡魔に勝てず、適当に相槌を打つ。
ナンシアが、頭を優しく撫でてくれたような気がした。なんだか懐かしい姉のぬくもりを感じながら、眠りの世界に落ちていく......。
◆ ◆ ◆
ん......。
目が覚める。
ナンシアの懐から上体を起こすと、彼女も目を覚ましたようだ。
「おはよう......」
「すまん、起こしたか?」
「ううん、大丈夫」
うん? どうもナンシアの口調が......。
「その、言葉遣い変じゃないか?」
「昨日約束したでしょう? 弟みたいに接していい? って」
あー......。そんな約束を、交わした気もする。
「そうか。まあ、好きに呼んでくれ。もともと、君の方が年上だしな」
「うん!」
ほんとに、がらりと態度が変わったもんだな。まあ、姉のように接せられるというのは、個人的事情から、悪い感じはしない。
イグルーから外に出てみると、もう陽が随分高い。泥のように眠り込んでしまったようだ。おかげで、快調とは言い難いが、随分と体力が回復したように感じる。
「みんなを探しに行く?」
ナンシアが、出入り口からひょっこり、首だけ出す。
「まずは食事だな。朝飯前とはいかないだろう」
再度、松明を取り出して焚き火にし、焼き干し肉と白湯を作る。
今朝も簡素な食事をとりながら、今日の方針を話し合う。
「主に二パターンがある。我々だけで捜索を続けるか、一度下山して捜索隊を結成するかだ」
「やっぱり、前者じゃない? サンちゃんたち心配だよ」
「俺は、断然後者を推す。やはり、二人だけでは捜索力に限界がある。それに、二次遭難でもしたら、それこそ目も当てられない。いやまあ、すでに遭難しているが」
半獣状態を解いてないゆえ、表情を推し量ることはできないが、悩んでいるようだ。
「......ロイくんに従うよ。リーダーだもんね」
狼の口で器用にコップのお湯を飲み干し、深く息を吐く彼女。
「でも、資金はどうするの? こういうの、すごくお金がかかるでしょう?」
「今回の報酬で賄うよ。幸い、高額案件だ。ただ、証拠が要るな」
ナンシアと一緒にイグルーの外に出て、上にしばらく歩いていくと、見覚えのあるでかぶつを発見した。シャックスの死体だ。我々は、かなり下に流されたらしい。
「これを持っていこう。未知の化け物を、打倒した証拠になるだろう」
巨大なゴーグルを外すと、黒いガラス玉のような目が姿を見せた。もっとも、片方は潰れているが。
ともかくも、証拠をポーチにしまい、山口を目指すのであった。