第四十九話 魔導剣士ロイ、労われる
エーデルガルド市部に着いた頃には、すでに夕陽になりかけていた。
一度宿に戻り、「仲間が戻っていませんか!?」と店主に問うたが、「戻られてないですねー」とのことで、入れ違い回避にナンシアを宿に残し、一路市庁舎へ急ぐ。無論、ナンシアは人里に降りた頃には、人の姿に戻っている。
「依頼の件だ。至急、市長に取り次いで欲しい。『スティング・ホーネット』のロイと言えば伝わるはずだ」
我ながら鬼気迫る様子だったのか、受付嬢が少々怯えるように市長室へと消えて行き、少しして戻ってきた。
「ご案内します」
怒気、焦燥、不安、様々な感情を含んだ俺の歩みが、さぞ怖いのだろう。受付嬢が、身を縮こまらせて先導する。
ノックを四回。
「入り給え」
許可が出たので、一礼して入室する。
「穏やかではないね。失敗に終わったか......」
尋常ではない俺の様子を見て、肩を落とす市長。
「いえ、ダイアーは討ち取りました。結論からいきましょう。ダイアーは間違いなく誘拐・殺人の教唆犯でした。いえ、正確にはさらにその上の、教唆犯がいたのですが」
「ほう? かけてくれたまえ。長い話になりそうだ」
言われるままに彼の対面に腰掛け、被害者を救出したこと、シャックスなる謎の魔物を呼び出され、そいつが真犯人であったこと。激闘の末に討伐したものの、断末魔で起きた雪崩のせいでナンシア以外の仲間とはぐれ、被害者もまた生死・行方共に不明であることを告げた。
証拠品の巨大ゴーグルをテーブルに置くと、彼もこれを事実と受け止めたようだ。
「引いては、受け取り予定の報酬で、明日早朝に、山狩り隊を召集して頂きたいのです」
「たしかにダイアーは死んだが、教団の勢力がゼロになったわけではないのでな。表立っては......」
「では、裏からでも手を回してください。予算的には問題ないはずです。事態は急を要します」
深く頭を下げる。
市長はしばし唸り逡巡した後、「わかった、手配しよう」と、承諾してくれた。
「仲間と被害者の命がかかっていますので! よろしくお願いします!」
起立して、深々と再度礼をする。
「ともかく、今から人を走らせ秘密裏に手配を進める。もうすぐ閉庁だ。今日は、これで引き取ってくれまいか」
「はい。よろしくお願いします」
三度めの礼をして、市長室を後にし、宿へと急ぐ。もう、すっかり陽が落ちかかっていた。
宿のドアを開けると、やはりそこにはナンシアの姿しかなかった。
力なく、彼女の対面に座る。
「おかえり、ロイくん。そっちはどう? こっちは見ての通り」
「こっちは、とりあえず山狩りを早朝に決行することになるはずだ。ただ、入れ違いは避けたいので、君はここで待機していてもらいたい」
「わかった」
二人で明日の行動を決定すると、不意にテーブルの上にホットミルクのコップが二つ置かれた。
視線をそちらに向けると、店長さんが穏やかな表情で立っている。
「テーブルを間違えてませんか? 頼んでいませんが?」
「オゴリですよー。お客さんたち、ぼろぼろじゃないですかー。何か大変なこと、あったんでしょー?」
相変わらず間延びした独特の口調で、優しく言う。
「そういう時はー、ホットミルク飲んでー、一息つくといいですよー」
「......ありがとうございます。いただきます」
ああ、ミルクの温かさが胸に染み渡る。
「何か、さらに温まる料理を頂きたいですね。何かありませんか? あ、これはもちろん、ちゃんとお金を払いますので」
「ロヒケイットなんてどうですー? スープ料理で、あったまりますよー」
「じゃあ、それで。パンも頼みます」
「かしこまりましたー」
料理が来るまで、ミルクをちびちび飲みながら、ナンシアとまんじりともせず視線をさまよわせる。ミルクのおかげで人心地ついたが、仲間が心配なのはどうにもならない。
みんな、無事だといいが。