第五十話 魔導剣士ロイ、労う
やがて、ロヒケイットなる料理とパンが運ばれてきた。見た感じ、サーモンと根菜のクリームスープって感じだ。
「とりあえず、いただきましょう」
ナンシアが食べ始めるので、俺もスプーンですくい口に運ぶ。
ああ、なんてほっとする味なんだ。サーモンの旨味、じゃがいもや人参のホクホク感、玉ねぎの甘味、クリームスープならではのコク。
なんだろうな。子供の頃、冬に外で日が暮れるまで遊んで帰ってきたら、母さんが笑顔でよそってくれて、今日どんな遊びをしたか語りながら食べるような。そんなほっとする感じが、去来する。
これに主食のパンも加わると、腹にも溜まる。昨日からろくなものを食っていなかったから、美味さもひとしおだ。
早く、みんなにもこれを食わせてやりたい。本当に、無事でいてくれ。
その後はアニタ嬢の用意してくれたサウナに入り、冒険の汚れを流しすっきりする。仲間は心配だが、明日本腰を入れて捜索するためにもゆっくり休眠を取らなければ。
肉体の疲れは心労に勝ったようで、ほどなく眠りに落ちていった。
◆ ◆ ◆
山狩り隊は、市長が確かに手を回してくれたらしく、百人弱ぐらいの規模が結成された。ありがたいことだ。
早速あの山に向かい、捜索していく。衰弱が激しかったが、サン、パティ、フラン、クコ、そして被害者を無事発見できた。凍傷もかかっておらず、ほっと胸を撫で下ろす。
後で聞いたところによると、サン、パティ、被害者。フラン、クコの組み合わせで流され、俺たちのようにイグルーを作って寒さをしのいだらしい。防寒具こそなかったが、松明の持ち合わせと
木の枝に火を点けてしのいだとのこと。
シャックスの存在も衆目に晒されることとなり、この未知の魔物に、捜索隊も舌を巻いた。程なくして、こやつの存在は広まっていくだろう。
ともかくも、皆の無事を祝い、下山する。
被害者は貴重な生き証人となり、教団の悪事を証言。残りの教団構成員も全員逮捕されたそうだ。
報酬は消し飛んでしまったが、皆の無事と事件の解決を今は祝おう。幸い、まだ蓄えはある。
「それでは、皆の無事を祝して飲み、食おう! 乾杯!」
おなじみのミルクではなく、今日は酒。エーデルガルドの酒はエールが中心。この苦味とのどごし、実に良い。
そこに、ミートボールのホワイトソースがけ、リハプッラ。これをマッシュポテトとともに頂く。とにかくエーデルガルドはミルクが美味いので、クリームも美味い。このミートボールも、肉汁がジューシィー。これが実にエールに合う。
パイスティという料理もまた美味い。これは、牛肉と根菜の煮込みをオーブンで焼いたものだが、舌でとろけるとはこのことだ。とにかくエールが進んでいけない。もう三杯も空けてしまっている。
とにかく、雪山での空腹のお返しとばかりに、ガツガツ食うサン。いいぞいいぞ、どんどん食え。義妹の無事を、何より実感する光景だ。
「ところで、お二人はどのように一夜を過ごしましたの?」
フランの問いに、思わずエールをむせてしまう。いや、フランに他意はないのだろうが、褥を共にした思い出が蘇り、頬が熱くなる。これは、酒のせいだけではないだろう。
「いや、皆のようにイグルーを作って難をしのいだよ。なあ、ナンシア!」
「え、ええ。そうね、ロイくん!」
サンが無言でじーっと見つめてくる。何だよ、そんな目で見るなよ。
「ふふふー。アヤシイですねえ~。詳しく」
追求しないでくれ、クコ。
「でも、ナンシアさんの喋り方、変わってますよね。ほんとに、何があったんですか?」
鎧姿に戻ったパティが首を傾げる。
「えーと、私たちもいつまでもよそよそしいのもあれだからって、ロイくんにこういう喋り方でいい? って許可取ったのよ。それだけ! ねえ?」
「あ、ああーあ。そうだとも」
ああ、サンの疑惑の視線が痛い。そんな目で見ないでくれ、マイシスター。
「まあ、いいっスけどね。オレ、負けないっスから」
「負けるとか負けないとか、何の話だ? ......ぐほおっ!?」
突然、脇腹にフランからエルボーを食らう。
「ってえな! 何すんだよ!」
「別に。サンさんも苦労しますね、と思っただけですわ」
しれっと飲食を続けるフラン。何なんだよ、二人してほんとに。
こんな珍事もあったが、慰労会はにぎやかに進み、就寝と相成った。
雪で街道が閉ざされる前に、ルンドンベアに帰らなければな。名残惜しいが、明日には早速出立だ。
シャックスについて相談したい人も、あの街にいる。
......ふわあ。疲労と酒のせいで眠い。とりあえず、今日はおやすみなさいだな。