第八十四話 魔導剣士ロイ、サーカスデートする
「やあ! おはよう、ロイくん!」
朝、青い三日月亭の食堂に降りていくと、めかしこんだクッコロさんがしゅびっと挙手してきた。
「おはようございます、クッコロさん。朝食は......食べてますね」
彼女は俺たちより一足先にサンドイッチを食んでいたようだ。
「相席してくれたまえよ。話がしたい」
「はあ」
我ながら気のない返事で着席すると、バーシにそれぞれ朝食を注文する。
「なにかご用でしょうか」
「うむ! ドラゴン退治がしたい! ついてきてくれ!」
今なにか飲んでたら、絶対むせてた。
「無茶です!」
「私は、騎士物語の主人公のようになりたいのだ。だめか?」
「諦めてください。無理です!」
「そこをなんとか!」と、「無理なものは無理です!」の応酬をすることしばし。朝食が運ばれてきたので、一旦休戦。
「ロイくんは頭が固いなあ」
その言葉、そのままお返ししてもよろしいでしょうか。
「そもそも、なんだってそんな急に」
「それはだね! 昨日、竜退治の騎士物語を読んだからだよ!」
瞳を輝かせる彼女。ハイプライド卿。彼女から騎士物語を取り上げたほうがいいです。
「今まで、幾人もの熟練冒険者が返り討ちにあっています。お父上を悲しませる気ですか」
あのドラゴン退治の依頼票、今もずーっと残っている。
もちろん、挑んだ者もいたが、結果は今述べたとおりだ。
「むう。それを言われると弱いな......。では、代わりにデエトしよう!」
コーヒーを盛大にむせる。
「失礼しました」
どうしてこう、意味不明な経路で極端から極端にいくんだ。
「だめか?」
「だめということはないですが」
と返すと、サン、ナンシア、あと一人の謎の視線が突き刺さる。なんでー!?
「では大決定だな! 昼前にまた来るよ!」
一足先に食事を済ませていた彼女は、勘定を済ませると、うきうきと退店した。
ああ、断れなくなってしまった。
「兄貴は、きっぱり断るという態度を持つべきっす!」
「お姉ちゃんも同感」
とほほ。返す言葉がない。
◆ ◆ ◆
きざすぎない程度にしゃんとした身なりをすると、コーヒーを飲みながら彼女を待つ。
「やあやあ! 待たせたね!」
朝以上にめかしこんだクッコロさんがさっそうと現れる。
「いえ、それほどのことは」
「では、さっそくサーカスを見に行こう!」
サーカスとな?
「サーカスがきているのですか?」
「ああ。二人で楽しもう!」
と、ぞろぞろと退店する。
「いや、なんで君たちも来るの」
「別にー。たまたまオレらも、サーカス見に行きたくなっただけっす」
「同じく」
全員、以下同文。なんなんだよ、ほんと。
クッコロさんが腕組みをしてくるので、デートなのだからと、組み返す。と、背後から殺気が。なにもう!? 泣きそう。
「私が言うのも何だが、君は罪作りだねえ」
うんうんと頷くクッコロさん。だから何なんですか、ほんと。
「着いたよ」
背後からの謎の圧に話も弾まないまま、サーカステントに着いてしまった。
入場料を支払うと、適当な席につく。......なんか、他のみんなも近いんですけど!?
「野暮だねえ。これじゃ、デエトにならないじゃないか」
ため息をつくクッコロさん。珍しく同意です。なんでみんなして、そんなに圧をかけてくるんだ。
ともかくも開演。鮮やかな空中ブランコ、ピエロの玉乗りジャグリングなど、器用な芸が披露される。見事なものだ。
そして、魔獣使いのキマイラショーになった。
鞭を打ち、魔獣を操る魔獣使いの女性。
ところがここで魔獣が突然、彼女に襲いかかった!
飛び散る血飛沫!
パニックになるテント内。
「クコ、彼女を頼む! ナンシア、来てくれ!」
「はい!」
「うん!」
会場に飛び降りる。クコは上だ。
ベルトポーチから取り出した愛剣を抜くと、キマイラと相対する。
とんだデートになったもんだ!