第三十九話 魔導剣士ロイ、観劇する ―後編―
やがて、劇もクライマックスを過ぎ、あとは終劇に向かうというところで、耐え難い尿意を催してしまった。
「ロイさん、どちらへ?」
「用足し。あとで展開教えてくれ」
立ち上がったとき、クコに尋ねられたので簡潔に述べる。するとこいつ、頬に手を当て、「あらあら」なんて言いながら、妙ににんまりするじゃないか。変な想像しやがったな。本当にシモのことしか頭にないのか、こやつは。
トイレの帰り、扉が開いているボックス席が目に入った。そういえば、モロオさんがあの辺りの席だと仰っていた気がするな。
通り過ぎざまに、何の気なしに中をちらりと見ると、席で観劇されている見知ったモロオさん、貴族と思しき男の後ろ頭、それとナイフを振りかざしたフードとローブ姿の人影が目に入る。
って、ナイフだと!?
「曲者!!」
声を上げ、不審者に飛びかかる! 揉み合いになり、とりあえず得物は落とさせることには成功したが、やつはボックス席の窓から飛び降り、逃走を図る!
「逃がすか!」
俺もそのまま飛び降り、観客の間を泳ぐように追跡する。犯人がパニックを起こした観客に行く手を阻まれ、まごついているところを、後ろ絞めで取り押さえることに成功した。
ややあって警備員がやってきたので、身柄を引き渡す。やれやれ、せっかくの劇をめちゃくちゃにしやがって、この野郎。
◆ ◆ ◆
その後、俺も事情を訊かれたが、被害者になるところだった貴族と、モロオさんが間に入ってくださったおかげで、あんまりややこしいことにならなかったようだ。
暗殺者は官憲に引き渡され、これから詳しく取り調べるとのこと。
「君のおかげで九死に一生を得た! 礼がしたい、何でも言ってほしい!」
「ロイ氏、僕からもお礼を言わせてほしい」
本日は公演中断となった劇場の前で、狙われた黒髪短髪で髭の豊かな中年貴族とモロオさんから、感謝感激されることしきり。サンたちは、俺の背後に控えている。
お礼かあ。そうだなあ、あのことをお願いしてみる、またとない機会かもしれない。
「では、お言葉に甘えてひとつ......」
内容を告げると、貴族とモロオさんは目を丸くする。
「そんなことで、いいのかね?」
「ええ。こんな機会でもないと、実現できないと思いますので」
「わかった。では、その通りにしよう」
貴族は快諾してくれて、本日は解散となった。
◆ ◆ ◆
「出かけるのか、お前たち?」
「ああ、今日はちょっとアンデッド退治にね」
あれから二週間後のこと、街の門で声をかけてきたのは、フレッシュゴーレムのアー兄貴。もう一人、ウーン兄貴も、門を出入りする人たちを見守っている。ふたりとも、新たに誂えた兵服を纏っており、当然服もでかい。
「お前の話を受けたときは驚いたが、新たな生きる道を用意してくれたこと、感謝に堪えない」
ウーン兄貴がしみじみと頷く。アーとウーンの二人は、俺の願い通りに、街で門衛として働くことになった。最初は街の人々も驚いていたが、二人が善良であることがわかると、たちまち人気者になった。
ちなみに劇の方は、あれからモロオさんに改めてチケットを頂き、無事最後まで観ることができた。公演も大好評のうちに終わり、しばらくバーブルブームで、ルンドンベアが賑わうことだろう。