第三十八話 魔導剣士ロイ、観劇する ―前編―
モロオさんと劇場の商談は、つつがなくまとまり、我々は再度バーブルを訪れた。そちらの劇団との契約もまとまったが、遠征は早くてもさらに二週間後とのことで、今回はバーブルの品を仕入れ、米のさらなる供給を目指す。
この頃になると、「うちでも米を買いたい」という店が増え始め、また家庭用としても、少しずつ需要が見込めるようになってきた。モロオさんからは感謝されることしきりで、極めて良好な関係が築けている。
「VIP席用意したからさ、劇、見に来てよ」
さらに再度バーブルを訪れ、劇団を連れ帰ってきた数日後、青い三日月亭にいらしたモロオさんから、チケットを六枚頂いた。女将さんとバーシにも、同じものを配られている。
「ありがとうございます。ご商売の成功ともども、楽しみですね」
「うん。みんなの力で、バーブルブームが来つつあるからね。これで決定打にするよ」
上機嫌のモロオさん。
「他にも、有力貴族の方々を招いていてね。さすがの僕も、ちょっと緊張するな」
「それはまたずいぶん、お話が大きいですねえ」
「うんうん。じゃあ、僕は色々やることがあるから当日!」
ちょっとした思いつきが、ずいぶんと大きくなったものだ。それが今、自分の手を離れて独り立ちしつつある。誇らしいやら、少し寂しいやら。俺としては、あまり深入りする気もなかったし、あくまでも本業は冒険者だと思っているので、これでいいのだろう。
我々としても、モロオさんがイロを付けてくださったこともあり、一連の仕事は結構大きな収入となった。
開演は一週間後とのことで、VIP席に招待された以上、粗末な格好ではいけない。皆で、フォーマルな衣装を仕立てに行くことにした。
◆ ◆ ◆
かくして、街一番の服飾店「レアリティ」で服を作ったわけだが、受け取り当日に試着したサンが、今にも泣き出しそうな声を上げる。
「兄貴~。やっぱオレ、こんなヒラヒラした格好無理っス~!」
とは彼女の弁だが、浅黒い肌と黄色いドレスが引き立て合ってて、実に綺麗じゃないか。
「いやいや、サン。とても似合っているぞ」
「ほんとっスか?」
懐疑的なマイシスターに、うんうんと頷く。
「兄貴がそう言ってくれるなら......」
今度は、何だかもじもじし始めたぞ。むう。
他の皆も、パティは青、フランは白、クコは緑、ナンシアは赤基調のドレスを試着している。かくいう俺は、黒のタキシード。さすがのパティも、鎧を着てVIP席に座る気はないようで、真っ赤な顔をしながら、ドレスの具合を試している。
フォーマルウェアも調達し終わって、明日の開演を待つばかりとなった。
「う~さぶ!」
服飾店からの帰途、不意に寒気を覚えて体を震わせる。最近冷えるなと思ったら、すっかり晩秋か。枯れ葉が旋風に舞っている。時が流れるのは早いもんだ。
◆ ◆ ◆
ついに劇も開幕。我々は女将さん、バーシとともに、二階のボックス席で観劇と洒落込んでいる。女将さんはピンク、バーシは紺色のドレスを着ていて、大変カラフルなことだ。モロオさんは別のボックス席で、懇意にしている貴族と観劇するらしい。貴族とのお付き合いも大変ですな。我々冒険者は、気楽なもんです。
劇の内容は、バーブルからさらに東に海を渡った地「オウカ」に存在する、サムライと呼ばれる戦士の活躍を描いた、剣豪もの。殺陣が見事で、主人公がばったばったと敵をなぎ倒すさまが、実に圧巻だ。こういうのは、リアルさよりも痛快さよな。
VIP席では、オードブルとともにスケロク寿司が振る舞われており、一般席の客にもスケロクが振る舞われているはず。そういえば、劇場の入り口で様々なバーブル製品が売られていたな。後でなにか買うか。
そんなことを考えていると、劇もクライマックスに差し掛かる。