第七十六話 魔導剣士ロイ、涙する
「では、用意はいいかね?」
「はいッ!」
ステルベンさん先導の下、皆でテレポートの陣の上に乗る。
テレポーター代もステルベンさんが持ってくださるとのことで、ありがたい話だ。
そして、テレポーター発動。うう、相変わらず、この感覚は慣れないな......。
「この術は夜に行う必要があってね。夜にご家族が眠る墓地に案内してもらいたい」
「わかりました!」
妙な条件だが、この世で初めての奇跡を起こす術。色々と複雑なのだろう。
複雑といえば。
「フラン、そんな複雑な顔をしないでくれ」
「無理ですわ」
蘇生の話がでてからというもの、どうにも彼女とは気まずい状態が続いている。
こういうときは、どうしたらいいのだろうか。チームに亀裂が入ってるのはまずい。
が、俺も家族との再会を諦めるわけにはいかない。
奇跡を目の当たりにすれば、フランもきっとわかってくれるはずだ、うん。
「ステルベンさん! とってもいい店があるんですよ! ご案内します!」
「それは楽しみだね」
彼を先導して、青い三日月亭に向かう。
◆ ◆ ◆
「ステルベンさん! 何にしましょう? この店は、なんでも美味しいですよ!」
「では、シェフのおすすめといこうかな」
笑顔のステルベンさんに、バーシが応えて下がる。我々も、同じものを頼んだ。
......相変わらず、フランの感じがよろしくない。メシぐらい、楽しく食おうぜ。なあ?
食前酒を愉しみつつでてきたのは、ステーキ! シンプルにして、力強い!
「では、いただこう」
ステルベンさんの音頭取りで、ナイフを入れる。
おう! スッと切れる! さすが、女将さんの料理だ。
口に運ぶと、豊かな肉汁が口中にあふれる。この風味、ラムか! ああ......発展途上の命をいただいているという罪悪感......。だが、それすら赦されるであろう、極上のソースと焼き加減。
仔羊よ、安らかに。我らの血肉となれ。ここで赤ワインが供される。わかってるじゃあないか、バーシ。
「こりゃあ、美味しい! 君のいうとおりだ!」
「でしょう!」
ステルベンさんもご満悦だ。
つつがなく食事も終わり、コーヒーなど愉しみながら、談笑する。......いい加減、不機嫌モード直ってくれよ、フラン。
そんなこんなでアカデミックな会話を弾ませていると、日が沈み始めた。
「では、そろそろ行きましょうか」
「はい!」
ついに......ついに家族に会える!
墓地に着くと、とっくに日が沈んでしまった。
カンテラ片手に、魔導書を用意するステルベンさん。
「屍霊操糸行進術!!」
バラバラと彼の魔術書がめくれ、黒色光があふれる。え? 屍霊? 操糸? 黒色光? ははは、ご冗談を。
土の下から、手が這い出てくる。そして、ゆっくりと全身を現す。
「あ、ああ......!」
父さん、母さん、姉ちゃん!
「会いたかった......!」
「私も、ロイ......」
姉ちゃんが抱きついてくる。そして、腕に噛みつく。
「づうッ!?」
「ロイさん!」
盾を掲げるフランに、斬りかかる。
「何を! ロイさんまで操られてるのですか!?」
「黙れ! 家族の再会を邪魔するな!」
「正気に戻ってください、ロイさん!」
「俺は正気だあッ!」
なおもフランに斬りかかかるが、ナンシアに後ろ手にされ、組み伏せられてしまう。
「やめてくれ! 俺の大切な家族なんだ!!」
「ロイくん。現実なの、これは......」
「死霊浄化術!!」
ああ......父さんが......母さんが......姉ちゃんが崩れていく......。嘘だ! 嘘だ!!
「嘘だああああああッ!!」
涙が溢れ出てくる。嘘だと言ってくれ、誰でもいいから!!
「ステルベン! 死霊術など、神官として見過ごせません! 成敗します!」
進み出るフラン。
「いやはや、また失敗か。もう一息なんだがねえ。そして、私が蘇らせたアンデッドが、彼女らだけとは思わないように」
地面から、次々と手が生えてくる。なかには、骨も。
ああ......こんなの見せられたら、受け入れるしかなくなっちゃうじゃないか......! 夢なら醒めてくれ!
「ナンシア。離してくれ。ステルベンを討つよ」
「ロイくん......」
力を緩めてくれる。
「私が、そんな悠長を許すとでも? 火葬炎上獄!」
火柱が上がり、顔を焼かれた!
「ナンシアさん! ロイさん!」
命活癒術草が飛んできて、事なきを得る。
「ステルベェェェェンッ!!」
斬りかかろうとするが、ゾンビが行く手を阻む。
「おっと。ゾンビでは君らの相手にならないことは、百も承知なのでね。幸い、贄はわんさとある。早めに奥の手だ。黒智王召喚儀!」
黒色光が、あたりを包む!