第伍話 パートナー選び
兄がいつもいない日々が続いていたある日、お母さんが兄のことで話しかけてきた。
「アオちゃん。夜風はどうしちゃったのかしらね」
「わかんないよ。お兄ちゃんのことだし元気ではいるでしょ」
「私もそう思うけどね。以前だっていきなり居なくなったと思ったらインドネシアからネパールまで旅してたとか言って帰ってきたでしょ。今回もそんなとこだと思うんだけど......」
「電話してみたら?」
「イヤよ、あの子タコ部屋みたいな所で昼間寝てるとかあるから。昔、電話したら『起こさないでくれ』って怒られちゃったのよ! 酷いと思わない?」
「メールは?」
「したけど返ってきちゃった。メアド変更したみたい」
「え、これひょっとしたら事件じゃね?」
「なのかなあ。ねえ、アオちゃん来年からお父さんの出版社に入社するじゃない」
「その予定だけど」
「ならさ、お父さんの新企画で旅ものをやろうっていうのがボンヤリと決まってるっていってたからアオちゃんが旅してお兄ちゃん探してきてよ。旅先の記事を書くライターが必要なはずだから。ほら、アオちゃんは作文とか得意だったから書けるでしょ」
「え、うら若き乙女に一人旅させるってこと?」
「アオちゃんなら大丈夫よ。大っきいし、並の男より力もあるし。合気道だって有段者じゃない。それに、アオちゃんは旅も好きでしょ?」
さすが、実の母。私のことをよく分かっている。
「まあ、いいけど。報酬額次第かな......てか、そんなこと私たちで決めていいの?」
「いいのいいの。お父さんはだいたい私のアドバイスで動いてるみたいなとこあるから」
(そんなんあんの)
その日のうちにこの計画はお父さんにも話した。すると......
「アオがいかに大きくて強かろうとやっぱり一人は心配だ。ちょっと考えさせてくれ」と言って後日3人の女性の履歴書を持ってきた。備考欄にはお父さんが書いたであろう説明があった。
「この3人の女性はそれぞれうちの社員だ。アオが気になった1人を旅のパートナーとして選んでいい。誰にする?」
【入谷玲子(いりやれいこ)】
本部取材班。エンタメ担当など。頼れる大ベテランだが気難しい所はある。
【福島弥生(ふくしまやよい)】
『月刊麻雀部』で有名な麻雀部門所属。編集部取材班。麻雀プロ。『不動の弥生』という異名を持つ。
【島田由紀(しまだゆき)】
今期から入社予定の新人。身長172センチのバレーボールインターハイ経験者(2位)。
「いや、ポケ◯ンじゃないんだから」
「ワシは大木戸博士じゃ。この3体から1つ好きな女を持っていくがいい」
「好きな女て! でも、そーだなー。誰がいいだろう」
そう言って島田由紀の履歴書を手に取ってみた。ふうん、同い年か。妖精さんみたいなかわいい顔。てか、えっ、この顔で172cmなの? 脳がバグる。
「新入社員の島田由紀か。彼女は幼い感じの顔立ちが可愛らしいし、インターハイに行くほどスポーツに打ち込んできたという根性もある子でおすすめできる人物じゃ」
(『人物じゃ』って! 博士ごっこまだ続いてんだ)
じゃあ、島田由紀さんにすべき? 可愛い顔はいくら見ても飽きないしね。でも同い年は正直言って頼りない。下手したら私が面倒見る側になりかねないし、それに他の2人も気になるわ。
入谷玲子さん。本部の大ベテランか......。なのになんで私のお守りみたいな役の候補に上がってんだろ。そう考えるとちょっとおかしいわ。最後の(気難しい)というのが気になる。実はかなりヤバい人なのでは?
となると......
「よし! 福島弥生! きみに決めた!!」
私は『不動の弥生』を冒険のパートナーとして選んだ。