第四話 代打ちの先生
真坂に依頼された仕事はたしかにある意味簡単だった。依頼内容を理解することは簡単。単純な話が、自分たちの組の打ち手を強くしてくれという依頼だ。
代打ちをやれという話ではないらしい。つまりは代打ちたちの先生をやれという話。そのためにまずは代打ちたちと直接麻雀をしてその腕を見せつけてくれとのことだった。
そこで腕を認めさせれば実力主義の代打ちたちなので夜風を先生として受け入れるから、その後は麻雀教師として働いてくれればいい。その給料は破格の1時間5万円を払うと言う。
「い、1時間5万円!? そ、そんなに?」
「ワシらに直接教えてくれる人なんてそういないんや。まず圧倒的に強くなきゃ話にならんし。夜風君は相手が誰かとか気にして怯む男やないやろ。頼みの綱は夜風君だけなんや! 貴重な人材やから出せる限界まで高く設定したんや。本当に君だけが頼りなんや!」
「な、なるほど。たしかに相手見て怯むとかはないけど......」
ヤクザに関わり合うのはごめんだ。そうは思いつつも『君だけが頼りなんや』と言われればやってあげないこともないかな、と思えてくる。真坂亮太郎という男は人にものを頼むのがとても上手かった。
「どうか、やってくれんか」
「......はー。わかりました」
「おお! ホンマに? ありがとう!」
「ただし、それで結果が出なかったとしてもそれは知りませんからね。麻雀はおれでも3割程度しかトップは取れないゲームなんだから。強くなったとて勝ちたい時に勝てるという保証はありません。それでもよければ」
「もちろんもちろん! それはようわかっとる! あ、良かったあーーー。ホンマ助かりましたわー。そうと決まればまず顔合わせや。よっしゃ、忙しくなってきたでぇ!」
こうして、夏野夜風は闇の世界へと足を踏み入れてしまうのであった。
◆◇◆◇
夏野夜風はヤクザの世界に巻き込まれてからというもの、家に帰ることは少なくなった。元々、雀荘で日払いのお手伝いをしたり、普通にフリーで打ったりして暮らすだけの遊び人だったため突然居なくなることもよくあったし、それで誰かに迷惑をかけるということもなかったため夜風の生活リズムが変化したことに誰一人不安を感じていなかった。
誰よりも親しい妹の青空ですら(最近お兄ちゃん見ないな)としか思わず。それがなんだという感じでいた。
また、青空は極度の機械音痴でケータイを持ったのもごく最近だし、通話機能しか使いこなせず、LINFはおろかメールすらしないので兄と密に連絡をとることもない。
そのような関係だったので兄が行方不明になったことに気付かないまま長い月日が流れてしまうのであった。
「今日もお兄ちゃんいないのか......まったく、何日も音沙汰なしで何してんだろ?」