第三話 図星
「おう、ここや。この店で話そうや。なに、心配はいらん。ここはうちの系列店やからな」
その店はキャバクラのようだった。夜風は風俗店に興味は無かったから無駄金を使いたくなかったが、その様子を察したのか、男は「ああ、お代はもちろんいらんよ。そのへんは気にしないでいい。話し聞いてくれたらいいだけや」と言われ、それならばと付いていった。
店内は少し薄暗く、まだ営業時間ではないのか何名かの黒服が清掃業務をしているだけであった。
「おう、奥使うからあけろ」
「真坂さんおかえりなさい! 今奥あけます!」
(奥?)
「こっちや」
言われるまま奥について行くとそこは料亭のような雰囲気の場所で実際料亭のような料理がメニューにあった。
「好きなもん注文してや。もちろん飲んでもいい。ただ、酔っぱらうまで飲むのは無しやで。今から仕事の話するつもりやから、後日になり忘れましたは困る」
「わかりました。これ、カニも食べていいの?」
「カニは食べていい。あればな。お~い、今カニってあるのかー?」
「仕入れてまーす!」
「だそうだ、どうする?」
「じゃ、カニ鍋で」
「お~いカニ鍋2人前。あと瓶ビールと刺し身4種盛りもな」
「はーい!」
「あんちゃん、ビールはいけるクチかね?」
「いけるクチです」
「おーい、グラスふたつなー!」
「はい!」
男は一通り注文をすると本題に入った。
「あんちゃんの麻雀。圧倒的やったな、ワシなんか自分で言うのもなんだがコワモテのつもりだ。それにビビッちまう相手もよくいるのに。あんちゃんの場合怯まない。それどころかどこか相手をバカにするくらい上から見てたろ、なあ」
ぎくり。
「い、いや? なんの事ダロ?」
「隠さんでええ。あんちゃん......そうだ。あんちゃんの名前は? ワシは真坂言うもんや」
そう言うと真坂はゴソゴソとサイフから名刺を取り出した。何の会社かまるでわからない名刺だったが真坂亮太郎という名前だけは把握した。
「おれは夏野。夏野夜風です」
「夏の夜風? それが名前なんか? またえらい風流な名前やな。いま丁度吹いとるやないかい。一度聞いたら忘れん名前やな。ええやん、夜風君」
ハハハと笑い合っているうちに料理が来た。すごく綺麗に盛られていて、ここの料理人の腕は本物だということを直感する。
「めちゃくちゃうまそうっすね」
「ああ、でも酔っぱらう前に話進めていいか。夜風、おまえさん相手に怯まない強さを持ってるよな。あのホンイツとか相当だ」
「え、いや。たまたますよ」
「おれの目を誤魔化そうったってそうはいかないぜ。あのホンイツな。相手にびびってたら第1打は丁寧に⑨筒から行くし、なるべくにおわせないようにするために最終手出しが⑤になるはずだろ。だけど夜風君は逆逆だった。舐めてるよな。見下してないとこの手順にはならない。おれのコワモテを見てもそれが出来る奴はなかなかいないぞ」
図星だった。この男もまた、デキる人間だということがこの会話ひとつで理解できた。
「夜風君のような人を探してたんや。今度ワシの言う場で麻雀を打ってもらいたい。この通りや!」
そう言って真坂は頭を下げた。こいつはやばい。ヤクザの代打ちの話なんじゃないのか。とお調子者の夜風もさすがにピンときてNOと言おうとしたが。
「そんなら、ここのお会計いくらだっけ。なあ、店長!」
「12万8000円です」
「きちんと支払ってもらうことになるが」
「話が違いませんか!」
「おや? ワシは最初から『話を聞いてくれたら』いい。と言ったはずや。話が通らないなら払ってもらいましょうかね」
銭ゲバの夜風に12万など払う選択に無く
「......わかりました」
と了承したのだった。