第二話 ホンイツ宣言
お兄ちゃんが教えてくれた鳴いてリーチをかけさせるという戦術に私は『誘発狙いの追加ポン』というタイトルをつけた。そしてその時の手牌を書いたレシートをよく見てみたら『人数1名』と書いてあった。しかも5皿しか食べてないし。さらに言うなら全部税込み100円の格安皿。
さすがは銭ゲバのお兄ちゃんである。寿司屋のレシートが500円と書いてあるのを見るのは初めてだ。
「ねえ、お兄ちゃん。今度寿司屋行く時は私も連れてってよ。会計別でいいからぁ」
「別でいいなら勝手にひとりで行きゃいいじゃねえか」
「わ、私はメンタルの弱い少女なの! ひとり寿司はまだ無理。ねー、だから一緒に連れてってよお」
「なーにがメンタルの弱い少女か。まずとっくに少女じゃねーし、そもそもおまえのような人間を世間的には『心臓に毛が生えている』というんだよ。だいいち、おれおまえの横歩くの嫌なんだよな。おれがチビに見えるから」
そんなことは気になるんだ? ひとりで寿司行くくせに。それにチビは事実なんだからいいじゃん。イケメンだから多少チビでも大丈夫だよ。
「いいじゃん。大きな彼女連れてると思われて羨ましがられるよきっと。私は美人だし。身長だけじゃなくあっちこっち大きいし。自慢だけどスタイル抜群。女性としてセクシーな魅力あると思うんだけどな」
「じゃあせめて平らな靴履けよ。靴底厚くないやつな。それなら連れてってやる」
「やった! 約束よ!?」
「あー......」
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って言ったのに。どこに姿消したんだろ。てか、いつまで消えてるつもりなのよ。お寿司の約束果たしてもらってないまま私もう社会人になっちゃったよ。
まあ、賢いお兄ちゃんのことだからなんとかやってるんだと思うけど、私にこんなに長期間連絡がないのはおかしい。ケータイ失ったとしても電話ボックスからかけるとか手段はあるし。何か事件に巻き込まれてなければいいんだけど。
夜風お兄ちゃん。会いたいよ。早く帰ってきて。じゃないと、私から探しに行っちゃうよ。
◆◇◆◇
――数年前、夏野夜風は麻雀をしていた。
「ポン」
「ポン」
(九萬の1巡目ポンから入って3巡目にオタ風の北もポン。捨牌は③⑨53でドラ四なんて。我ながら舐めた仕掛け。こんなん四使いの『萬子ホンイツ宣言』でしょこれ。わかんない奴いるわけないわ。ま、おおかた三三四四伍六六や三四四伍六七七あたりドラ2枚受けリャンメン予想で決まりだわな。この手に放銃するやつなんかいるわけねーわ)
「ツモ」
夜風手牌
三三四四伍六六 伍ツモ(北北北)(九九九)
「(ま、ツモるから全然いいんだけど。こんなミエミエに満貫結局払うとかダリーだろうな。クククッ......)2000.4000」
夜風は圧倒的だった。もはや実力に差があり過ぎて迷彩を作るとかも飽きてきていた。相手を見下しきった仕掛け。ツモれると確信したリーチなど、レベルの差を隠そうともしない傲慢な打ち筋で稼ぎまくっていた。
(どうせ勝つんだ。迷彩なんていらねえな。ザコすぎて迷彩を作ることが無駄になる。お話にならねーや。コイツらよくこのレートでやる気になるな〜)
圧倒して大差で終了。この賭場は既に夜風に制圧されつつあった。
すると......
「おい、あんちゃん。ちょっと話さんか。なに、悪い話じゃない」
それは明らかにヤバめな男だった。しかしお調子者でアホな夜風は「いいっすよ」と言いついていくのだった。
(悪い話じゃないならいくらでも聞いた方がいい)なんてことを思っていたのだ。