第一話 誘発狙いの追加ポン
「リーチ」
打三
(ふぅ......通った)
萬子一色手の仕掛けがいたが1/2くらいの確率で当たりそうな危険牌を押してなんとかリーチをかけた。
なんで私はこんな所で麻雀なんかしてるんだろう。
どうしてこうなった。
私はただ、お兄ちゃんのことが心配だっただけなのに。
――時は遡る。
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私、夏野青空。ステキな名前でしょ? スポーツ万能で高身長の自分で言うけど人気者。でも、実は私は昔からボードゲームが大好きで、中でも麻雀は一番好きだった。なんでかって夜風お兄ちゃんが相手してくれるから。他の遊びにはたまにしか付き合ってくれないけど麻雀となるとお兄ちゃんは絶対相手してくれた。
お兄ちゃんは強すぎて私はあまり勝ったことがなかったけど、でも真剣に対決すること自体とても楽しかった。
お兄ちゃんは麻雀の天才だった。天才だったけど、お調子者のアホでもあった。
しかしお調子者のアホでもあるが、やはり麻雀は天才で。色々な選択を思い付く人だった。
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「また負けた。なんでお兄ちゃんはそんなに強いの?」
「アオは性格がまっすぐだから正しいことしか出来ないもんな。それではだめだ、麻雀は搦手も使えないと」
「からめて?」
「そう、ちょっとズルい方法ってことかな。反則ではないぜ? あくまでルール、マナーを守る上での予想を外す奇抜な選択ってことさ。裏技みたいなもんだ」
「でも、お兄ちゃんが麻雀は計算だって言ったんじゃん」
「基本はな。計算が基本、それは間違いない。だけどな、基本があるなら極意もある。麻雀の極意は計算を狂わせる搦手にあるんだよ。基本だけで勝てる確率は25%だ。それより上には決して行けない。例えばな、先日おれがやった搦手はこうだ」
そう言うとお兄ちゃんはサイフから回転寿司のレシートを取り出して裏面に手牌を書き出した。回る寿司屋さんのレシートはなぜか大きいからメモ用紙になるというのはわかるけど、パッと見10枚はあった。私、最近寿司屋に連れてってもらってないけど! 誰と行ってんのよ。
東2局
西家手牌 ドラ四
三四伍④④⑥⑦888(二三チー四)
「カン三萬をチーしてテンパイしたタンヤオドラドラだ。もうこれ以上は赤伍変化くらいしかないかなと思っていたのだが何やら先ほどから親がウズウズしてるように見える」
「ふんふん」
「雰囲気から(あー、リーチしよっかなー、でもなー、あと一歩変化待ってもいいよなー、まだ5巡目だしなー。でもなー、西家仕掛けてんだよなー。うーーーーん)という声が聞こえてくるようだ。ちなみに、親の捨牌には⑧筒がある」
「それで?」
「そうこうしていたら2巡後南家が打④筒とした。これはポン!」
「鳴くんだ!」
「もちろん単騎にしたりするわけじゃない。鳴いて打8索だ。待ちを出やすくするための鳴き。④筒が3枚見えれば⑤筒は切られやすくなる。だが、このポンにはふたつの狙いがある。それが――」
「わかった! 親のリーチ待ちだわ!」
「そうだ。リーチしようかどうしようか悩んでる親にさっさとリーチさせるための誘発狙い。このリーチがあれば⑤-⑧筒はどちらも捨てられやすくなるという寸法。結果、即座に⑧筒が北家から出され決着。
ウズウズしてるやつは仕掛けが入るとリーチしたりする。かけてもらいたい方向からのリーチなら追加ポンして誘発しろ! な。これが『搦手』さ」
「なるほど〜〜」
銭ゲバなくせに寿司屋のレシート多すぎる件が気になるがお兄ちゃんの強さの秘密が1つわかった。
けど、強すぎるからって調子に乗っていらんことに首突っ込まなきゃいいけど。麻雀の天才だけど、お兄ちゃんは基本アホだし、その上銭ゲバだからなあ。
とりあえず、今度寿司屋行く時は声をかけてもらおう。私だって回転寿司は行きたいもん。
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けど、一緒に寿司屋行くことはないまま、兄は姿を消したのだ。