幻魔2
調べ物も終え、何の解決策も見いだせないまま宿へと戻る。私のせいで途中で終わってしまった女子会にも未練が残ったままだ。かと言って、私とアヴリルだけでまた巨大パフェをご馳走になるのは気が引ける。
「ねえ。みんなでカフェに行かない?」
怒られるのを承知で、ベッドでのんびりと身体を休める三人に提案していた。
リックスとアヴリルは飛び起き、ノエルはゆっくりと上半身を起こしながら首を傾げる。
「俺たちは邪魔になるんじゃないか? な、リックス」
「俺は一緒に行きたいけどな」
「おい......」
にこっと笑うリックスに、ノエルは肩を落とす。一方で、アヴリルは既にドアへと近づいていた。
「ノエルとリックスが行かないんなら、オフィーリアと二人で行っちゃうけど?」
「おい......! 行かないなんて言ってないって!」
リックスは慌てた様子でアヴリルの隣に行き、私を見て笑う。
「幻魔だか何だか知らないけど、今日はそんなこと忘れよう」
「うん」
私一人ではないことが、こんなにも頼もしいだなんて。私もリックアスとアヴリルの元へ向かうと、ノエルは苦笑いをしながら溜め息を吐いた。
「今日もオフィーリアの印のお世話になろう。パフェ代に五千オンスはかけられないからな」
アヴリルの節約論がノエルにも伝播したらしい。ノエルは私たちの間を通り過ぎると、廊下へのドアを静かに押し開けた。
* * *
「今日はどれにしよっかな~」
メニューを見詰めるアヴリルの瞳は輝いている。口元も緩んでいて、今を楽しんでいることが窺える。その横をウェイトレスが横切った。その目は卑しいものでも見るような瞳だった。実際、無銭飲食をしようとしているのだから仕方がない。
アヴリルは気にする様子を見せず、ノエルが僅かに顔をしかめた。
「やっぱり今日の支払いも印で......なんて、入る前に言うんじゃなかったか......?」
「今更そんなことを言ったって遅いだろ? 許可はもらったし、いただける物はいただこうよ」
「あ、ああ」
リックスだって気にはしているのだろう。しかし、表情には出さずにメニューだけを見ている。
「あたし、星空サイダーパフェにする」
「どんな味なんだ、それ」
「シュワシュワしてるんじゃない?」
私もメニューに視線を落とし、パフェのイラストを探す。水色のアイスクリームに白の生クリーム、黄色の星形をした――チョコだろうか。それと銀の小さな丸いアラザンがいくつも散りばめられている。値段を見てみると千五百オンス――パフェの中でも最高値だった。
ちゃっかりしているな、とアヴリルに苦笑いをしてしまった。
リックスとノエルも注文を決めたようだ。
「俺は苺練乳パフェにするよ」
「俺は葡萄パフェにする。オフィーリアは?」
「私はブルーベリーヨーグルトパフェにする」
前回、あまり食べられずに終わったパフェだ。今度こそ味わって食べたい。残さずに食べ切りたい。生唾を呑み込むと、アヴリルに笑われてしまった。
「よっぽど気に入ったんだね」
「違うの。この前はちゃんと食べられえなかったから」
「また倒れないでねー」
アヴリルは小さく笑う。私がしでかしてしまったことを、こうもさらりと流せるるのは才能だと思う。お陰で私も気を遣わずに済む。
作り笑いを浮かべたウェイトレスに注文を通し、水をいただく。心の靄がちょっとだけ引いてくれるような気がした。
「それでだけど、みんなって魔王城に行った後はどうすんの?」
アヴリルは興味津々と言った様子で私たちを見る。
そんなこと、考えてもいなかった。魔王城に行った後――私はどうなっているのだろう。聖女の任から解かれるのだろうか。想像もつかない。
「俺はオフィーリアが安心できるところで生活するつもりだが......リックスは?」
「俺を除け者にするなって。俺だってついて行くから」
「二人とも、好きな人っていないの? 一緒に暮らしたくないの?」
アヴリルのたった一言でノエルは頬を桜色に染め、リックスは目を見開く。
「住めたらそれに越したことはないけど......」
「俺はそもそも好きな人なんていないし」
「ふーん。ノエルは好きな人いるんだ」
アヴリルが澄ました顔で言うと、ノエルは益々頬を赤らめる。そのまま俯いてしまった。
ノエルの『好きな人』は私ではない。直感でそう思ってしまった。私への態度は昔から変わらないし、頬を赤くすることもなかったのだから。
たぶん、アヴリルだろうな、と心の中だけに留めておくことにした。
「おい、ノエル、誰だよ」
「止せって」
ノエルとリックスがじゃれ合っているところへパフェが到着する。ノエルの前には葡萄パフェが、リックスの前には苺練乳パフェが、アヴリルの前には星空サイダーパフェが鎮座した。そして、私の前にもブルーベリーヨーグルトパフェが置かれる。
やはり、見上げるほどに高さがある。食べきる前にアイスクリームは溶けてしまうだろう。
ノエルは眉をしかめ、リックスはぽかんとパフェを見詰める。
「早く食べようよ。溶けちゃうよ?」
「......ああ」
アヴリルに返すのだけでも精一杯な様子だった。
高くそびえるアイスの塔にスプーンを入れ、口へと放り込む。爽やかな酸味が癖になりそうだ。
「美味しい......」
「それがいつまで続くかなー」
顔を綻ばせる私に、アヴリルは意地悪そうに笑う。