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幻惑の森2

 ノエルとリックスは鞘から剣を抜き、太陽に煌めく刃を見る。

「本当に素振りしながら歩くのか......?」

「オフィーリアを守りきれるように強くなりたくないの?」

「それは......なりたいけど」

 ノエルは渋るリックスの様子を気に留めることなく、剣を一振りした。空気を裂く小気味のいい音が響く。

「リックス、俺はやるぞ」

 ノエルは両手で剣を持ち直し、前方へと振り下ろす。隣を歩くアヴリルにぶつからないように、かなり気を遣っているのだろう。距離を取り、ちらちらとアヴリルの様子を気にしている。

「ノエル、大丈夫だよ。ぶつかりそうになったら、この盾で弾くから」

「あ、ああ......」

 後ろからそのやり取りを見ていたリックスだったけれど、覚悟を決めたらしい。私たちからある程度離れ、両手で剣をきつく握る。

「おりゃあぁぁ!」

 そして、思い切り剣を縦に振った。ノエルが放つよりも低い音を立てて、空気が両断される。

「リックス、力み過ぎ」

「んなこと言ったって......!」

 リックスは口を尖らせて剣を握り直す。もう一振りしても、肩の力が抜けることはない。

「うーん、もしかしたら......」

 アヴリルは何かを閃いたのだろうか。横で素振りを続けるノエルに視線を送る。

「ノエル、ちょっと剣を貸して」

「ん? ああ」

 アヴリルはその場で手を伸ばすので、ノエルは駆け寄って柄を握らせた。

「リックス、双剣って分かる?」

「双剣? 聞いたことはあるけど」

「やってみ」

 アヴリルはちょこちょことリックスに駆け寄り、剣を渡す。リックスは訝し気に二本の剣を眺めていたけれど、鼻から大きく息を吐き出した。そして、双剣を振り下ろす。
 今度は軽い音が響き、リックスも目を丸くしている。

「使いやすっ」

「やっぱりねー」

 アヴリルは何度も頷き、にこっと笑う。

「図書の国で剣を一本買い足しね。それまでは右手と左手、交互に鍛えてみ」

「わ、分かった」

 たったひと振りで、リックスの特性を見抜いてしまうなんて。さすが、戦い慣れているだけはある。
 こうして素振りと休憩を交互にし、徒歩よりは遅い旅路を進む。私は、これが回り道だとは思わない。ただ、私にもできることは何かないのだろうかと考えてしまう。

「私も......魔法の練習しようかな」

 感情に任せるばかりではなく、制御できるようになりたい。小さなつむじ風をイメージし、前方に左手を伸ばす。すると、風柱が天高く立ち上ったのだ。こちらに向かってくるので、私たちは四方に散らばってそれを避ける。

「オフィーリアは練習禁止! 実戦で役立ってくれればいいから!」

「わ、分かった......」

 アヴリルに言われると、否定のしようがない。確かに、水を制御できなくて辺り一面を洪水にしたり、野火を起こせば大惨事になる。守られてばかりいるのは嫌なのに。歯痒くて唇を噛む。
 そうして一日が経ち、また日が昇った。目の前には紫色の霧が立ち込める森が出現したのだ。これがアヴリルの言っていた『幻惑の森』だろう。

「あーあ、とうとう来ちゃったよー。みんな、覚悟しといてね」

 一度はがくりと肩を落としたアヴリルだったもの、深呼吸をして戦闘態勢へと入る。待ち受けるものの恐怖が未だにきちんと理解できていない。リックスも唸り声を上げ、前方を見詰めるばかりだ。しかし、ノエルはぐっと口を結び、行く先を睨みつける。

「行っくよー」

 アヴリルは盾を持ち直し、怯えるように前へと突き出す。そして、ゆっくりと前へと進み始めた。私たちもその後にしっかりと続く。
 昼間なのに薄暗くて気味の悪い森だ。じめっとしていて、苔も生えている。人が訪れることも少ないのが窺える。
 その苔をリックスが踏んでしまったようだ。足を滑らせて、尻餅をつく。

「痛ってー......」

 緑の瞳が前方を捉えると、小刻みに震え始めた。

「兄さん......?」

 怯えるような、それでいて喜んでいるような、信じられないものでも見ているような表情だ。
 リックスの兄は、私の父と共に敵地に向かい、行方知れずとなっている。こんな場所にいるはずがない。
 リックスの瞳は揺れる、揺れる。

「こっちに来いって......どこに?」

「リックス! ここは幻惑の森だから! それはお兄さんじゃ――」

「オフィーリア、リックスにはきっと届いてない。自分で立ち上がるしかないよ」

「そんな......!」

 アヴリルの言葉を振り切り、立ち上がったリックスの腕を思い切り掴んでみる。それでもリックスは無反応だ。

「リックス!」

 前方で水流が鳴る。その瞬間、リックスの瞳から影が消えた。もしかして――。

「あれ、兄さんは......?」

「あたし、言ったよね? ここは幻惑の森だって。幻惑に立ち向かえないなら置いてくよ。でも......」

 アヴリルは私を見て僅かに微笑んだ。

「幻惑って、魔法で消えるんだ。オフィーリア、ありがと」

 初めて私の魔法が人の役に立ったような気がした。胸に温かな火が灯る。
 一方で、ノエルは顔をしかめながらリックスを見遣った。

「リックス、大丈夫か?」

「うん、たぶん」

 幻惑でも、行方知れずの兄の姿を見てしまっている。きっと、幻惑の消滅は希望が掻き消えた瞬間なのだろう。幻惑を見ている間だけではなく、幻惑から立ち直っても精神的に痛めつけてくる。どこまでも陰湿な森だ。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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幻惑の森2

 ノエルとリックスは鞘から剣を抜き、太陽に煌めく刃を見る。

「本当に素振りしながら歩くのか......?」

「オフィーリアを守りきれるように強くなりたくないの?」

「それは......なりたいけど」

 ノエルは渋るリックスの様子を気に留めることなく、剣を一振りした。空気を裂く小気味のいい音が響く。

「リックス、俺はやるぞ」

 ノエルは両手で剣を持ち直し、前方へと振り下ろす。隣を歩くアヴリルにぶつからないように、かなり気を遣っているのだろう。距離を取り、ちらちらとアヴリルの様子を気にしている。

「ノエル、大丈夫だよ。ぶつかりそうになったら、この盾で弾くから」

「あ、ああ......」

 後ろからそのやり取りを見ていたリックスだったけれど、覚悟を決めたらしい。私たちからある程度離れ、両手で剣をきつく握る。

「おりゃあぁぁ!」

 そして、思い切り剣を縦に振った。ノエルが放つよりも低い音を立てて、空気が両断される。

「リックス、力み過ぎ」

「んなこと言ったって......!」

 リックスは口を尖らせて剣を握り直す。もう一振りしても、肩の力が抜けることはない。

「うーん、もしかしたら......」

 アヴリルは何かを閃いたのだろうか。横で素振りを続けるノエルに視線を送る。

「ノエル、ちょっと剣を貸して」

「ん? ああ」

 アヴリルはその場で手を伸ばすので、ノエルは駆け寄って柄を握らせた。

「リックス、双剣って分かる?」

「双剣? 聞いたことはあるけど」

「やってみ」

 アヴリルはちょこちょことリックスに駆け寄り、剣を渡す。リックスは訝し気に二本の剣を眺めていたけれど、鼻から大きく息を吐き出した。そして、双剣を振り下ろす。
 今度は軽い音が響き、リックスも目を丸くしている。

「使いやすっ」

「やっぱりねー」

 アヴリルは何度も頷き、にこっと笑う。

「図書の国で剣を一本買い足しね。それまでは右手と左手、交互に鍛えてみ」

「わ、分かった」

 たったひと振りで、リックスの特性を見抜いてしまうなんて。さすが、戦い慣れているだけはある。
 こうして素振りと休憩を交互にし、徒歩よりは遅い旅路を進む。私は、これが回り道だとは思わない。ただ、私にもできることは何かないのだろうかと考えてしまう。

「私も......魔法の練習しようかな」

 感情に任せるばかりではなく、制御できるようになりたい。小さなつむじ風をイメージし、前方に左手を伸ばす。すると、風柱が天高く立ち上ったのだ。こちらに向かってくるので、私たちは四方に散らばってそれを避ける。

「オフィーリアは練習禁止! 実戦で役立ってくれればいいから!」

「わ、分かった......」

 アヴリルに言われると、否定のしようがない。確かに、水を制御できなくて辺り一面を洪水にしたり、野火を起こせば大惨事になる。守られてばかりいるのは嫌なのに。歯痒くて唇を噛む。
 そうして一日が経ち、また日が昇った。目の前には紫色の霧が立ち込める森が出現したのだ。これがアヴリルの言っていた『幻惑の森』だろう。

「あーあ、とうとう来ちゃったよー。みんな、覚悟しといてね」

 一度はがくりと肩を落としたアヴリルだったもの、深呼吸をして戦闘態勢へと入る。待ち受けるものの恐怖が未だにきちんと理解できていない。リックスも唸り声を上げ、前方を見詰めるばかりだ。しかし、ノエルはぐっと口を結び、行く先を睨みつける。

「行っくよー」

 アヴリルは盾を持ち直し、怯えるように前へと突き出す。そして、ゆっくりと前へと進み始めた。私たちもその後にしっかりと続く。
 昼間なのに薄暗くて気味の悪い森だ。じめっとしていて、苔も生えている。人が訪れることも少ないのが窺える。
 その苔をリックスが踏んでしまったようだ。足を滑らせて、尻餅をつく。

「痛ってー......」

 緑の瞳が前方を捉えると、小刻みに震え始めた。

「兄さん......?」

 怯えるような、それでいて喜んでいるような、信じられないものでも見ているような表情だ。
 リックスの兄は、私の父と共に敵地に向かい、行方知れずとなっている。こんな場所にいるはずがない。
 リックスの瞳は揺れる、揺れる。

「こっちに来いって......どこに?」

「リックス! ここは幻惑の森だから! それはお兄さんじゃ――」

「オフィーリア、リックスにはきっと届いてない。自分で立ち上がるしかないよ」

「そんな......!」

 アヴリルの言葉を振り切り、立ち上がったリックスの腕を思い切り掴んでみる。それでもリックスは無反応だ。

「リックス!」

 前方で水流が鳴る。その瞬間、リックスの瞳から影が消えた。もしかして――。

「あれ、兄さんは......?」

「あたし、言ったよね? ここは幻惑の森だって。幻惑に立ち向かえないなら置いてくよ。でも......」

 アヴリルは私を見て僅かに微笑んだ。

「幻惑って、魔法で消えるんだ。オフィーリア、ありがと」

 初めて私の魔法が人の役に立ったような気がした。胸に温かな火が灯る。
 一方で、ノエルは顔をしかめながらリックスを見遣った。

「リックス、大丈夫か?」

「うん、たぶん」

 幻惑でも、行方知れずの兄の姿を見てしまっている。きっと、幻惑の消滅は希望が掻き消えた瞬間なのだろう。幻惑を見ている間だけではなく、幻惑から立ち直っても精神的に痛めつけてくる。どこまでも陰湿な森だ。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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