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幻惑の森1

 はっと瞼を開けると、青空よりも先にノエル、リックス、アヴリルの顔が飛び込んできた。
 私はまた、エスメラルダの夢を見たのだろうか。妙に現実的で、自分がエスメラルダになったような感覚に陥る。

「オフィーリア、大丈夫か?」

「うん......」

 ノエルの問いかけにも、曖昧に答えてみせる。

「倒れた原因に心当たりはある?」

 この夢が原因なのだろうか。しかし、決めつけられるほどの確証もなく、首を横に振ってみせた。腕に力を入れ、昨夜は動かせなかった身体を起き上がらせる。

「......王様が言ってたことを覚えてる?」

 エスメラルダの夢は、私の中で閉じ込めておけるような規模の話ではない。言って信じてもらえるかは分からない。それでも言わずにはいられなかった。

「私は聖女になってから『エスメラルダ』の夢を見るようになった」

 ノエルは眉間にしわを寄せ、リックスははっと口を開ける。しかし、アヴリルの方が言葉にしたのは早かった。

「エスメラルダって何? あたしを置いてけぼりにしないでくれる?」

「アヴリル。それは今から説明するから」

 リックスが苦笑いをすると、アヴリルは不服そうに口を尖らせた。四人で円に座り直し、私の『推測』を並べていく。

「王様の話だと、伝承では『エスメラルダ』が王様の前に現れるはずだった。でも、現れたのは私。ここまではいい?」

「うん、まあ」

 正面に座るアヴリルは、何度か頷いてみせる。

「そして、王様はこうも言ってた。『夢』を見ていないか? って」

「夢......?」

 アヴリルは小さく首を傾げたものの、理解はできていないようだ。

「夢なんて、誰でも見るものじゃん? あたしだって毎日見るよ」

「それが普通の夢じゃないの。さっきも言ったでしょ? 『エスメラルダの』夢を見るようになったって」

「うーん......。じゃあ、そのエスメラルダって人がオフィーリアに夢を見せてるの?」

 アヴリルは降参とでも言いたげに空を仰いだ。

「たぶん、違う。私はエスメラルダの『記憶』を見てるんだと思う」

 この『推測』が合っているのなら、王が言っていた『伝承』とも辻褄が合うはずだ。

「つまり、どういうこと?」

「私はエスメラルダ『だった』んだと思う」

 アヴリルの横でノエルは神妙な顔になり、リックスは口を曲げる。

「でも、オフィーリア。確証はないんだろ? それに、尻ぬぐいの意味は?」

「それは......」

 夢には見ていても、結末が分からない。何も言えず、視線を落とした。

「だ~か~ら~! あたしに分からない話はしないでって言ってんじゃん!」

「俺たちにも分かんないんだよ! そんなに説明ばっかり求めるなよ!」

 アヴリルの発言に怒りを覚えたのだろうか。リックスの声は僅かに震えていた。ここまで声を荒げるのは、リックスにしては珍しい。
 アヴリルも不機嫌になってしまい、リックスにそっぽを向ける。
 空気が戻るかは分からないけれど、口を開いてみる。

「分かるのは、エスメラルダがどこかの国の王女だったってことくらい」

「......じゃあ、王城を回ってたらエスメラルダに当たるかもしれない。もしかしたら、王様が言ってた......魔王城?」

 ノエルは訝るように顎に手を当てた。王が『魔王城に行け』と言っていたのは、そういうことなのだろうか。

「......いや、飛躍しすぎたか?」

「それなら、『図書の国』で調べてみれば? 世界中の本が集まってるんだよ。各国王の家系図なんかも残ってるらしいし」

 アヴリルは一つの提案を置く。本で調べられるのなら確実だし、無暗に各国を回る必要もない。

「私は賛成」

「俺もだな」

 ノエルと顔を見合わせ、互いに頷いてみせる。しかし、リックスの機嫌は直っていないらしい。

「そもそも、魔王城はモンスターの根城だろ? 人間なんて住めたものじゃないよ」

 リックスはぶっきらぼうに言葉を吐き捨てる。

「今はね」

 返事をしたのがアヴリルだったので、余計に癇に障ったらしい。リックスは「ふん」と漏らし、一人で立ち上がった。そのまま河原の方へと向かう。
 リックスの機嫌が直るのを待っていては、時間ばかりが経ってしまう。仕方なく、私とノエル、アヴリルで旅の支度を整える。

「図書の国に行くのはいいんだけど、幻惑の森を抜けなくちゃ駄目なんだよねー。あたし、あそこ苦手でさー」

「幻惑の森?」

「そ。瘴気が自分の大事な人に化けて出てくるってやつ」

 大事な人――言われて一番に頭に浮かんだのは父の顔だった。モンスターから村を守るために数人を引き連れて敵地に出向き、帰らなかった人――。私は、きっと父の姿を見るのだろう。

「じゃあ、俺にはこの三人が化けて出てくるんだろうな」

 ノエルは薄いタオルを畳みながら、苦笑いをする。

「え? それって、あたしも入ってんの?」

「勿論」

「よっしゃぁ!」

 アヴリルはガッツポーズを決め込む。ノエルに認めてもらえたことが、相当嬉しいらしい。
 そこへ、ようやくリックスが近付いてきた。ノエルが彼を見つけると、そっと声を掛ける。

「大丈夫か?」

「うん。まあ、俺も悪かったし」

 どうやら、いつものリックスに戻れたようだ。ほっと胸を撫で下ろし、私もリックスの元へと駆け寄った。

「リックス、次の目的地は――」

「これ、オフィーリアの」

 私の言葉を遮ったリックスの手には、水筒が握られていた。ただ頭を冷やしていただけかと思いきや、きちんと旅のことも考えてくれていたらしい。
 私がそれを受け取ると、リックスはにこっと笑ってくれた。
 ノエルとアヴリルの分もあるらしく、リックスは二人に水筒を手渡していく。

「ノエル」

「ああ」

「それとちっこいの」

「はぁー!? まだ言うの!?」

 また一触即発になるかと思われたけれど、アヴリルは完全に怒ってはいないようだった。怒鳴った後で、口角が僅かに上がる。

「......行こう」

 四人で昨日と同じ隊列を組み、道を進む。この先に真実があると信じて。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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幻惑の森1

 はっと瞼を開けると、青空よりも先にノエル、リックス、アヴリルの顔が飛び込んできた。
 私はまた、エスメラルダの夢を見たのだろうか。妙に現実的で、自分がエスメラルダになったような感覚に陥る。

「オフィーリア、大丈夫か?」

「うん......」

 ノエルの問いかけにも、曖昧に答えてみせる。

「倒れた原因に心当たりはある?」

 この夢が原因なのだろうか。しかし、決めつけられるほどの確証もなく、首を横に振ってみせた。腕に力を入れ、昨夜は動かせなかった身体を起き上がらせる。

「......王様が言ってたことを覚えてる?」

 エスメラルダの夢は、私の中で閉じ込めておけるような規模の話ではない。言って信じてもらえるかは分からない。それでも言わずにはいられなかった。

「私は聖女になってから『エスメラルダ』の夢を見るようになった」

 ノエルは眉間にしわを寄せ、リックスははっと口を開ける。しかし、アヴリルの方が言葉にしたのは早かった。

「エスメラルダって何? あたしを置いてけぼりにしないでくれる?」

「アヴリル。それは今から説明するから」

 リックスが苦笑いをすると、アヴリルは不服そうに口を尖らせた。四人で円に座り直し、私の『推測』を並べていく。

「王様の話だと、伝承では『エスメラルダ』が王様の前に現れるはずだった。でも、現れたのは私。ここまではいい?」

「うん、まあ」

 正面に座るアヴリルは、何度か頷いてみせる。

「そして、王様はこうも言ってた。『夢』を見ていないか? って」

「夢......?」

 アヴリルは小さく首を傾げたものの、理解はできていないようだ。

「夢なんて、誰でも見るものじゃん? あたしだって毎日見るよ」

「それが普通の夢じゃないの。さっきも言ったでしょ? 『エスメラルダの』夢を見るようになったって」

「うーん......。じゃあ、そのエスメラルダって人がオフィーリアに夢を見せてるの?」

 アヴリルは降参とでも言いたげに空を仰いだ。

「たぶん、違う。私はエスメラルダの『記憶』を見てるんだと思う」

 この『推測』が合っているのなら、王が言っていた『伝承』とも辻褄が合うはずだ。

「つまり、どういうこと?」

「私はエスメラルダ『だった』んだと思う」

 アヴリルの横でノエルは神妙な顔になり、リックスは口を曲げる。

「でも、オフィーリア。確証はないんだろ? それに、尻ぬぐいの意味は?」

「それは......」

 夢には見ていても、結末が分からない。何も言えず、視線を落とした。

「だ~か~ら~! あたしに分からない話はしないでって言ってんじゃん!」

「俺たちにも分かんないんだよ! そんなに説明ばっかり求めるなよ!」

 アヴリルの発言に怒りを覚えたのだろうか。リックスの声は僅かに震えていた。ここまで声を荒げるのは、リックスにしては珍しい。
 アヴリルも不機嫌になってしまい、リックスにそっぽを向ける。
 空気が戻るかは分からないけれど、口を開いてみる。

「分かるのは、エスメラルダがどこかの国の王女だったってことくらい」

「......じゃあ、王城を回ってたらエスメラルダに当たるかもしれない。もしかしたら、王様が言ってた......魔王城?」

 ノエルは訝るように顎に手を当てた。王が『魔王城に行け』と言っていたのは、そういうことなのだろうか。

「......いや、飛躍しすぎたか?」

「それなら、『図書の国』で調べてみれば? 世界中の本が集まってるんだよ。各国王の家系図なんかも残ってるらしいし」

 アヴリルは一つの提案を置く。本で調べられるのなら確実だし、無暗に各国を回る必要もない。

「私は賛成」

「俺もだな」

 ノエルと顔を見合わせ、互いに頷いてみせる。しかし、リックスの機嫌は直っていないらしい。

「そもそも、魔王城はモンスターの根城だろ? 人間なんて住めたものじゃないよ」

 リックスはぶっきらぼうに言葉を吐き捨てる。

「今はね」

 返事をしたのがアヴリルだったので、余計に癇に障ったらしい。リックスは「ふん」と漏らし、一人で立ち上がった。そのまま河原の方へと向かう。
 リックスの機嫌が直るのを待っていては、時間ばかりが経ってしまう。仕方なく、私とノエル、アヴリルで旅の支度を整える。

「図書の国に行くのはいいんだけど、幻惑の森を抜けなくちゃ駄目なんだよねー。あたし、あそこ苦手でさー」

「幻惑の森?」

「そ。瘴気が自分の大事な人に化けて出てくるってやつ」

 大事な人――言われて一番に頭に浮かんだのは父の顔だった。モンスターから村を守るために数人を引き連れて敵地に出向き、帰らなかった人――。私は、きっと父の姿を見るのだろう。

「じゃあ、俺にはこの三人が化けて出てくるんだろうな」

 ノエルは薄いタオルを畳みながら、苦笑いをする。

「え? それって、あたしも入ってんの?」

「勿論」

「よっしゃぁ!」

 アヴリルはガッツポーズを決め込む。ノエルに認めてもらえたことが、相当嬉しいらしい。
 そこへ、ようやくリックスが近付いてきた。ノエルが彼を見つけると、そっと声を掛ける。

「大丈夫か?」

「うん。まあ、俺も悪かったし」

 どうやら、いつものリックスに戻れたようだ。ほっと胸を撫で下ろし、私もリックスの元へと駆け寄った。

「リックス、次の目的地は――」

「これ、オフィーリアの」

 私の言葉を遮ったリックスの手には、水筒が握られていた。ただ頭を冷やしていただけかと思いきや、きちんと旅のことも考えてくれていたらしい。
 私がそれを受け取ると、リックスはにこっと笑ってくれた。
 ノエルとアヴリルの分もあるらしく、リックスは二人に水筒を手渡していく。

「ノエル」

「ああ」

「それとちっこいの」

「はぁー!? まだ言うの!?」

 また一触即発になるかと思われたけれど、アヴリルは完全に怒ってはいないようだった。怒鳴った後で、口角が僅かに上がる。

「......行こう」

 四人で昨日と同じ隊列を組み、道を進む。この先に真実があると信じて。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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