ホーム›あなたと巡る星空に、安らぎの子守唄を。〜ふたりで描く、永遠の軌道〜›第三話 チキン南蛮と質量中心
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第三話 チキン南蛮と質量中心

 一限目の終了を告げるチャイムが鳴り響くと、教室の中にほっとした空気が広がった。
「うぅー......終わったぁ......」
 陽向は、いつもは太陽のように明るいブロンドベージュの髪を、すっかり光を失ったように机へ広げて突っ伏した。
 三つ折りにした白色のソックスを履いた両足を、机の下でパタパタと力なく揺らしている。
「お疲れ様、陽向。小テスト、手応えはどうだったかしら?」
 隣の席からおっとりとした声で労ってくれた朔夜。
「全然ダメかも......特にさ、神話の伝承から、影法師化したアストラルフラグメントの行動パターンを予測する問題とか、難しすぎだよぉ」
「ふふ。昨日、一緒に復習したところも出ていたはずよ。陽向は光を集めるのは得意だけど、座学となると少し軌道が逸れがちね」
「うぅ......朔夜のいじわる......」
 陽向は突っ伏した顔を、まるで日の出のように起きあがりながら続ける。
「それで朔夜ぁ。なんで私たち、普通の高校生みたいな授業の他に、天文学とか神話までみっちり勉強しなきゃいけないのかな......頭パンクしそう」
 涙目で訴えかける陽向の頬を、朔夜の白く細い指先がそっと撫でた。
「ふふ、仕方ないわ。私たちは『ステラ』として、暴走した星のかけらアストラルフラグメントを救済する任務を負っているのだから」
「う、うん。確かにそうなんだけどね。私だって星のこととか、神話のこととか好きだよ? でもそこまで深掘りしなくちゃいけないのかな......」
「星座の成り立ちや神話の伝承を深く理解することは、迷子になったあの子たちを相手を傷つけずに鎮めて、元の星空へと還してあげるために、必要不可欠なことでしょう?」
 諭すように優しい朔夜の言葉と、頬を撫でる心地よい指先の感触に、陽向は少しだけむず痒さを感じながらも、素直に頷くしかなかった。
「うぅ、朔夜のごもっともかも......」
 涙目になりながら、上目遣いで見つめる陽向の瞳に、朔夜は小さく微笑んだ。
 そして、白いセーラー襟を指先でそっと直してあげながら、陽向の耳元に顔を近づける。
「大丈夫よ。もし陽向が赤点を取って補習になっても、私がちゃんと引っ張ってあげるから」
「ほんと!? やったぁ! 朔夜、大好きぃ!」
「こーらっ、教室の中よ」
 ぱぁっと表情を明るくして抱きつこうとする陽向を朔夜はたしなめるが、その瞳はとても優しかった。

 やがて天井から二限目のチャイムが鳴る。女性教官が教室に入り、教壇に立った。
 この時間は『星脈解析学アストロアナリティクス』。地球に降ってきたアストラルフラグメントの質量や表面温度、周波数を科学的に分析する、実戦的な科目だ。
「それでは本日は、春の星座、特に『しし座』の構成について深掘りしましょう。昨夜、あなたたちの活躍により、しし座を構成するアストラルフラグメントが、無事に星空へ還されたこともあるからね」
 教官の言葉に、陽向と朔夜は顔を合わせ、小さく微笑み合った。
「しし座は、百獣の王の姿を描いた星座というのは、もう知っていますね? その中でも一等星の『レグルス』は獅子の心臓に位置し、青白く輝くとても高温の星です。それ対して二等星の『デネボラ』は、獅子の尻尾に位置しています」
 教官が電子黒板に春の星空の図を映し出す。
「デネボラは、うしかい座のアルクトゥールス、おとめ座のスピカと共に『春の大三角』を形成する重要な星なのも分かりますね? もし星座のパーツが一つでも欠けたら、星空のバランス、つまり宇宙の重力場全体に影響を及ぼします。だからこそ、皆さんステラの任務は重大なのです」
 陽向は真剣な表情でノートに鉛筆を走らせる。
「そしてあなたたちに一つ、覚えておいてほしいことがあります。あなたたちが一度星空へ還した星々であっても、次元の歪みやダークマターの変動で、期間を経て再び迷子になって、再度地球へ降ってくることがあります」
 その言葉に、教室内に小さなどよめきが起きた。
 陽向も、ノートを取る手をピタリと止める。
(一度還しても、また迷子になっちゃうことがあるんだ......)
 陽向は、かつて自身も自分の光の熱エネルギーを制御できず、暴走して居場所を失いかけた過去を思い出す。
 その時、強い重力で優しく受け止めてくれたのが朔夜だった。
(迷子になるのは、星たちだけじゃない。誰だって、軌道から外れてひとりぼっちになっちゃうことがある......)
 陽向は、隣で静かに教官の話を聞いている朔夜の横顔を、そっと見つめた。
 朔夜から微かに漂う、凛とした冷たい空気。
 もし、またあのデネボラが迷子になって泣いてしまったら......何度でも、朔夜と一緒に抱きしめて、優しい子守唄で眠らせてあげよう。
 陽向はノートの隅に、太陽と三日月の小さなマークを並べて書き込みながら、心の中で強く誓った。

 午前の授業が終わり、陽向と朔夜は連れ立って寮の食堂へと向かった。
 広々とした食堂は、すでに昼食をとるステラの少女たちで賑わっている。
 今日のメニューは、甘酸っぱいタレとタルタルソースがたっぷりかかったチキン南蛮定食。
 ほかほかのご飯をよそい、湯気を立てるお味噌汁をお椀に注ぐ。
 そしてほうれん草のおひたしが盛られた小鉢を取って、お盆の上にバランスよく並べた。
 カウンターで食事を受け取った二人は、窓際の空いている席に向かい合って座る。
「いただきます!」
 二人は手を合わせ、目の前の箸を掴み、湯気の上がる器に箸を出した。
「んーっ、美味しい! 午前中ずっと頭を使ってたから、お肉のエネルギーが染み渡るよ!」
「ふふ、陽向はいつもおいしそうに食べるわね」
 チキン南蛮を頬張る陽向を、朔夜はおっとりとした微笑みで見守る。
 しばらく和やかに箸を進めていた陽向だったが、ふと周囲のテーブルを見渡し、桜のような瞳をぱちくりと瞬かせた。
「ねえ、朔夜。入学して一年経って、今更こんなこと言うのもアレなんだけどさ」
「なにかしら?」
「この学校のみんなってさ......その、ルームメイト同士の距離、なんだかすごく近くない?」
 陽向のもじもじとした疑問に、朔夜はお椀をそっと置き、瞳を細めた。
「いや、本当に今更ね。私たち、もう高二だというのに......ここは全寮制の女子校なのだから、お互いの引力に惹きつけられて軌道が交わるのは、自然の摂理当たり前のことでしょう?」
「そ、それはそうなんだけどさ! でも、放課後の空き教室で二人きりで......息が混ざり合いそうなくらい顔を近づけて見つめ合ってたりとか、裏庭で甘く寄り添い合ってたりとか......そういうの、いつも見かけるんだよ!?」
 いろいろと思い出したのか、陽向はぶんぶんと首を横に振る。
「見るつもりじゃないんだけど、見えちゃったこっちが恥ずかしくなるっていうか......でもその、別に、嫌なわけじゃないんだけどね......」
 もごもごと口ごもりながら、陽向はチキン南蛮を箸でつついた。
 ステラとしてペアを組む少女たちは、戦闘時において「光」と「重力」を共有するため、物理的な接触が必要不可欠だ。
 限界まで密着し、お互いのエネルギーを混ぜ合わせる「近接連星における物質移動ロッシュ限界の超過」を日常的に行っているからこそ、精神的な距離感も自然とバグってしまうのかもしれない。
「......まあ、愛のカタチや価値観は、星の数ほどあるわ。それぞれが、自分たちだけの質量中心バランスを見つけているだけよ」
 朔夜はそう言って、箸を止めて真っ直ぐに陽向を見つめ、軽く唇を震わせた。
「それに......私たちだって、アストラルフラグメントを鎮める時は、いつも......強く、抱きしめ合っているじゃない」
 いつもは冷静で大人びている朔夜の頬が、ほんのりと朱に染まっている。
 陽向は昨夜の戦闘で、朔夜の胸に強く飛び込み、互いの熱と鼓動を共有した記憶が鮮明に蘇った。
(......! た、確かに、私たちも周りから見たら、そういう風に見えてるのかな......)
 急に朔夜の存在を意識してしまった陽向は、跳ねた心臓の音をごまかすように、「そ、そうだね!」と顔を逸らして、真っ赤に照れながら残りのご飯を掻き込んだ。
「ごちそうさまでした。さ、朔夜は、この後どうするの......?」
 かすかに甘酸っぱい空気が流れる中、二人は食事を終え、食器を返却口へと戻す。
「午後の授業の前に図書室へ行くわ。陽向も行くかしら?」
「う、うん! 行こう!」
 ジャンパースカートの裾を揺らしながら、二人は連れ立って食堂を後にした。
 しかしこの直後、クラスメイトたちの「さらに甘く激しい軌道の交わり」を目の当たりにしてしまうことを、照れ隠しで早歩きになる陽向はまだ知る由もなかった。
あとがき中原はじめ
まずは、この作品に巡り付いていただき、心より感謝申し上げます。 今回の第三話も、引き続き学校の授業風景をお届けしました。 一限目の小テストで見事に惨敗してしまった陽向。星のかけらを還す実戦任務では大活躍できる彼女ですが、どうやら座学は苦手のようです。 続く二限目の授業は、星脈解析学というバリバリの理系授業でした。 ちなみに、この学校は国営の機関であるため、先生のことは「教官」と呼んでいます。 作中でも語られた通り、暴走した星のかけら(アストラルフラグメント)を傷つけずに鎮めるためには、相手の痛みを理解し、神話の伝承を深く理解することが必要不可欠となります。 また、一度星空へ還したアストラルフラグメントであっても、次元の歪みなどの影響で再び地球に落ちてくることがあるというのも、この世界の過酷な現実です。 お待ちかねの昼食タイム、今日のメニューはみんな大好きチキン南蛮でした。 食事中、陽向は「ルームメイト同士の距離が近すぎる」と、今更ながらこの学校の百合の異常な濃さに触れていました。 入学してから一年間、彼女はいったい何をして過ごしてきたのでしょうか(笑) とはいえ、「別に嫌なわけではない」という、なんとも陽向らしい反応でした。 そして、ステラたちが互いに密着することを「ロッシュ限界」、その度が過ぎる激しいスキンシップを「ロッシュ限界の超過」と表現してみました。 さて、今作は学校名や地名などは登場していません。そのため、本作を独自の異世界を舞台とする「ハイファンタジー」にするか、現実世界と地続きの「ローファンタジー」にするか、投稿時のジャンル設定で少し迷いました。 しかし原石航路では大ジャンルに「GL」があるので、本作はあくまでも「百合」であることを忘れず、思い切ってGLに設定してみました。 次回は、そんなロッシュ限界を超過したクラスメイトたちの「激しい光と重力の交わり」を、陽向と朔夜が目撃してしまうことになります。 次回も引き続き百合全開でお届けしますので、お楽しみに。
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あなたと巡る星空に、安らぎの子守唄を。〜ふたりで描く、永遠の軌道〜作者:中原はじめ
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第三話 チキン南蛮と質量中心

 一限目の終了を告げるチャイムが鳴り響くと、教室の中にほっとした空気が広がった。
「うぅー......終わったぁ......」
 陽向は、いつもは太陽のように明るいブロンドベージュの髪を、すっかり光を失ったように机へ広げて突っ伏した。
 三つ折りにした白色のソックスを履いた両足を、机の下でパタパタと力なく揺らしている。
「お疲れ様、陽向。小テスト、手応えはどうだったかしら?」
 隣の席からおっとりとした声で労ってくれた朔夜。
「全然ダメかも......特にさ、神話の伝承から、影法師化したアストラルフラグメントの行動パターンを予測する問題とか、難しすぎだよぉ」
「ふふ。昨日、一緒に復習したところも出ていたはずよ。陽向は光を集めるのは得意だけど、座学となると少し軌道が逸れがちね」
「うぅ......朔夜のいじわる......」
 陽向は突っ伏した顔を、まるで日の出のように起きあがりながら続ける。
「それで朔夜ぁ。なんで私たち、普通の高校生みたいな授業の他に、天文学とか神話までみっちり勉強しなきゃいけないのかな......頭パンクしそう」
 涙目で訴えかける陽向の頬を、朔夜の白く細い指先がそっと撫でた。
「ふふ、仕方ないわ。私たちは『ステラ』として、暴走した星のかけらアストラルフラグメントを救済する任務を負っているのだから」
「う、うん。確かにそうなんだけどね。私だって星のこととか、神話のこととか好きだよ? でもそこまで深掘りしなくちゃいけないのかな......」
「星座の成り立ちや神話の伝承を深く理解することは、迷子になったあの子たちを相手を傷つけずに鎮めて、元の星空へと還してあげるために、必要不可欠なことでしょう?」
 諭すように優しい朔夜の言葉と、頬を撫でる心地よい指先の感触に、陽向は少しだけむず痒さを感じながらも、素直に頷くしかなかった。
「うぅ、朔夜のごもっともかも......」
 涙目になりながら、上目遣いで見つめる陽向の瞳に、朔夜は小さく微笑んだ。
 そして、白いセーラー襟を指先でそっと直してあげながら、陽向の耳元に顔を近づける。
「大丈夫よ。もし陽向が赤点を取って補習になっても、私がちゃんと引っ張ってあげるから」
「ほんと!? やったぁ! 朔夜、大好きぃ!」
「こーらっ、教室の中よ」
 ぱぁっと表情を明るくして抱きつこうとする陽向を朔夜はたしなめるが、その瞳はとても優しかった。

 やがて天井から二限目のチャイムが鳴る。女性教官が教室に入り、教壇に立った。
 この時間は『星脈解析学アストロアナリティクス』。地球に降ってきたアストラルフラグメントの質量や表面温度、周波数を科学的に分析する、実戦的な科目だ。
「それでは本日は、春の星座、特に『しし座』の構成について深掘りしましょう。昨夜、あなたたちの活躍により、しし座を構成するアストラルフラグメントが、無事に星空へ還されたこともあるからね」
 教官の言葉に、陽向と朔夜は顔を合わせ、小さく微笑み合った。
「しし座は、百獣の王の姿を描いた星座というのは、もう知っていますね? その中でも一等星の『レグルス』は獅子の心臓に位置し、青白く輝くとても高温の星です。それ対して二等星の『デネボラ』は、獅子の尻尾に位置しています」
 教官が電子黒板に春の星空の図を映し出す。
「デネボラは、うしかい座のアルクトゥールス、おとめ座のスピカと共に『春の大三角』を形成する重要な星なのも分かりますね? もし星座のパーツが一つでも欠けたら、星空のバランス、つまり宇宙の重力場全体に影響を及ぼします。だからこそ、皆さんステラの任務は重大なのです」
 陽向は真剣な表情でノートに鉛筆を走らせる。
「そしてあなたたちに一つ、覚えておいてほしいことがあります。あなたたちが一度星空へ還した星々であっても、次元の歪みやダークマターの変動で、期間を経て再び迷子になって、再度地球へ降ってくることがあります」
 その言葉に、教室内に小さなどよめきが起きた。
 陽向も、ノートを取る手をピタリと止める。
(一度還しても、また迷子になっちゃうことがあるんだ......)
 陽向は、かつて自身も自分の光の熱エネルギーを制御できず、暴走して居場所を失いかけた過去を思い出す。
 その時、強い重力で優しく受け止めてくれたのが朔夜だった。
(迷子になるのは、星たちだけじゃない。誰だって、軌道から外れてひとりぼっちになっちゃうことがある......)
 陽向は、隣で静かに教官の話を聞いている朔夜の横顔を、そっと見つめた。
 朔夜から微かに漂う、凛とした冷たい空気。
 もし、またあのデネボラが迷子になって泣いてしまったら......何度でも、朔夜と一緒に抱きしめて、優しい子守唄で眠らせてあげよう。
 陽向はノートの隅に、太陽と三日月の小さなマークを並べて書き込みながら、心の中で強く誓った。

 午前の授業が終わり、陽向と朔夜は連れ立って寮の食堂へと向かった。
 広々とした食堂は、すでに昼食をとるステラの少女たちで賑わっている。
 今日のメニューは、甘酸っぱいタレとタルタルソースがたっぷりかかったチキン南蛮定食。
 ほかほかのご飯をよそい、湯気を立てるお味噌汁をお椀に注ぐ。
 そしてほうれん草のおひたしが盛られた小鉢を取って、お盆の上にバランスよく並べた。
 カウンターで食事を受け取った二人は、窓際の空いている席に向かい合って座る。
「いただきます!」
 二人は手を合わせ、目の前の箸を掴み、湯気の上がる器に箸を出した。
「んーっ、美味しい! 午前中ずっと頭を使ってたから、お肉のエネルギーが染み渡るよ!」
「ふふ、陽向はいつもおいしそうに食べるわね」
 チキン南蛮を頬張る陽向を、朔夜はおっとりとした微笑みで見守る。
 しばらく和やかに箸を進めていた陽向だったが、ふと周囲のテーブルを見渡し、桜のような瞳をぱちくりと瞬かせた。
「ねえ、朔夜。入学して一年経って、今更こんなこと言うのもアレなんだけどさ」
「なにかしら?」
「この学校のみんなってさ......その、ルームメイト同士の距離、なんだかすごく近くない?」
 陽向のもじもじとした疑問に、朔夜はお椀をそっと置き、瞳を細めた。
「いや、本当に今更ね。私たち、もう高二だというのに......ここは全寮制の女子校なのだから、お互いの引力に惹きつけられて軌道が交わるのは、自然の摂理当たり前のことでしょう?」
「そ、それはそうなんだけどさ! でも、放課後の空き教室で二人きりで......息が混ざり合いそうなくらい顔を近づけて見つめ合ってたりとか、裏庭で甘く寄り添い合ってたりとか......そういうの、いつも見かけるんだよ!?」
 いろいろと思い出したのか、陽向はぶんぶんと首を横に振る。
「見るつもりじゃないんだけど、見えちゃったこっちが恥ずかしくなるっていうか......でもその、別に、嫌なわけじゃないんだけどね......」
 もごもごと口ごもりながら、陽向はチキン南蛮を箸でつついた。
 ステラとしてペアを組む少女たちは、戦闘時において「光」と「重力」を共有するため、物理的な接触が必要不可欠だ。
 限界まで密着し、お互いのエネルギーを混ぜ合わせる「近接連星における物質移動ロッシュ限界の超過」を日常的に行っているからこそ、精神的な距離感も自然とバグってしまうのかもしれない。
「......まあ、愛のカタチや価値観は、星の数ほどあるわ。それぞれが、自分たちだけの質量中心バランスを見つけているだけよ」
 朔夜はそう言って、箸を止めて真っ直ぐに陽向を見つめ、軽く唇を震わせた。
「それに......私たちだって、アストラルフラグメントを鎮める時は、いつも......強く、抱きしめ合っているじゃない」
 いつもは冷静で大人びている朔夜の頬が、ほんのりと朱に染まっている。
 陽向は昨夜の戦闘で、朔夜の胸に強く飛び込み、互いの熱と鼓動を共有した記憶が鮮明に蘇った。
(......! た、確かに、私たちも周りから見たら、そういう風に見えてるのかな......)
 急に朔夜の存在を意識してしまった陽向は、跳ねた心臓の音をごまかすように、「そ、そうだね!」と顔を逸らして、真っ赤に照れながら残りのご飯を掻き込んだ。
「ごちそうさまでした。さ、朔夜は、この後どうするの......?」
 かすかに甘酸っぱい空気が流れる中、二人は食事を終え、食器を返却口へと戻す。
「午後の授業の前に図書室へ行くわ。陽向も行くかしら?」
「う、うん! 行こう!」
 ジャンパースカートの裾を揺らしながら、二人は連れ立って食堂を後にした。
 しかしこの直後、クラスメイトたちの「さらに甘く激しい軌道の交わり」を目の当たりにしてしまうことを、照れ隠しで早歩きになる陽向はまだ知る由もなかった。
あとがき中原はじめ
まずは、この作品に巡り付いていただき、心より感謝申し上げます。 今回の第三話も、引き続き学校の授業風景をお届けしました。 一限目の小テストで見事に惨敗してしまった陽向。星のかけらを還す実戦任務では大活躍できる彼女ですが、どうやら座学は苦手のようです。 続く二限目の授業は、星脈解析学というバリバリの理系授業でした。 ちなみに、この学校は国営の機関であるため、先生のことは「教官」と呼んでいます。 作中でも語られた通り、暴走した星のかけら(アストラルフラグメント)を傷つけずに鎮めるためには、相手の痛みを理解し、神話の伝承を深く理解することが必要不可欠となります。 また、一度星空へ還したアストラルフラグメントであっても、次元の歪みなどの影響で再び地球に落ちてくることがあるというのも、この世界の過酷な現実です。 お待ちかねの昼食タイム、今日のメニューはみんな大好きチキン南蛮でした。 食事中、陽向は「ルームメイト同士の距離が近すぎる」と、今更ながらこの学校の百合の異常な濃さに触れていました。 入学してから一年間、彼女はいったい何をして過ごしてきたのでしょうか(笑) とはいえ、「別に嫌なわけではない」という、なんとも陽向らしい反応でした。 そして、ステラたちが互いに密着することを「ロッシュ限界」、その度が過ぎる激しいスキンシップを「ロッシュ限界の超過」と表現してみました。 さて、今作は学校名や地名などは登場していません。そのため、本作を独自の異世界を舞台とする「ハイファンタジー」にするか、現実世界と地続きの「ローファンタジー」にするか、投稿時のジャンル設定で少し迷いました。 しかし原石航路では大ジャンルに「GL」があるので、本作はあくまでも「百合」であることを忘れず、思い切ってGLに設定してみました。 次回は、そんなロッシュ限界を超過したクラスメイトたちの「激しい光と重力の交わり」を、陽向と朔夜が目撃してしまうことになります。 次回も引き続き百合全開でお届けしますので、お楽しみに。
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