ホーム›転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜›第7章 拡大編 - 第5話「新天地の気配」
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第7章 拡大編 - 第5話「新天地の気配」

昨夜は、いつの間にか眠ってしまっていた。

柔らかな朝日が窓から差し込み、閉じた瞼の上を光が照らしている。

「......ん......」

微睡みの底から、ゆっくりと意識が浮かび上がってくる。

暖かな太陽の光。
いつもより、ふわふわとした寝具の感触。
背中に触れる、妙に心地のいい温もり。

そして。

後ろから、がっしりと回された腕。

「......ん゛!?」

最後だけがおかしい。

水面へゆっくり浮上していたはずの意識が、残っていた眠気を一刀両断して飛び上がった。

美月は恐る恐る視線だけを後ろへ送る。

そこには。

「よぉ。起きたかよ」

至近距離。

ダークグレーの肌に、金色の瞳。

見慣れたはずなのに、起床一秒目に見るには心臓へ悪すぎる淫魔の顔面。

「ミ゜ャーーーーーーーーーーーーー!!」

美月の絶叫が、家中へ響き渡った。

「ぶはっ、また新しい悲鳴出たな!」

ジャジーは耳元で大笑いしている。

初対面から今日まで、美月の口から飛び出す電子音的悲鳴を浴び続けた結果、とうとう完全に慣れてしまったらしい。

「なっ......なんでジャジーが一緒に寝てるの!?」

美月は勢いよく身体を起こす。

「お前、俺に部屋から出ろっつー前に寝たじゃねぇか」
「そういう時は普通、静かに出ていくんだよ!」
「また新しい人間界の常識出たな」

悪びれる様子はない。

むしろ、寝起きから元気に怒鳴る美月が面白いらしく、口元は完全に笑っている。

美月はそんなジャジーをじとりと睨んだ。

「っていうか......何もしてないよね......?」

その視線を受けて、ジャジーは親指を立てる。

「おう。拷問みてぇな時間だったぞ」

よく見れば、確かに顔には妙な疲労が滲んでいる。

美月に触れているのだから、本来なら精気の補給になっているはずだ。

しかし。

回復した分だけ理性維持に使い、差し引きゼロ。

いや。

表情を見る限り、ややマイナス。

「だったらなおさら出た方が良かったじゃん!」
「お前が俺の羽根にすり寄ってきたんだろうが!」
「......え」

美月の動きが止まった。
昨夜の記憶を、頭の奥から引っ張り出す。

ジャジーの過去を聞いた。
森で何があったのか、元仲間達のことを今はどう思っているのか。

話しているうちに、だんだん眠くなって。
隣にいたジャジーに身体を支えてもらって。
そのまま―――

「......ん寝たわ!」

鮮明に蘇った。

「だろ。気持ちよさそうに俺の羽根下敷きにしてっから、俺もそのまま横になったっつーわけだ」
「......寝れた?」
「寝れるか!」
「じゃあ寝てないんじゃん!」
「誰も寝れたなんて言ってねぇだろ!」

寝起き早々、二人の言い合いが始まる。

そんな時だった。

コンコンと、ドアから軽い音が響く。

「美月殿、起きているであろうか」

向こうから、鳳ほうの声が聞こえた。

「うん、起きてるよ。どうしたの?」
「潮の香りが近い。東あづまの妖力文ようりょくぶんが来るのであろう」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ふわりと淡い光が室内へ入ってきた。

美月の目の前で止まると、文字がゆっくりと浮かび上がる。

『美味ぇ魚獲った!あとで持ってく!』
「ふふっ。東あづまらしい」

時間も、どんな魚なのかも、一切記載がない。

それが東あづまの性格を物語っており、思わず笑みがこぼれた。

少し前まで、先に連絡するという発想すらなかった男だ。
それが今では、ちゃんと約束を守り、妖力文ようりょくぶんまで送れるようになった。

「じゃあ今から着替えるから、ジャジーは居間に戻って」
「へいへい」

ジャジーは手をひらひら振りながら、素直に退室した。

身支度を整え、美月も居間へ向かう。

その後は、朝食の準備。
今日は根菜の煮物だった。

鍋を覗き込みながら、美月はぽつりと呟く。

「......やっぱり、蜂蜜欲しい......」

以前にも思った。

砂糖だけでも煮物はできる。
けれど蜂蜜があれば、照りも出るし、飲み物にも使えるし、お菓子にも使える。

その言葉に。

「なら、蜂王殿の森に行くのは......」

鳳ほうが反応した。

しかし。

ぴたりと、途中で止まった。

「蜂王さんの森?」

美月が振り返る。

蜂王。

名前の通りなら、蜂にまつわる妖あやかしなのだろう。

鳳ほうは数秒沈黙したあと、視線を逸らした。

「......ね、ねっとすうぱあで売っておる。そちらで購入するとよい」
「急ハンドル!」
「なんで提案した奴が即時修正したんだよ」

ジャジーまで訝しげに鳳ほうを見る。

「......急に、ねっとすうぱあを利用しとうなっただけでござる」
「嘘が致命的に下手すぎる!」

美月が即座に突っ込む。
逆を返せば、それだけ正直な者だということなのだが、あまりにも絶望的に下手だった。

ジャジーの眉が寄る。

「......もしかして、男か?」
「......うむ」

鳳は一度唇を結ぶ。

「だが、それだけではござらぬ」

やや苦い顔で告げた。

「なんだよ。もったいぶんな」

鳳ほうは少し言いにくそうに間を置いた。

「......蜂王殿は......」

そして。

「......妃を、探しておるのだ」
「俺も急にネットスーパー使いたくなった」
「無理がある!」

美月の声が響く。

鳳ほうは真剣な顔で美月へ向き直った。

「......美月殿」
「なぁに?」
「拙者達の心境も理解していただきたいでござる」

鳳は一度目を伏せると、再び美月と目を合わせた。

「拙者らが今の状況のまま、美月殿を連れ参じるということ」
「うん」
「それはすなわち、女性妖不足の隠世かくりよで、妃を探している雄の蜂王の縄張りに、妃候補となり得る我が恋人を、自らの手で連れていくということだ」

ジャジーも大きく頷く。

「ほぼ推薦だな」
「うん。言いたいことは分かった」
「その導入、嫌な予感しかしねぇんだよ」

美月は腕を組み、少し考える。

「店で買ったビールを飲むより、ビール工場で飲んだ方が美味しく感じるでしょ?ビール飲めないけど」
「じゃあなんでその例え出したんだよ」
「とにかく!作ってる場所に行って買った物の方が、概念味覚が満たされるってこと!」
「この家は、よく新しい概念が出るでござる......」

美月は鍋へ視線を戻す。

「......行きたいなぁ......」

ちらり。

鳳ほうとジャジーへ、やや上目遣いを向ける。

「......」
「......」
「産地で食べる蜂蜜、美味しいだろうなぁ......」
「......」
「......」
「なんで誰も何も言わないの」

ジャジーがにやりと笑った。

「もうちょいその顔見てようかと思ってな」
「見せもんじゃないよ!」

美月が頬を膨らませる。

すると。

「......美月殿」

鳳ほうの顔が、すっと真剣なものへ変わった。

「無論、必ずや連れ参じるでござる」
「ほんと!?」

美月の目が一気に輝く。

「お前さっき急ハンドル切ってただろ!」
「まだ最後まで言っておらぬ!」

鳳ほうが少し声を張る。

そして、美月を見る。

「......参じるのは、蜂王殿の妃が見つかってからではいかぬであろうか」

美月の目が瞬き、勢いが止まった。

ジャジーも珍しく素直に頭を下げるような声を出した。

「それは確かに、俺からも頼みてぇな......」

数秒。

美月は二人を見比べ、わずかに眉を下げる。

「必死だなぁ......」

そして。

「ふふっ。分かった」

あっさりと明るく笑った。

鳳ほうの眉が下がる。

「......拙者らの浅ましい思考を、許してほしい......」
「そんな重々しく考えないでいいよ!」

美月は慌てて手を振った。

「けど、しばらく蜂王の森には行けねぇってことだぞ?」

ジャジーが念を押す。

「しばらく、でしょ?」

美月の表情は、少しも曇っていない。

「私だって、二人が心から嫌がってることを、私欲のためにゴリ押しすることはしないよ」

その一言に。

ジャジーと鳳ほうが、ほんの少しだけ黙った。

美月の手にはすでに端末が乗っている。

「まだ妖生保証手当てで入ってるポイントあるし、じゃあちょっといい蜂蜜買っちゃお♪」

指を動かし、商品一覧を眺める。

「あ、これ!」

『蜂王印の王蜜』というラベルが貼られた、見るからに高級そうな瓶。

他にも種類はあったが。

「ビーポーレン入り!これにしよーっと♪」

王蜜のみ、原材料一覧に『ビーポーレン』と書かれてあったため、それが決め手になったようだ。

購入。

そして美月は魔冷庫を開けると、食材を漁る。

「ケーキ作った時のミルクもまだいっぱいある!」

そして、振り向く。

「あとでみんなでホットミルクでも飲もうね」

いつもの無邪気な笑み。

「......うむ。いただこう」
「俺、甘さ控えめな」
「おっけー!楽しみ〜♪」

さっきまで蜂王の森へ行けないことを話していたとは思えないほど、もう美月は次の楽しみに気持ちを向けている。

そして、さらに。

「東あづまがお魚持ってくるなら、照り煮にも使える!夢が広がる〜♡」

ジャジーは、その浮かれた後ろ姿を見て。

「鳳ほう」
「......なんでござるか」
「あれが美月だ」

鳳ほうも、美月を見る。

「誰かが感情に沈み込む前に、あいつがサルベージしてくんのがこの家だぞ」
「......うむ」
「なら、悩んだって意味ねぇだろ」

鳳ほうはしばらく黙った。

けれど。

やがて、ふっと肩の力を抜く。

「......そうであるな」
「二人ともー?」

美月の声が飛ぶ。

「東あづま、多分クーラーバッグとか知らないから、魚置けそうな場所作って!」
「おう」
「承知したでござる」

二人は同時に立ち上がった。

その横で、美月は届く予定の蜂蜜と、これから届く魚を思い浮かべながら、ひとり楽しそうに献立を組み立てている。

こうして三人は。

新しい蜂蜜と。
美味しい魚と。

相変わらず予測不能な東あづまの来訪を、待つことになったのだった。



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「新天地の気配」
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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜作者:桜桃
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第7章 拡大編 - 第5話「新天地の気配」

昨夜は、いつの間にか眠ってしまっていた。

柔らかな朝日が窓から差し込み、閉じた瞼の上を光が照らしている。

「......ん......」

微睡みの底から、ゆっくりと意識が浮かび上がってくる。

暖かな太陽の光。
いつもより、ふわふわとした寝具の感触。
背中に触れる、妙に心地のいい温もり。

そして。

後ろから、がっしりと回された腕。

「......ん゛!?」

最後だけがおかしい。

水面へゆっくり浮上していたはずの意識が、残っていた眠気を一刀両断して飛び上がった。

美月は恐る恐る視線だけを後ろへ送る。

そこには。

「よぉ。起きたかよ」

至近距離。

ダークグレーの肌に、金色の瞳。

見慣れたはずなのに、起床一秒目に見るには心臓へ悪すぎる淫魔の顔面。

「ミ゜ャーーーーーーーーーーーーー!!」

美月の絶叫が、家中へ響き渡った。

「ぶはっ、また新しい悲鳴出たな!」

ジャジーは耳元で大笑いしている。

初対面から今日まで、美月の口から飛び出す電子音的悲鳴を浴び続けた結果、とうとう完全に慣れてしまったらしい。

「なっ......なんでジャジーが一緒に寝てるの!?」

美月は勢いよく身体を起こす。

「お前、俺に部屋から出ろっつー前に寝たじゃねぇか」
「そういう時は普通、静かに出ていくんだよ!」
「また新しい人間界の常識出たな」

悪びれる様子はない。

むしろ、寝起きから元気に怒鳴る美月が面白いらしく、口元は完全に笑っている。

美月はそんなジャジーをじとりと睨んだ。

「っていうか......何もしてないよね......?」

その視線を受けて、ジャジーは親指を立てる。

「おう。拷問みてぇな時間だったぞ」

よく見れば、確かに顔には妙な疲労が滲んでいる。

美月に触れているのだから、本来なら精気の補給になっているはずだ。

しかし。

回復した分だけ理性維持に使い、差し引きゼロ。

いや。

表情を見る限り、ややマイナス。

「だったらなおさら出た方が良かったじゃん!」
「お前が俺の羽根にすり寄ってきたんだろうが!」
「......え」

美月の動きが止まった。
昨夜の記憶を、頭の奥から引っ張り出す。

ジャジーの過去を聞いた。
森で何があったのか、元仲間達のことを今はどう思っているのか。

話しているうちに、だんだん眠くなって。
隣にいたジャジーに身体を支えてもらって。
そのまま―――

「......ん寝たわ!」

鮮明に蘇った。

「だろ。気持ちよさそうに俺の羽根下敷きにしてっから、俺もそのまま横になったっつーわけだ」
「......寝れた?」
「寝れるか!」
「じゃあ寝てないんじゃん!」
「誰も寝れたなんて言ってねぇだろ!」

寝起き早々、二人の言い合いが始まる。

そんな時だった。

コンコンと、ドアから軽い音が響く。

「美月殿、起きているであろうか」

向こうから、鳳ほうの声が聞こえた。

「うん、起きてるよ。どうしたの?」
「潮の香りが近い。東あづまの妖力文ようりょくぶんが来るのであろう」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ふわりと淡い光が室内へ入ってきた。

美月の目の前で止まると、文字がゆっくりと浮かび上がる。

『美味ぇ魚獲った!あとで持ってく!』
「ふふっ。東あづまらしい」

時間も、どんな魚なのかも、一切記載がない。

それが東あづまの性格を物語っており、思わず笑みがこぼれた。

少し前まで、先に連絡するという発想すらなかった男だ。
それが今では、ちゃんと約束を守り、妖力文ようりょくぶんまで送れるようになった。

「じゃあ今から着替えるから、ジャジーは居間に戻って」
「へいへい」

ジャジーは手をひらひら振りながら、素直に退室した。

身支度を整え、美月も居間へ向かう。

その後は、朝食の準備。
今日は根菜の煮物だった。

鍋を覗き込みながら、美月はぽつりと呟く。

「......やっぱり、蜂蜜欲しい......」

以前にも思った。

砂糖だけでも煮物はできる。
けれど蜂蜜があれば、照りも出るし、飲み物にも使えるし、お菓子にも使える。

その言葉に。

「なら、蜂王殿の森に行くのは......」

鳳ほうが反応した。

しかし。

ぴたりと、途中で止まった。

「蜂王さんの森?」

美月が振り返る。

蜂王。

名前の通りなら、蜂にまつわる妖あやかしなのだろう。

鳳ほうは数秒沈黙したあと、視線を逸らした。

「......ね、ねっとすうぱあで売っておる。そちらで購入するとよい」
「急ハンドル!」
「なんで提案した奴が即時修正したんだよ」

ジャジーまで訝しげに鳳ほうを見る。

「......急に、ねっとすうぱあを利用しとうなっただけでござる」
「嘘が致命的に下手すぎる!」

美月が即座に突っ込む。
逆を返せば、それだけ正直な者だということなのだが、あまりにも絶望的に下手だった。

ジャジーの眉が寄る。

「......もしかして、男か?」
「......うむ」

鳳は一度唇を結ぶ。

「だが、それだけではござらぬ」

やや苦い顔で告げた。

「なんだよ。もったいぶんな」

鳳ほうは少し言いにくそうに間を置いた。

「......蜂王殿は......」

そして。

「......妃を、探しておるのだ」
「俺も急にネットスーパー使いたくなった」
「無理がある!」

美月の声が響く。

鳳ほうは真剣な顔で美月へ向き直った。

「......美月殿」
「なぁに?」
「拙者達の心境も理解していただきたいでござる」

鳳は一度目を伏せると、再び美月と目を合わせた。

「拙者らが今の状況のまま、美月殿を連れ参じるということ」
「うん」
「それはすなわち、女性妖不足の隠世かくりよで、妃を探している雄の蜂王の縄張りに、妃候補となり得る我が恋人を、自らの手で連れていくということだ」

ジャジーも大きく頷く。

「ほぼ推薦だな」
「うん。言いたいことは分かった」
「その導入、嫌な予感しかしねぇんだよ」

美月は腕を組み、少し考える。

「店で買ったビールを飲むより、ビール工場で飲んだ方が美味しく感じるでしょ?ビール飲めないけど」
「じゃあなんでその例え出したんだよ」
「とにかく!作ってる場所に行って買った物の方が、概念味覚が満たされるってこと!」
「この家は、よく新しい概念が出るでござる......」

美月は鍋へ視線を戻す。

「......行きたいなぁ......」

ちらり。

鳳ほうとジャジーへ、やや上目遣いを向ける。

「......」
「......」
「産地で食べる蜂蜜、美味しいだろうなぁ......」
「......」
「......」
「なんで誰も何も言わないの」

ジャジーがにやりと笑った。

「もうちょいその顔見てようかと思ってな」
「見せもんじゃないよ!」

美月が頬を膨らませる。

すると。

「......美月殿」

鳳ほうの顔が、すっと真剣なものへ変わった。

「無論、必ずや連れ参じるでござる」
「ほんと!?」

美月の目が一気に輝く。

「お前さっき急ハンドル切ってただろ!」
「まだ最後まで言っておらぬ!」

鳳ほうが少し声を張る。

そして、美月を見る。

「......参じるのは、蜂王殿の妃が見つかってからではいかぬであろうか」

美月の目が瞬き、勢いが止まった。

ジャジーも珍しく素直に頭を下げるような声を出した。

「それは確かに、俺からも頼みてぇな......」

数秒。

美月は二人を見比べ、わずかに眉を下げる。

「必死だなぁ......」

そして。

「ふふっ。分かった」

あっさりと明るく笑った。

鳳ほうの眉が下がる。

「......拙者らの浅ましい思考を、許してほしい......」
「そんな重々しく考えないでいいよ!」

美月は慌てて手を振った。

「けど、しばらく蜂王の森には行けねぇってことだぞ?」

ジャジーが念を押す。

「しばらく、でしょ?」

美月の表情は、少しも曇っていない。

「私だって、二人が心から嫌がってることを、私欲のためにゴリ押しすることはしないよ」

その一言に。

ジャジーと鳳ほうが、ほんの少しだけ黙った。

美月の手にはすでに端末が乗っている。

「まだ妖生保証手当てで入ってるポイントあるし、じゃあちょっといい蜂蜜買っちゃお♪」

指を動かし、商品一覧を眺める。

「あ、これ!」

『蜂王印の王蜜』というラベルが貼られた、見るからに高級そうな瓶。

他にも種類はあったが。

「ビーポーレン入り!これにしよーっと♪」

王蜜のみ、原材料一覧に『ビーポーレン』と書かれてあったため、それが決め手になったようだ。

購入。

そして美月は魔冷庫を開けると、食材を漁る。

「ケーキ作った時のミルクもまだいっぱいある!」

そして、振り向く。

「あとでみんなでホットミルクでも飲もうね」

いつもの無邪気な笑み。

「......うむ。いただこう」
「俺、甘さ控えめな」
「おっけー!楽しみ〜♪」

さっきまで蜂王の森へ行けないことを話していたとは思えないほど、もう美月は次の楽しみに気持ちを向けている。

そして、さらに。

「東あづまがお魚持ってくるなら、照り煮にも使える!夢が広がる〜♡」

ジャジーは、その浮かれた後ろ姿を見て。

「鳳ほう」
「......なんでござるか」
「あれが美月だ」

鳳ほうも、美月を見る。

「誰かが感情に沈み込む前に、あいつがサルベージしてくんのがこの家だぞ」
「......うむ」
「なら、悩んだって意味ねぇだろ」

鳳ほうはしばらく黙った。

けれど。

やがて、ふっと肩の力を抜く。

「......そうであるな」
「二人ともー?」

美月の声が飛ぶ。

「東あづま、多分クーラーバッグとか知らないから、魚置けそうな場所作って!」
「おう」
「承知したでござる」

二人は同時に立ち上がった。

その横で、美月は届く予定の蜂蜜と、これから届く魚を思い浮かべながら、ひとり楽しそうに献立を組み立てている。

こうして三人は。

新しい蜂蜜と。
美味しい魚と。

相変わらず予測不能な東あづまの来訪を、待つことになったのだった。



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