ホーム›転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜›第6章 縁から宴編 - 最終話 後編「“えん”」へ
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第6章 縁から宴編 - 最終話 後編「“えん”」へ


すべてを聞き終えた頃。

美月は再び、ぱんっと手を叩いた。

「はい。じゃあ最後の議題、今後について!」
「切り替えが早いな」
「ちなみに、癒凪ゆなぎは今までどこで暮らしてたの?」
「......あの祠の近辺だ」

美月が固まった。

「......もしかして、ジャジーや鳳ほうと同じ野宿組?」
「そうだ」
「またホームレスパターン!」

美月は頭を抱えた。

「“ほーむれす”とはなんだ」
「家がない人!」

ジャジーが肩をすくめる。

「隠世かくりよの妖あやかしなんか半分くれぇそんなもんだぞ」
「うむ。家を持つ方が管理が難儀ゆえ」
「せっかく人間界の文明取り込んでいってるんだから合わせようよ!」
「数百年生きている者が、ここ最近の文化に合わせることは難しい」
「携帯使えないおじいちゃんみたいなこと言わないで!」
「......おじいちゃん」

癒凪ゆなぎの眉間が少しだけ深くなる。

美月はそんな様子など気にも留めず、ぽんと手を打った。

「じゃあさ」

そして。

「癒凪ゆなぎもうちに住めばいいね」
「言うと思った」
「うむ。予想通りでござる」

二人の反応が早い。
癒凪ゆなぎだけが、美月を見つめたまま黙っていた。

「......名まで貰ったうえ、住処まで世話になるわけにはいかん」
「いや、さすがに今回のことは私、空気読めるよ?」

美月は腕を組む。

「百之鬼モモノキさんが言ってたことをそのまま言うなら、名を渡すことは、“ともに生きてほしい”って言うことと同じなんでしょ?」
「......そう、だな」
「じゃあさ。“一緒に生きてください”って言った人が、“ただし住居まで貸す義理はありません”ってなるの、どう思う?」

ジャジーが顎へ手を当てる。

「お前が前に言ってた例えで言やぁ、プロポーズした相手に野宿続行を宣言するってことだな」

少し考えただけで、ジャジーの表情が露骨に歪んだ。

「......なんか、すげぇモヤモヤすんな......」

鳳ほうまで真剣な顔になった。

「命を救っていただいただけで、とんでもない恩ではござる。しかし......確かに、妙に消化不良を起こす状況でござるな」
「でしょ?っていうか、私が嫌だし」

癒凪ゆなぎはしばらく黙ったあと、静かに問う。

「お前は、それでいいのか」
「なんで?」
「私も、男だ」
「知ってるよ?」
「......」
「だから、畑仕事手伝ってね」

ジャジーが卓へ崩れた。

「だめだ。こいつ男を危険因子じゃなくて戦力としか見てねぇ」
「危険という感覚を狂わせたのは誰でござろうか」
「俺らだな」
「拙者も入るのでござるか」
「お前の節度、安心の権化なんだよ」

癒凪ゆなぎは三人を順番に眺める。

そして、小さく息を吐いた。

「......なら、それ相応に返さなければならないものがあるな」
「ふふっ。じゃあ今後はうちの農作業要員として返していってください」
「......なら」

一度、窓の外を見る。

祠のあった方角をしばらく見つめたあと。

癒凪ゆなぎは美月へ、ゆっくりと視線を戻す。

「......しばらく、世話になる」

そして、ほんの少しだけ、笑った。

「世界の疫病を扱ってた神から農作業要員とか、落差どうなってんだ」
「“天と地ほど違う”という言葉の物理でござるな」

癒凪ゆなぎは、ほんの少しだけ目を細めた。

「いい。むしろ、今までが“地”だったからな」

その一言で、全員は何も返せなくなった。

代わりに、少しだけ笑った。




―――その後。

改めて、全員の自己紹介が行われた。

人間として生まれた、座敷わらしの先祖返り、美月。

淫魔とハーピーの混血、ジャジー。
九千坊河童と僵尸きょうしの自主混血、鳳ほう。

「......」

自己紹介を聞き終えた癒凪ゆなぎが、妙に黙る。

美月がその横から、そっと癒凪ゆなぎの顔を覗き込む。

「気持ち、代弁していい?」
「......あぁ」
「濃い」
「正しい」
「いやお前もだぞ」
「私は総じて病の神だ」
「属性の数じゃねぇよ」

鳳ほうが真顔で頷く。

「うむ。明確な神格でござる」
「......九千坊河童くせんぼうがっぱというのも、神格ではないのか」
「そうとする伝承もあるでござるな」
「ジャジーもざっくりいえば悪魔だしね」
「こんな優しい悪魔いるかよ」
「自分で言うんだ」

美月は笑い、再び手を叩いた。

「さて!話も落ち着いたところで、お譚生日会の準備しますよー!」
「世界を揺るがす深刻な話が急に幼怪ようかいの保育室に落ちたぞ」

材料は、以前利用した異常妖稼働イジョーヨーカドーのネットスーパーで注文した。

「小麦粉と、卵と、生クリームと......凄い。人間界で使ってた食材は大抵ある」

ジャジーが小麦粉の袋を持ち上げる。

「粉なんか何に使うんだよ」
「水と練るのでござろうか」
「“けぇき”というものは粘土質なものなのか」
「家庭科知識が限りなく園児!」

そして、なぜか全員でケーキを作ることになった。

「癒凪ゆなぎは果物切ってくれる?」
「あぁ」

トン。

長い沈黙。

............トン。

「んおっそい!」
「刃を握るのは初めてだからな」
「じゃあ手は切らないように、そのままよろしく!」

次。

「ジャジーは卵を割っ......あ......」

美月の表情が、タブーに触れたかのような表情に変わる。

「同情の眼差し向けんな!共食いじゃねぇ!」

最後に鳳ほう。

美月は鳳ほうに生クリームの泡立てを頼んだのだが。

「......」

くーる。
くーる。

「鳳ほう、それ慎重すぎて一生泡立たないやつ」
「ならば、このくらいであろうか」

次の瞬間。

シャカシャカシャカシャカシャカッ!!

「んひゃいっ!」

飛び散ったクリームが、美月の頬や胸元へ点々とついた。

直後。

「......」

ジャジーが一切の動きを止め、美月を見つめたまま黙った。

「す、すまぬ!今清めるゆえ......!」
「あはは、大丈夫だよ」

癒凪ゆなぎは冷静にボウルの中を見た。

「量はそこまで減っていない。買い直す必要はないだろう」
「そうだね、このくらいなら......ん?」

美月を見つめたままのジャジーと目が合う。
心なしか、瞳孔が細い。

「......ジャジー?なんで黙ってるの?」
「......俺の淫魔が内面で盛大に仕事してんだよ」
「今すぐ営業停止してください」
「くりぃむがどうしたのでござるか」
「鳳ほうは純粋なままでいて!」

紆余曲折を経て。

ようやく、譚生日ケーキは完成した。

「うわぁぁぁ美味しそ〜♡」

美月の目がキラキラと輝いている。

ジャジーが作った生地。
鳳ほうの立てた生クリーム。
癒凪ゆなぎの切った果物。

そして、畑で取れた野菜の数々。
相変わらず魚や肉はない。

美月の肩がわずかに落ちる。

「ここにお肉あれば最高なのにぃ......!」
「ぜってぇ譚生日に託つけて、食いたいもん食う日だろ」
「譚生日会です!主役は癒凪ゆなぎです!」

卓へ料理を並べていく。

美月が最後に取り出したのは、瓶だった。

「じゃーん!こんなのもあるよ♡」

ジャジーが首を傾げる。

「なんだそれ。御神酒おみきか?」
「ノンアルコールビール」
「......?」
「御神酒とはジャンルが違うよ。アルコール入ってない代わりにシュワシュワしてるよ」

鳳ほうが不思議そうに問う。

「美月殿が好まれていたのでござるか?」
「私お酒飲めない」
「じゃあなんでそれチョイスなんだよ」
「雰囲気!」

そして、四人で卓を囲んだ。

美月が嬉しそうに料理を眺める。

「ふふ。譚生日会だけど、なんか宴会って感じでいいね」

鳳ほうは穏やかに笑った。

「美月殿と縁えんある者達が、こうして円となり卓を囲む。確かに、宴うたげと呼んでよいものでござるな」

癒凪ゆなぎは、少しだけ居心地悪そうに目を伏せる。

「......私には、騒がしすぎる」
「慣れろ」
「慣れなければならないものが多い」
「じゃあ準備が整ったところで!」

美月は姿勢を正すと、歌い始めた。

人間界なら誰もが一度は聞いたことのある、誕生日を祝う簡単な歌。

ジャジーが目を細める。

「何だこれ。すげぇ気が抜ける」
「うむ。されど、不思議と心地がよいでござるな」
「ぜってぇあいつの能力乗ってんだろ」

癒凪ゆなぎが美月を見る。

「......美月の能力......」

ジャジーは頬杖をついた。

「幸せにしてぇって力だよ」
「......」

癒凪ゆなぎは黙った。

目の前の景色へ視線を向ける。

暖かく、明るい家。
卓へ所狭しと並んだ食事。
淫魔とハーピーが混じった男。
九千坊河童くせんぼうがっぱと僵尸きょうしが混じった男。

そして。

自分へ“癒凪ゆなぎ”という名を与え。
消えるはずだった道から強引に引っ張り出した、座敷わらしの先祖返り、美月。

ほんの少し前まで、こんな景色の中へ自分が座る日が来るなど考えたことすらなかった。

「......甘いな」

思わず呟く。

美月が歌を止め、癒凪ゆなぎを覗き込む。

「まだケーキ食べてないのに何が甘いの?」
「いや......なんでもない」

癒凪ゆなぎは、ほんのわずかに笑った。

縁えんは。
やがて円えんとなり。
その円は、食卓を囲む宴えんとなる。

それが今。

この家に生まれた、新しい“えん”の形だった。



第6章 縁から宴編 - 最終話
後編「“えん”」
→幕間「喧嘩祭り?」へ
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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜作者:桜桃
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第6章 縁から宴編 - 最終話 後編「“えん”」へ


すべてを聞き終えた頃。

美月は再び、ぱんっと手を叩いた。

「はい。じゃあ最後の議題、今後について!」
「切り替えが早いな」
「ちなみに、癒凪ゆなぎは今までどこで暮らしてたの?」
「......あの祠の近辺だ」

美月が固まった。

「......もしかして、ジャジーや鳳ほうと同じ野宿組?」
「そうだ」
「またホームレスパターン!」

美月は頭を抱えた。

「“ほーむれす”とはなんだ」
「家がない人!」

ジャジーが肩をすくめる。

「隠世かくりよの妖あやかしなんか半分くれぇそんなもんだぞ」
「うむ。家を持つ方が管理が難儀ゆえ」
「せっかく人間界の文明取り込んでいってるんだから合わせようよ!」
「数百年生きている者が、ここ最近の文化に合わせることは難しい」
「携帯使えないおじいちゃんみたいなこと言わないで!」
「......おじいちゃん」

癒凪ゆなぎの眉間が少しだけ深くなる。

美月はそんな様子など気にも留めず、ぽんと手を打った。

「じゃあさ」

そして。

「癒凪ゆなぎもうちに住めばいいね」
「言うと思った」
「うむ。予想通りでござる」

二人の反応が早い。
癒凪ゆなぎだけが、美月を見つめたまま黙っていた。

「......名まで貰ったうえ、住処まで世話になるわけにはいかん」
「いや、さすがに今回のことは私、空気読めるよ?」

美月は腕を組む。

「百之鬼モモノキさんが言ってたことをそのまま言うなら、名を渡すことは、“ともに生きてほしい”って言うことと同じなんでしょ?」
「......そう、だな」
「じゃあさ。“一緒に生きてください”って言った人が、“ただし住居まで貸す義理はありません”ってなるの、どう思う?」

ジャジーが顎へ手を当てる。

「お前が前に言ってた例えで言やぁ、プロポーズした相手に野宿続行を宣言するってことだな」

少し考えただけで、ジャジーの表情が露骨に歪んだ。

「......なんか、すげぇモヤモヤすんな......」

鳳ほうまで真剣な顔になった。

「命を救っていただいただけで、とんでもない恩ではござる。しかし......確かに、妙に消化不良を起こす状況でござるな」
「でしょ?っていうか、私が嫌だし」

癒凪ゆなぎはしばらく黙ったあと、静かに問う。

「お前は、それでいいのか」
「なんで?」
「私も、男だ」
「知ってるよ?」
「......」
「だから、畑仕事手伝ってね」

ジャジーが卓へ崩れた。

「だめだ。こいつ男を危険因子じゃなくて戦力としか見てねぇ」
「危険という感覚を狂わせたのは誰でござろうか」
「俺らだな」
「拙者も入るのでござるか」
「お前の節度、安心の権化なんだよ」

癒凪ゆなぎは三人を順番に眺める。

そして、小さく息を吐いた。

「......なら、それ相応に返さなければならないものがあるな」
「ふふっ。じゃあ今後はうちの農作業要員として返していってください」
「......なら」

一度、窓の外を見る。

祠のあった方角をしばらく見つめたあと。

癒凪ゆなぎは美月へ、ゆっくりと視線を戻す。

「......しばらく、世話になる」

そして、ほんの少しだけ、笑った。

「世界の疫病を扱ってた神から農作業要員とか、落差どうなってんだ」
「“天と地ほど違う”という言葉の物理でござるな」

癒凪ゆなぎは、ほんの少しだけ目を細めた。

「いい。むしろ、今までが“地”だったからな」

その一言で、全員は何も返せなくなった。

代わりに、少しだけ笑った。




―――その後。

改めて、全員の自己紹介が行われた。

人間として生まれた、座敷わらしの先祖返り、美月。

淫魔とハーピーの混血、ジャジー。
九千坊河童と僵尸きょうしの自主混血、鳳ほう。

「......」

自己紹介を聞き終えた癒凪ゆなぎが、妙に黙る。

美月がその横から、そっと癒凪ゆなぎの顔を覗き込む。

「気持ち、代弁していい?」
「......あぁ」
「濃い」
「正しい」
「いやお前もだぞ」
「私は総じて病の神だ」
「属性の数じゃねぇよ」

鳳ほうが真顔で頷く。

「うむ。明確な神格でござる」
「......九千坊河童くせんぼうがっぱというのも、神格ではないのか」
「そうとする伝承もあるでござるな」
「ジャジーもざっくりいえば悪魔だしね」
「こんな優しい悪魔いるかよ」
「自分で言うんだ」

美月は笑い、再び手を叩いた。

「さて!話も落ち着いたところで、お譚生日会の準備しますよー!」
「世界を揺るがす深刻な話が急に幼怪ようかいの保育室に落ちたぞ」

材料は、以前利用した異常妖稼働イジョーヨーカドーのネットスーパーで注文した。

「小麦粉と、卵と、生クリームと......凄い。人間界で使ってた食材は大抵ある」

ジャジーが小麦粉の袋を持ち上げる。

「粉なんか何に使うんだよ」
「水と練るのでござろうか」
「“けぇき”というものは粘土質なものなのか」
「家庭科知識が限りなく園児!」

そして、なぜか全員でケーキを作ることになった。

「癒凪ゆなぎは果物切ってくれる?」
「あぁ」

トン。

長い沈黙。

............トン。

「んおっそい!」
「刃を握るのは初めてだからな」
「じゃあ手は切らないように、そのままよろしく!」

次。

「ジャジーは卵を割っ......あ......」

美月の表情が、タブーに触れたかのような表情に変わる。

「同情の眼差し向けんな!共食いじゃねぇ!」

最後に鳳ほう。

美月は鳳ほうに生クリームの泡立てを頼んだのだが。

「......」

くーる。
くーる。

「鳳ほう、それ慎重すぎて一生泡立たないやつ」
「ならば、このくらいであろうか」

次の瞬間。

シャカシャカシャカシャカシャカッ!!

「んひゃいっ!」

飛び散ったクリームが、美月の頬や胸元へ点々とついた。

直後。

「......」

ジャジーが一切の動きを止め、美月を見つめたまま黙った。

「す、すまぬ!今清めるゆえ......!」
「あはは、大丈夫だよ」

癒凪ゆなぎは冷静にボウルの中を見た。

「量はそこまで減っていない。買い直す必要はないだろう」
「そうだね、このくらいなら......ん?」

美月を見つめたままのジャジーと目が合う。
心なしか、瞳孔が細い。

「......ジャジー?なんで黙ってるの?」
「......俺の淫魔が内面で盛大に仕事してんだよ」
「今すぐ営業停止してください」
「くりぃむがどうしたのでござるか」
「鳳ほうは純粋なままでいて!」

紆余曲折を経て。

ようやく、譚生日ケーキは完成した。

「うわぁぁぁ美味しそ〜♡」

美月の目がキラキラと輝いている。

ジャジーが作った生地。
鳳ほうの立てた生クリーム。
癒凪ゆなぎの切った果物。

そして、畑で取れた野菜の数々。
相変わらず魚や肉はない。

美月の肩がわずかに落ちる。

「ここにお肉あれば最高なのにぃ......!」
「ぜってぇ譚生日に託つけて、食いたいもん食う日だろ」
「譚生日会です!主役は癒凪ゆなぎです!」

卓へ料理を並べていく。

美月が最後に取り出したのは、瓶だった。

「じゃーん!こんなのもあるよ♡」

ジャジーが首を傾げる。

「なんだそれ。御神酒おみきか?」
「ノンアルコールビール」
「......?」
「御神酒とはジャンルが違うよ。アルコール入ってない代わりにシュワシュワしてるよ」

鳳ほうが不思議そうに問う。

「美月殿が好まれていたのでござるか?」
「私お酒飲めない」
「じゃあなんでそれチョイスなんだよ」
「雰囲気!」

そして、四人で卓を囲んだ。

美月が嬉しそうに料理を眺める。

「ふふ。譚生日会だけど、なんか宴会って感じでいいね」

鳳ほうは穏やかに笑った。

「美月殿と縁えんある者達が、こうして円となり卓を囲む。確かに、宴うたげと呼んでよいものでござるな」

癒凪ゆなぎは、少しだけ居心地悪そうに目を伏せる。

「......私には、騒がしすぎる」
「慣れろ」
「慣れなければならないものが多い」
「じゃあ準備が整ったところで!」

美月は姿勢を正すと、歌い始めた。

人間界なら誰もが一度は聞いたことのある、誕生日を祝う簡単な歌。

ジャジーが目を細める。

「何だこれ。すげぇ気が抜ける」
「うむ。されど、不思議と心地がよいでござるな」
「ぜってぇあいつの能力乗ってんだろ」

癒凪ゆなぎが美月を見る。

「......美月の能力......」

ジャジーは頬杖をついた。

「幸せにしてぇって力だよ」
「......」

癒凪ゆなぎは黙った。

目の前の景色へ視線を向ける。

暖かく、明るい家。
卓へ所狭しと並んだ食事。
淫魔とハーピーが混じった男。
九千坊河童くせんぼうがっぱと僵尸きょうしが混じった男。

そして。

自分へ“癒凪ゆなぎ”という名を与え。
消えるはずだった道から強引に引っ張り出した、座敷わらしの先祖返り、美月。

ほんの少し前まで、こんな景色の中へ自分が座る日が来るなど考えたことすらなかった。

「......甘いな」

思わず呟く。

美月が歌を止め、癒凪ゆなぎを覗き込む。

「まだケーキ食べてないのに何が甘いの?」
「いや......なんでもない」

癒凪ゆなぎは、ほんのわずかに笑った。

縁えんは。
やがて円えんとなり。
その円は、食卓を囲む宴えんとなる。

それが今。

この家に生まれた、新しい“えん”の形だった。



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