第3話 旅立ちの日(徒歩10分)
おっぱいメイドさんにお風呂に入れてもらった後、俺は緊張した面持ちで応接間に連れられている。
どうやら父母と対面するらしい。
家を大破壊したのだ。被害は部屋だけで済んだものの、一歩間違えれば家が壊れたり人死が出る可能性もあった。
......とてつもなく怒られるんだろうなあ。
とても陰鬱な気分だ。親に怒られるというのは久々だが、良いものではない。
自分が悪いとわかっていることなら尚更だ。これだけ大きな屋敷の家主なのだから、厳しそうだし。
「おぼっちゃま、落ち込まないでください。大丈夫です。お父様もお母様もとても心配なさっていると思います。怒られることなんてありませんよ」
そう言ってメイドさんが頭を撫でてくれる。専属の教育係とかなのだろうか、とても対応が手慣れている。
でもごめん、俺あなたの名前知らない......。
そう言っている間に応接間の扉までやってきた。やはりデカい。もしかして、領主とかではなかろうか?
「失礼いたします。ジークハルトおぼっちゃまのしつけ係、ドロシーでございます。おぼっちゃまをお連れしました」
え? 俺ハルトじゃなくてジークハルトだったの? そんな仰々しい名前なんだ......。
てかメイドさんドロシーって名前なんだ、かわいいね。覚えた。
「入りなさい」
想定したよりも若々しいバリトンボイスが響く。
扉を開けると、豪華な椅子に座っている若々しい男女が心配そうな目でこちらを見つめていた。
これが両親? 若いなー。
俺が5歳なら、そんなものかも。
「ああ、ハルト......! 無事だったのね」
女性の方がこちらに駆け寄って抱きしめてくる。綺麗な金髪の女性で、日本人にとって馴染みがない髪色に、ここが異世界なのだと改めて理解する。
「あ、えと......」
「こら落ち着きなさい。無事だとは聞いていただろう? だが、怪我もないようで良かった」
女性に駆け寄る若い男性は燕尾服のようなものを着ている。仕事の正装だろうか。
「あの......ごめん、なさい」
俺は怒られると思って、先に二人に向かって頭を下げた。すると、父親? の方は慌てた様子でされど穏やかな声色で俺に問いかけた。
「怒ってなんていないよ。本当に無事でよかった。ただ、一体何が起きたのか教えてくれないか?」
「えと......魔法を使おうとして、暴走してしまったんです」
俺は(おねしょのことは伏せつつ)掻い摘んで話した。すると両親とドロシーは揃って目をまんまるにして驚いていた。
「ま、まさか......この年で魔法を使えたというのか!?」
「なんてことなの......確かに、神父様はハルトにはとてつもない才能が眠っていると言われていたけれど......こんなに早いなんて」
どうやら俺の意識が定着する前の時点で才能の片鱗は見えていたらしい。転生における「辻褄合わせ」ということか。
「部屋がめちゃくちゃになったのも、お前に宿った魔力が桁外れだったからだろう。本当に怪我がなかったのは奇跡としか言いようがない」
魔力もかなり高くまでステータス振ったからな。
ちなみにカンストまで振ってしまうと魔族になってしまうと女神に言われたのでやめた。俺は人間として無双したいんだ。
「しかし......制御できないと困ります。当面は魔法を使うことを禁止しなくては......おぼっちゃまが危険です」
「うむ......私たちでは魔法を教えることはできないしな......」
父親とドロシーは二人してウンウン唸っている。ところで、そろそろ両親の名前が知りたいのだけど?
「そうだ。しばらくの間、ウェインウッド卿の所に預けよう。あの家は代々魔法の名門だ。ハルトの才能を見れば親身に教えてくれるに違いない」
展開が早い!
目覚めたと思ったらいきなり引っ越しって。
「いやよ! ハルトと離れ離れになるじゃない!」
「エリシア、のんでくれ。私たちの息子はいずれその才能が見出されて世界に羽ばたくことが決まっていた。旅立ちが早くなっただけだ」
ようやく判明。お母さんの名前はエリシアか。などと、他人事のようにこの寸劇を見ている俺。
だって愛着ないしなあ......。
「ハルトの部屋は無くなってしまったし、向こうにはちょうど歳が近い女の子がいるはずだ。ドロシーもついて行かせるし、承諾を得られれば問題はない」
歳が近い女の子。なるほどこれも転生ボーナスの効果だな。幼なじみと出会いを果たすわけか。
「でも......そのあとすぐに魔法学校に入学するでしょう? もう一緒にいられなくなるなんて......」
そう言って俺のことを強く抱きしめるお母様。
......なんて優しくてあったかいお母様なんだろう。そうだよな、我が子と離れ離れになるのは寂しいよな、やっぱり。
ふと、現実世界の両親のことを思い出した。25歳という若さで死んだ俺のことをどう思っているだろう。悲しんではいるんだろうな。
「......おとうさま、おかあさま」
5歳の子どもらしさを装いながら、俺は最大限の礼儀正しさをもって言った。
「ぼくは、しっかり勉強したいです。そのために、この家をでます。いままでそだててくれて、ありがとうございました」
そう言って頭を下げる俺。彼らは家を壊した俺を叱るでもなく心配して、そして未来のことを見据えた選択を考えてくれた。
間違いなく良い親だ。きっと今までも大切にしてくれていたに違いない。
「......私たち両親は仕事が忙しくて、あまり構ってやれなかった。それでも、親と言ってくれるお前は、とても良い子に育ったと思うよ。まだ正式には決まっていないが、向こうに行ったとしても、たまには帰っておいで。その時は仕事など放り出してでも一緒に過ごすからね」
「はい。ありがとうございます、おとうさま」
「まだこんなに小さいのに......立派に育ってくれてママは嬉しいわ。わたくしもパパと一緒に帰ってくるから、どんなことがあったか、その時にいっぱい聞かせてね」
「はい。いっぱい聞いてください、おかあさま」
ああ、なんで感動的な別れだろう。
俺は二人と過ごした記憶がないというのに。父親の名前に至ってはまだわからないというのに。誰か教えて?
「あのー......おぼっちゃまの成長は、たいへん喜ばしいんですけれど」
横で何やら困惑したような顔のドロシー。こんな場面でどうしてそんな顔をしているんだ。君はそんなに冷たい子だったのか!? 正直失望した!
「ウェインウッド様の住まいは......ここから歩いて10分くらいのところにありますよね?」
ドロシーが正しい。
そりゃそんな顔するわ! いつでも会えるやんけ!
「......」
微妙な空気。
「ううむ、まぁ早速、話をつけてこよう。すぐに帰ってくるからな!」
歩いて10分だしね。
こうしてトントン拍子に話が進み、俺はご近所のウェインウッド卿の家に今後お世話になり、魔法について教わるのであった。