第4話 いじめっ子は懲らしめなくちゃね
外行きの服に着替えて、ドロシーと手を繋いでウェインウッド卿の家へと向かった。
転生して初めての外。その空気と雰囲気をしっかりと観察する。
道は、舗装されているというより踏み馴らされた感じ。靴は何らかの革でできていて、靴の下から少し砂利の感触を感じる。ゴムのような素材は無さそうだ。
周囲の雰囲気は街というよりは村と言った方が近い。木々が道なりに連なっていて、市場とかそういうのはここから見渡す限りは見当たらない。
それでいて高級そうな家がちらほら建っているので、さしづめ「村の中の高級住宅地」って感じか。自分の家もその一つというか、一際大きかったのでやはり領主邸なんだろう。
建物は想像通り洋風のものばかり。ただし、レンガのような石素材ではなく、コンクリートのように見える素材だ。
だが、この世界にコンクリートみたいものはないだろうし、俺の知らない未知の素材かもしれない。
「おぼっちゃま、あまり壁を触るとばっちいですよ」
「あ、ごめんなさい。なんだか気になってしまって」
いけないいけない。あまり不審な行動をしては。転生したてで中身がすげ変わっているとバレると、とても厄介な気がする。
慎重にやらないとな。
そんな風にキョロキョロ見渡している内に、目的地に着いたようだ。
入り口ではすでに口髭の似合う男性と赤毛の女の子が男性の陰に隠れて様子を伺っている。
あの女の子が幼馴染になる子だろうか?
だいぶ引っ込み思案に見えるけど。
「ようこそお越しくださいました。私、ウェインウッド家で執事をしております、ウェールズと申します。家主のボールドがただいま外出しておりますので、私がご案内いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
「お招きいただき、ありがとうございます。私、ジークハルト・フォン・ルーデンフェルト様のお付きのドロシーと申します。このたびはアルベルト様の言付けで、ジークハルト様ともども、こちらに置いていただくこととなりました。どうぞよろしくお願いいたします」
フォン・ルーデンフェルト。
やっぱり侯爵だったのか。親ガチャSSRとんでもねえ。
あんまり良家すぎても後継の問題が起きそうなのだが......まあ今は考えなくていいか。
それより、これで両親の名前が分かって不安が取り除かれた。親の名前が分からないのはマズいもんな。
「そちらのお嬢様は、もしかして......」
「はい。こちらは当家ご令嬢のアリシア・ウェインウッド様でございます。アリシア様、ご挨拶を」
「............アリシア、です」
声ちっちゃ。
「申し訳ございません、お嬢様は大変引っ込み思案なもので......」
恐縮する執事さんの陰に隠れて縮こまっている女の子。どうも、引っ込み思案ってだけではなさそうな気がするんだけど......。
「早速屋敷の中へ案内したいところなのですが、こちらに来ていただいている先生がすぐにでもジークハルト様の魔法を見たいと仰いまして。午後には御用があって帰ってしまうとのことですので、まずは敷地内の修練場でお待ちいただきたく......」
修練場? 敷地内にそんなところがあるのか。
「あ、でしたら私はまずおぼっちゃまの荷物をお部屋に置いておきたいのですが、案内していただいてもよろしいでしょうか」
「そうですね。ではドロシーさんは私について来てください。アリシア様、お手数ですがジークハルト様を修練場へ案内差し上げてください。後でポピンズ先生をそちらに寄越しますので」
びくっ......と身体を硬直させる女の子。なんでそんな不安そうな顔してるのだろう。
執事の方も結構なスパルタのようで、オドオドしてるこの子を置いて、ドロシーと共に屋敷の中へと入っていく。
取り残される俺とアリシア。
気まずいなあ。
「......あの」
「......!(ビクッ)」
話しかけるだけでもダメかい??
「ぼく、なにかした......?」
「......(フルフルフル)」
勢いよく首を横に振るアリシア。よかった、近所だから実は記憶を失う前に知り合いで、てっきり何かやらかしたのかと。
「......女の子がくるって思ってたから」
「あー......」
なるほど。わざわざ入り口に来ていたのは、女の子の友達に会えると思って楽しみに来てたのだと。
だが来たのはオスガキで肩透かし。それどころかどうやら男の子が苦手そうと見た。
うーむ。これは困ったぞ。
「えっと、ぼくはジークハルト。5さいだけど、アリシアはいくつなの?」
「......6さい」
「じゃあひとつ上だね。年下なら、こわくない?」
「......少しは」
「そっか。とりあえず、修練場? にいきたいな。案内してほしい」
「(コクッ)......こっち」
そう言って、俺のだいたい2メートルくらい離れて歩き始めるアリシア。
うーん根深いなー。
一緒に暮らしていくにあたって、結構不安要素だったりする。どうにかならないものか......。
「おい、アリシア! そいつ誰だよ!」
修練場に向かう途中で突然大きな声が響き、アリシアがビククゥッ! と一際身体を震わせた。
ついでに俺もビクっとした。おどかしやがって、万死に値する。
「......ライル」
声のした方を見ると、そこには髪の毛がツンツンに立っている、少し年上っぽいクソガキが睨みつけてきていた。ああ、見た目でわかる紛れもないクソガキだこいつ。
「なんか生意気な目してんなお前」
わあ、因縁つけられた。ちょっと冷ややかな目で見ただけなのに。
「俺はポピンズ先生に魔術の才能をみとめられて、ここで住みながら弟子入りしてるんだよ。この先は魔法の修練場、お前は何の用でこっちに来てんだ?」
「......まほうを教えてもらいに」
ハッ......と鼻で笑うクソガキ。
「お前が? 俺よりチビのくせに。魔法使えんのかよ」
「......まだ」
まだコントロールできていないから「使えない」でいいだろう。
......もっとも、なんとなく出来る気がしているが。
「俺はな、もう既に魔法が発現出来るんだよ。こんな風に――な!」
「キャッ!!」
クソガキはあろうことか、アリシアの目の前で親指サイズの火を出した。アリシアは思わず尻餅をついて泣き出してしまう。
......ああ。そういうことかい。
「修練場には俺も行くからな! 俺の才能をお前に見せつけてやるよ!」
ニヤニヤしながらそう言って、修練場に駆け出していくライル。
お前がその気なら俺も考えがあるよ。
でもその前に。
「......だいじょうぶ?」
「うっ......ぐす。うえぇ......」
あー良くないな、本当に。
「大丈夫だよ、アリシア」
だから俺ははっきりと声をかけた。
「俺はアリシアをいじめたりしないし、あいつは俺が懲らしめるから」
「......?」
キョトンとするアリシア。よし、涙は止まったようだ。
さて、修練場はあっちかな。先生来てるといいんだけど。